第14章
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キシュワードと話した後も慌ただしく遠征の準備に追われ続け、気づけば出発の日を迎えた。
甲冑姿に身を包んだエレン。
愛馬・ヴァナディールの首を撫でていると、そこへ一人の男性を連れたキシュワードが彼女のもとに訪れる。
約束していた彼の信頼のおける部下の人だ。
背丈はギーヴくらいで体格は彼より少し細身。少し癖のある黒髪は肩より短く、黒曜石のような漆黒の目がパルス人には珍しく、エレンがじっと見つめているとふいっと反らされ「セリカの出身ですので。」とぽそりと呟いた。
「ダリューンのような剛勇ではないがよく動く男だ。お主の身に何かあれば迅速に対応出来るだろう。」
「セトと申しますエレオノール様。どうぞよろしくお願いします。」
しっとりと落ち着いた声の持ち主のセトは愛想が無くエレンから見ても好印象、とは言い難いが上司に似て根は真面目そうな雰囲気を感じた。
エレンも彼に軽く頭を下げた。
『こちらこそよろしくお願いします。私のことはどうぞエレンとお呼びください。気遣いも不要です。その方が有事の際によいかと。』
「……。」
数秒の無言。にこやかに笑って見せたのだが、返ってこない彼からの返答につ…と汗が流れた。
いきなり馴れ馴れしかっただろうか、と考えたがセトは数秒の間を空け、最終上司であるキシュワードに助けを求めた。どうすればよいか、と視線を込めて。
「お主のやりやすいようにやれば良い。エレンはこう申しておるしセトがそれでも気にしないのならな。」
「…。わかりました。では、エレン様とお呼び致します。」
セトの返事にエレンは嬉しそうに笑った。
『はい。遠征の間よろしくお願いします。なるべくご迷惑にならぬよう善処いたします。』
「ではそのように。よろしくお願いします。」
社交辞令で言ったつもりだったのだが、真面目に返されてしまった。出会ってほんの数分だがエレンはセトという人物がどんな人かわかり始めてきたのだった。
『(めったにいない真面目タイプ。)』
少なくとも自分の周りにはいないタイプだ。
…真面目な人といえば父上が浮かんだのだが、あの人はあれで結構私をからかったりする…。
キシュワードが殿下に挨拶してくると言いセトを置いてその場を離れた。去り際、頼まれていた新しい甲冑は遠征途中で完成したら届けるよう手配すると言ってくれた。
そういえば勝負に勝ったのでキシュワード様がエレンに新しい甲冑を作ると約束してくれたのを思い出す。出発にはついぞ間に合わなかったのだが『楽しみにしています。』とエレンが言う。
「甲冑ですか?」
『えぇ。キシュワード様に勝負に勝ったのでその褒美として私の新しい甲冑を用意してくださると約束したのです。』
「そうですか。」
質問に答えたのにセトはそれ以上問うては来なかった。うん、難しい人。
『ごめんなさい。』
「何をですか?」
不意の謝罪にセトは不審げに顔をしかめた。
これが彼なりの"不要な気遣いは無し”なのだろう。
『私のせいであなたに面倒を押し付けてしまったから。』
「…。別に、任務ですから。あなたが気にすることではないかと。」
セトの感情が読めなかった。
その言葉が本心からなのか、気を使ってなのか。
エレンは苦笑いする。
『嫌になったらいつでも言ってください。すぐにあなたをペシャワールへ帰す手配をします。』
セトは何かを言おうと口を開いたが結局なにも言葉にすることはなく。ふいと顔をそらしたまま、「気にしないでください」とだけしか彼は言わなかった。
セトはキシュワードからエレンの詳しい事情を聞かされてはいなかった。ただ、身の安全を第一に護衛して欲しいとだけ。俺から話せることではない、もし知りたいのであればそれは彼女の口から直接聞いて欲しいとだけ。
「(厄介、なことになりそうな予感がする。)」
しかし任された任務。
断ることも放棄するこも彼の中にその選択肢は存在しなかった。
…エレンの見立て通り真面目一徹である。
エレンがなんとかしてこれからずっと行動を共にするセトと打ち解けようと模索してた最中、ふと視線を感じた。それは彼も同じようで。…正しくは彼女に向けられる視線に気づいたのだが。
その視線の先にいたのは数名の侍女。
エレンがこちらを向いたことで「きゃっ」と一度は廊下の柱の影に隠れてしまう。だがまたすぐに出てきてちらちらとエレンに視線を送っていた。
「ほら、今がチャンスよ。」
「うぅ…、でも、」
「今行かなかったら数ヶ月は会えないのよっ。」
ほら、と仲間の侍女に背中を押されて飛び出て来たのは数日前廊下でぶつかった侍女だった。おずおずとエレンの方へ歩み寄る少女。
目の前までやってくると「あの…、」と虫の鳴き声のようなか細い声で話しかける。
『あなたは前に廊下で…、』
「は、はい。この間は助けていただいてありがとうございました。」
『いいえ、こちらこそごめんなさい。…それで私に何か用かしら?』
かっ、と一気に侍女の顔が赤く染まる。
ぱくぱくと動く口。何かを話したいようなのだが緊張して肝心の言葉が声にならない。
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