第17章
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胸の奥で不安な気持ちがドンドンと叩く音がする。
祈りを込めたところで気休めでしかない。ダリューンの為でもあったが半分は自分の気持ちを落ち着かせるためでもあった。
ここへ来る前にダリューンに代わって自分が神前決闘に出ると申したが、彼に心配ないと頭をぽんと叩かれ、それ以上食い下がることは出来なかった。
しかしいざ決闘の場に来てみると相手はあんな大男であったし、勝てる自信は皆無だ。
この席からはただ彼の無事をひたすら祈る他ない。
両手を握りしめ、一瞬たりとも彼から視線を外すことなく。
「あれは人間ではないな。二本の足で立ってはいるが人間とは思えん。」
「人の皮を被った獣はどこにでもいるが、あれはまさしく猛獣じゃ。ダリューン卿は人間相手なら負けるはずもないが…、」
隣に座るアルスラーンを見ると、心配なほどに顔が真っ青になっているのでファランギースがそっと背中を支えた。
その間にもガーデーヴィは八つ裂きにしろ!と勝利を確信したように騒ぎ立てる。
「バハードゥルやれ!パルス人を八つ裂きにするのだ!」
こればかりは軍師ナルサスも打つ手がなく。
彼もただ黙って親友の勝利を祈るしかなかった。
バハードゥルの隙をついてダリューンが折れた剣を彼の頬に突き刺す。勝負あったかと思われたが、バハードゥルは怯むことすらせず右手でダリューンを殴り吹き飛ばした。
頬を突き刺されたのに平然と立ち尽くすバハードゥル。
まさしく猛獣で怪物だ。
倒れないにしても痛みはあるはずなのに。
「…バハードゥルは常人ではない。あの男は痛みを感じるこいうことがないのだ。」
ラジェンドラの知るバハードゥルという男。
どれほどの傷を受けようとも戦い続けるのだという。
相手が死ぬか、自分が死ぬか…。
「ダリューン卿を殺すまであの男は止まらない。」
ダリューンが、負ける…――。
口にするとさらに不安が込み上げ、吐き気がした。
エレンは震える手で胸元をきつく握りしめる。
「あなたは…。あなたはそれを知っていてダリューンに代理人を選んだのか…」
「アルスラーン殿…っ」
「知っていてダリューンにあんな怪物の相手をさせたのか…!?」
「お…落ち着けアルスラーン殿…」
「落ち着いてなどいられない!!」
アルスラーンがここまで怒りをあらわにしたことはなかった。
敵に対しても、味方に対しても。常に温厚な彼がダリューンの命の危機と知って強い怒りをラジェンドラにぶつけた。
「もしダリューンがあの怪物に殺されでもしたら、パルスの神々に誓ってあの怪物とあなたの首を並べてここの城門に掛けてやる!」
「――…っ、」
「誓ってそうしてやるからな!!」
ラジェンドラがこの幼い盟友がここまで感情を爆発させることなど想像もしなかっただろう。
お前の首を城門にかけると言われてもラジェンドラは言葉を返せなかった。それほどまでに怒りをあらわにした彼に圧倒されたからだ。
「落ち着きなされ。パルスのお客人。」
歓声がひしめく中で、シンドゥラ国王の声は静かに、しかしはっきりとアルスラーンのもとへ届く。
怒りで震えた手が冷えるように静まっていく気がした。
「ガーデーヴィが神前決闘の代理人を選んだのはラジェンドラより後のことじゃ。お客人の臣下は無双の勇者とか。勝てる者はおらぬか、考えあぐねての人選であろう。それほど敵から恐れられる臣下をご主君は信じておやりなさい。」
その言葉に頭が冷えたのか、正気を取り戻したアルスラーン。
シンドゥラ国王に向かって頭を下げる。
その様子を情けない、とガーデーヴィが笑うが国王は次に彼に向かって苦言を呈する。
パルスの王太子のせめて半分でいいから部下を大切に想う心があったならとっくに王太子に据えていた、と。
王は一人で王ありえぬ
臣下あっての王、だと。
「心得ておりますよ、父上。」
「…、だとよいのじゃがな…、」
果てして王の戒告はガーデーヴィに届いているのか。
いまだ決着のつかない戦いではダリューンが相手の顔に膝蹴りを食らわす。その勢いに一瞬倒れかけたが、なにせ痛みが無い男。ダリューンのはためくマントを掴み、彼を振り回すとそのまま地面に叩きつけ、そして斧で顔をめがけて斧を振るった。
ガァンと兜が破壊される音が響く。
誰もがその斧が当たったと思った。
しかし間一髪でかわしたダリューン。だが無傷とはいかなかった。
左の額をかすったのか出血し、目眩が彼を襲う。
今度はダリューンが倒れ伏す。
その姿に会場は一気に湧いた。決着の時、かと。
「ダリューン!」
「殺れバハードゥル!好きに斬り刻め!」
会場はダリューンを八つ裂きにすることを望んだ。
殺れ、と何度もコールが響きアルスラーンの声は彼には届かない。
私に万が一がありましたら…
お主に万が一があるのか?
ありませぬ。殿下をお守りするため億が一もありえませぬな!
なぜ、今、あの時のことを思い出したのだろう――…。
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