第14章
夢小説設定
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「そこに座ってくれ。」
『はい。』
促された場所に腰掛けたエレン。
ここはキシュワードの執務室兼自室。
机の近くには止り木があり、アズライールが羽を休めていた。部屋にやってきたのがエレンだとわかると興味なさそうに開いた目を再び閉じた。
以前、殿下がピンチを救ってくれたことへのお礼にと肉を持って来てくれたときはあんなに喜んでいたのに。この娘はとことん生き物には好かれぬ性分のようである。
『それで、お話ってなんでしょうか?』
「うむ。」
向かいの席に腰を下ろしたキシュワード。
本題に入ろうかということでその顔は何か覚悟を決めたかのような真剣なものへと変わった。
「先日のお主の話をずっと考えていた。聞いた上でこの先俺がどうするべきかを。このペシャワール城を任された身として、また一人のパルス騎士として、な。」
『はい。』
エレンはキシュワードの真剣な表情の理由を悟った。
「生まれは隠せど、お主はパルスの正当な王女殿下だ。エレオノールとして生きたいという"王女”としてのお主の意思は尊重するつもりだ。だが…、」
『……。仰ってください。他ならぬキシュワード様のお言葉です。聞かせてください。』
その先を言葉にするのに少し時間が必要だった。
ナルサスやダリューンはエレンをエレンとして受け入れるのにそう時間は必要なかった。
だが彼は違った。彼は代々パルス王家に仕える生粋の武人。目の前にいるのが王家の血を引く者ならば膝をつくのが道理。しかしエレンはそれを望んでいない。その矛盾が葛藤しキシュワードという人物の中で巡り、悩ませる。
その矛盾した感情の答えを出すのに1日がかりで悩みに悩んでようやく己の心を決めることが出来た。
だからそれを彼女に伝えに来たのだ。
「お主がエレンとして生きたいという意思は俺も尊重する。…だが、この遠征中考えておいて欲しいことがある。」
『何でしょう?』
「俺は代々から続く武家の家柄だ。万騎長になるのも当たり前だと思っている。…多少の葛藤はあったがな。」
『キシュワード様が?』
「俺も若かったからな。その道しかないと気づきショックでもあった。だがなその通りなのだ。俺は武家の家に生まれた男。…生まれは選べない。変えられないのだ。」
『――っ!』
エレンの表情が強張った。
なんとなく彼が伝えたいことがわかってきたから。
「だから俺は万騎長になるという道を受け入れた。お主もだ。…生まれは変えられぬ。…そう遠くない未来、アルフィーネ王女殿下として生きることを受け入れなければならぬ時が来るかもしれん。」
生まれは、変えられない。
その言葉がエレンに重くのしかかった。
彼は決して私を追い詰めたい、とかそんなことをしたくて言ったんじゃない。
わかっている。
この先の私のことを考えて助言してくれただけに過ぎない。
『……。』
「もしそうなった時、俺はこの城でアルスラーン殿下と同様にお主を王女殿下として仕え、お守りするつもりだ。その覚悟を決めた。」
『キシュワード様…、』
「この遠征中、考えてはくれぬか。」
そうならねばそれでいい。それだけのこと。
しかし万が一、ということもある。もし周りにエレンがアルフィーネ王女だと知られた時、ある程度の心の準備というものがあれば出来る対応もあるはずだ。
『…わかりました。そのお言葉、よく考えておきます。』
「すまんな。俺の意思をお主に押し付けたようで。」
『いいえ。むしろありがとうございます。私の事を考えてくださったんですよね。』
「い、いや、俺は…、」
ふわりと微笑んだエレンにめずらしくそっぽを向いたキシュワード。
貴重な場面を見てしまった。
「本当であれば遠征も行かずに城に残って欲しいのだが、やはり行くのだな?」
『はい。そのつもりです。』
揺るがない決意に最初からわかってはいたが一度くらいは交渉したかった。結果は案の定だったが。
はぁ、とひとつため息をつくキシュワード。
「ではせめて俺の信頼する部下を一人、お主の側においてやってくれ。」
『そ、それは…、』
「遠征に参加することはもう止めぬ。だがお主の身を第一に護衛する者を一人つける。それで互いの合意としようではないか。」
『わかりました…。』
エレンの顔が納得のいかない表情が見え隠れしていた。
その護衛兼補佐になる者のことは周りには家人とでも言ってくれ、とキシュワードは言う。
なんの地位も持たないエレンが専属の護衛を連れ歩いていては怪しまれるかもしれないからだ。
こうしてようやく準備が整ったところでシンドゥラ国への遠征の日がやってきたのだった。
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