第13章
夢小説設定
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あなたは自分に力がないと蔑むけれど、私達はそんなこと欠片も気にしたことがない。
殿下にとっての“王”はアンドラゴラス陛下のみだった故、それが正しい王の姿と思ってしまうのも仕方がないのかもしれないけれど。
アルスラーンはいつも家臣である私達に感謝の言葉を述べる。それが彼にとって当たり前でも普通の貴族や王族はそんな言葉を簡単に述べたりしない。
だから私達はあなたのことが大好きなのだ。
「…ありがとう。」
偽りの欠片も感じないエレンの言葉にアルスラーンはじんわりとした喜びと照れが湧き出した。
握りしめてくれるエレンの手のひらをアルスラーンもぎゅっと握り返す。込み上げてくる感情と涙をなんとか堪えながら。
そんな殿下の声を扉の向こうで待つダリューンの耳にも入り、小さく笑みを溢したのだった。
「ダリューン。」
「!、キシュワード殿。」
殿下の部屋の前で立ち、小さく笑う男を少し不審に思いながらやって来たのはキシュワード。
そこで何をしているのだ?という質問に部屋の中にエレンがいるとだけ言うと何かを察したのか、なるほどとキシュワードは頷いた。
扉の前で立つ男二人の耳に中の会話がさらに続けられる。
『一つ、お聞きしてもよろしいですか?』
「なんだ?」
『…殿下はなぜ、奴隷の解放を望まれるのですか?』
「――。」
彼は優しい。
だが殿下にとって元奴隷であるエラムの存在だけが奴隷を解放したいという理由だけでは無いはずだ。
アルスラーンはエレンの問いにふと三年前の事を思い出した。
あの場にはたしかエレンもすこし居合わせたはず。
「エレンは覚えているか?三年前、エクバターナで私が捕虜になった少年兵に連れ回されたことを。」
『…、そのようなこともありましたね。懐かしいです。』
「ははっ。…あの時はあの少年兵から外の…パルスの外の国の話を聞かせてもらったんだ。知らないことばかりで面白かった。」
『殿下…。』
人の気も知らないで。
あのときは私もダリューン様も本当に肝が冷える思いだったというのに。それを理解しているからかアルスラーンも申し訳無さそうな表情を見せた。
「その時、少年兵が言ったのだ。」
『なにをです?』
“人は皆、平等だ!!”
人差し指をアルスラーンの額に突きつけ、真っ直ぐに彼はそう言った。その言葉が三年経った今でも忘れられず鮮明に覚えている。
『人は皆、平等…、』
「あぁ。…だから私は次に彼に会った時胸を張って会えるようにしたい。」
『殿下…、』
彼は人の言葉を聞くことの出来る人だ。
エレンはそれが嬉しかった。それは民や家臣の声に耳を傾けることの出来る力だから。
『(誰にでも出来ることじゃない。)』
「エレンはどうして奴隷の開放を望むのだ?」
『え?、私ですか?』
心の中で小さく笑うエレンにアルスラーンは同じ問いを返す。まさか同じ質問をされるとは思わなかった。そういえば私も殿下の前で奴隷を解放したいと言ったのだった。
エレンはふと幼い頃の記憶が頭の中で蘇る。
『私が奴隷解放を望む理由は…、』
それは…、
『…、それは私が"元奴隷”だからです。』
「ぇ…、」
「「――…っ、」」
その言葉はアルスラーンだけでなく扉の向こうで待つダリューン、キシュワードの耳にも届く。思いもよらない秘密を明かされたことでつい小さく息を吸った。
「お主が、…元奴隷…っ?」
『…はい。私の父であるサーム様は奴隷商人から私を引き取りご自身の娘にしてくださったのです。』
十六年前、王宮での火事が起きた時ヴァフリーズによって救い出され、その後城下を彷徨っていた所をたちの悪い奴隷商人に捕まった。夜中に一人でふらふらとうろついている子供に親などすでにいないと思ったのだろう。奴隷商はその容姿から高く売れるとエレンを奴隷として商品にしたのだ。
檻の中で小さくうずくまる私の前に彼は現れた。
背中の火傷の傷もろくに手当されず死にかけていた私をサームは買い取った。
そして自由民にし、自分の養子にしたのだ。
『私は運がよかった…。私の他にも奴隷として売られている人達は大勢いましたから。そんな中でサーム様は私を選んでくださった。本当なら喜ぶべきなのでしょうね。…ですが、』
「…?」
『私は、素直に喜べませんでした。ただそこから逃げ出しただけ。自分だけが安息の場所を得られてもただただ辛いだけでした。名前も地位も国も民も全てを失った私に残ったのは苦痛だけ。息をするたびに肺が焼けるように痛くて、罪悪感に苛まれるだけ。』
これは償い、とも言えるだろう。
奴隷の解放は元奴隷であった私こそがやらねばならいなことなのだ。
他の奴隷達を救うのは、奴隷から解放された私が背負うべき宿命。王女として生まれた私の使命だ。
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