第15章
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「…ありがとうナルサス。でもこれで良かったのだろうか…。」
結果としてジャスワントは死ななかった。
それは殿下の心の影を消した。しかしそれが将来にとって良かったかどうかはわからない。
「正直、お甘いと思います。ご自身の責任の大きさは自覚しておられますかな?」
ジャスワントを逃がすことを賛同したもののナルサスは殿下に厳しい言葉を突きつける。
「…。わかっている。ジャスワントを助けたとしても将来恩を仇で返さないとは限らない。それによって私の大切な部下たちに禍災が降りかかるかもしれない。」
正直な気持ちを話す殿下の言葉にナルサスは満足そうに頷いた。
ただ自身の権力を振りかざすだけの主君ではないとわかったから。
「わかっておられるのなら問題ありません。あとはこのナルサスめが全力で殿下と皆を守る策を立てるだけでございます。」
「ありがとう。」
『ナルサス様はなぜジャスワントが裏切ると思われたのですか?』
城壁へ上がろうとするアルスラーン殿下とナルサス、ダリューンとともにエレンも同行しながら疑問をぶつけた。
「いや。彼が必ず裏切るという自信は私にはなかった。」
「ではなぜ?」と続きを問うアルスラーン殿下にナルサスは自信たっぷりで答える。
「ただ、幾通りもの策を練っておきましたので、今日その一つが活かされたにすぎません。」
『ジャスワントが裏切る可能性もそのうちの一つにすぎなかったと?』
「いかにも。私がまず考えたのはジャスワントが裏切った時と裏切らなかった時の二通りの対処法。さらにジャスワントがラジェンドラからの刺客であった場合と単なる案内人であった場合。」
さらにガーデーヴィ陣営からラジェンドラ陣営に潜入した間者であった場合。
――この三つの状況だ。
そこからさらにジャスワントがガーデーヴィの間者であったとして、
ラジェンドラがそれを知っていた場合と、知らなかった場合。
「などなど。思いつく限りの状況を設定し、それぞれに対処法を考えておりました。今回はそのうちの一つを使ってみただけにすぎません。」
「なるほど。」
はー…、といつもながらにナルサスの策略には感心させられるものである。
『それぞれの対処法…、か。』
思い当たることがあるのか、一人考え込むエレン。
「右か左か、というやり方はナルサス流ではございません。各方向それぞれの行末について考えておくのが私のやり方です。…というわけで、エレン。」
『はい?』
「お主も頑張って覚えるのだぞ。」
『何をです。』
「なにを、とは。アルスラーン殿下がダリューンの剣の弟子ならばお主はこのナルサスの知恵の弟子だろう。」
ん?初めて聞いたぞ。
『あぁー!だからペシャワールで私をこき使っていたのですね!?』
「なんだ。今更気づいたのか。」
『昨日も私の使い道がわかってきたとかどうとかっ。』
目の前で繰り広げられる口喧嘩にアルスラーンとダリューンは笑ってみていたのだった。
「お主はサーム殿の城の攻防の知識を吸収するだけの技量があるとわかったのだからな。教え甲斐があるというもの。覚悟してくのだぞ。」
『えぇー…。』
嬉しそうに笑うナルサスとは違い、素直に喜べないのはなぜだろう。
ペシャワールに帰れば、またあの鬼のように執務を押し付けられる日々が来るのだろうか。
考えるだけで胃が重くなる気がした…。
『ところで、殿下。なぜジャスワントを解放したのですか?』
「いや…、深い意味はない。ただ…、アズライールが懐いていたから…。」
『…。』
「それに、カーラーンのことを思い出してしまってな…、」
『カーラーン様…、エクバターナで負傷し伏せっているときにアルスラーン殿下を捕らえに行くと直前で会いました。…カーラーン様に会ったのがそれが最後でした。』
「そうか…。」
“パルスを裏切ったのではなく、シンドゥラに忠誠を尽くしただけのこと。”
“おぬしの命令は聞けぬ!”
“裏切りに加担せねばならぬ理由があったんだと思う”
「カーラーンが何に忠義を立てていたかはわからないが、私を《あわれな王子》と呼び、《何も悪くないが》と前置きの上で命を取りに来た。」
『殿下…。』
「今落ち着いて思い出してみるとそこにカーラーンの誠実さと悲しさがあった気がする。ジャスワントにも似たものを感じたのだ。」
『命まで失ってほしくなかった、と?』
その言葉にアルスラーン殿下は少し悲しそうに微笑むのだった。
第15章・完 2025/09/10
結果としてジャスワントは死ななかった。
それは殿下の心の影を消した。しかしそれが将来にとって良かったかどうかはわからない。
「正直、お甘いと思います。ご自身の責任の大きさは自覚しておられますかな?」
ジャスワントを逃がすことを賛同したもののナルサスは殿下に厳しい言葉を突きつける。
「…。わかっている。ジャスワントを助けたとしても将来恩を仇で返さないとは限らない。それによって私の大切な部下たちに禍災が降りかかるかもしれない。」
正直な気持ちを話す殿下の言葉にナルサスは満足そうに頷いた。
ただ自身の権力を振りかざすだけの主君ではないとわかったから。
「わかっておられるのなら問題ありません。あとはこのナルサスめが全力で殿下と皆を守る策を立てるだけでございます。」
「ありがとう。」
『ナルサス様はなぜジャスワントが裏切ると思われたのですか?』
城壁へ上がろうとするアルスラーン殿下とナルサス、ダリューンとともにエレンも同行しながら疑問をぶつけた。
「いや。彼が必ず裏切るという自信は私にはなかった。」
「ではなぜ?」と続きを問うアルスラーン殿下にナルサスは自信たっぷりで答える。
「ただ、幾通りもの策を練っておきましたので、今日その一つが活かされたにすぎません。」
『ジャスワントが裏切る可能性もそのうちの一つにすぎなかったと?』
「いかにも。私がまず考えたのはジャスワントが裏切った時と裏切らなかった時の二通りの対処法。さらにジャスワントがラジェンドラからの刺客であった場合と単なる案内人であった場合。」
さらにガーデーヴィ陣営からラジェンドラ陣営に潜入した間者であった場合。
――この三つの状況だ。
そこからさらにジャスワントがガーデーヴィの間者であったとして、
ラジェンドラがそれを知っていた場合と、知らなかった場合。
「などなど。思いつく限りの状況を設定し、それぞれに対処法を考えておりました。今回はそのうちの一つを使ってみただけにすぎません。」
「なるほど。」
はー…、といつもながらにナルサスの策略には感心させられるものである。
『それぞれの対処法…、か。』
思い当たることがあるのか、一人考え込むエレン。
「右か左か、というやり方はナルサス流ではございません。各方向それぞれの行末について考えておくのが私のやり方です。…というわけで、エレン。」
『はい?』
「お主も頑張って覚えるのだぞ。」
『何をです。』
「なにを、とは。アルスラーン殿下がダリューンの剣の弟子ならばお主はこのナルサスの知恵の弟子だろう。」
ん?初めて聞いたぞ。
『あぁー!だからペシャワールで私をこき使っていたのですね!?』
「なんだ。今更気づいたのか。」
『昨日も私の使い道がわかってきたとかどうとかっ。』
目の前で繰り広げられる口喧嘩にアルスラーンとダリューンは笑ってみていたのだった。
「お主はサーム殿の城の攻防の知識を吸収するだけの技量があるとわかったのだからな。教え甲斐があるというもの。覚悟してくのだぞ。」
『えぇー…。』
嬉しそうに笑うナルサスとは違い、素直に喜べないのはなぜだろう。
ペシャワールに帰れば、またあの鬼のように執務を押し付けられる日々が来るのだろうか。
考えるだけで胃が重くなる気がした…。
『ところで、殿下。なぜジャスワントを解放したのですか?』
「いや…、深い意味はない。ただ…、アズライールが懐いていたから…。」
『…。』
「それに、カーラーンのことを思い出してしまってな…、」
『カーラーン様…、エクバターナで負傷し伏せっているときにアルスラーン殿下を捕らえに行くと直前で会いました。…カーラーン様に会ったのがそれが最後でした。』
「そうか…。」
“パルスを裏切ったのではなく、シンドゥラに忠誠を尽くしただけのこと。”
“おぬしの命令は聞けぬ!”
“裏切りに加担せねばならぬ理由があったんだと思う”
「カーラーンが何に忠義を立てていたかはわからないが、私を《あわれな王子》と呼び、《何も悪くないが》と前置きの上で命を取りに来た。」
『殿下…。』
「今落ち着いて思い出してみるとそこにカーラーンの誠実さと悲しさがあった気がする。ジャスワントにも似たものを感じたのだ。」
『命まで失ってほしくなかった、と?』
その言葉にアルスラーン殿下は少し悲しそうに微笑むのだった。
第15章・完 2025/09/10