第3章
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シャプールの死を皮切りにルシタニア軍は一斉攻撃に仕掛けてきたのだった。
破城槌で城門を攻撃し移動式の高台から矢で一斉に攻撃をする。
これに対しパルス軍も負けじと応戦する。このまま籠城戦が続けば不利なのはルシタニア兵だ。パルス軍の兵糧が尽きることは万が一にもない。
ゆえにルシタニア軍の勢いは熾烈を極めた。
『弓兵隊、放てー!』
おびただしい矢がルシタニア軍に降り注ぐ。
しかし向こうも負けじと矢を放ち、外堀をいかだで固定しハシゴをかけようとしてくる。
その上からエレオノールは矢を放ち上がってくる兵士を射落とす。しかし落としても落としても次々と登ってくるルシタニア兵に嫌気が差してくるころ、日は沈みやがてルシタニア軍の一斉攻撃は止んだのであった。
城壁や城外にはおびただしい死体の数々。
果たしていつまでこのようなことが続くのであろうか。
人知れず深いため息を吐くエレオノール。
槍を手に城壁に座り込む娘のもとにサームがやってくる。
「エレンよ。」
『!父上…。』
その声にいつもの覇気はなく、疲れ果てていることが容易にわかる。娘のその姿にサームは心を痛めるのだった。
しかしそれも無理からぬ事。
アトロパテネにおいての我が軍の敗走もしかり、シャプール殿のこと。そして城壁での戦い。心配事が重なり心労が耐えぬであろう。
見かねたサームはエレオノールにこういった。
「お前は一旦王宮内の警備につけ。ここは私が守備する。」
『!父上!私なら大丈夫ですっ。』
「今日戦った兵士も一旦下がらせ、別の部隊を配置する。お前一人が気に病むことはない。」
『父上…、』
ぽんと肩に手を置き、苦労をねぎらうサーム。
その言葉に張り詰めていた糸が切れたかのようにエレオノールは肩の力を抜いた。
『わかり、ました…。』
しかしその翌日もルシタニアは卑怯な手口でエクバターナに襲いかかる。
城壁の警備から王宮内への警備に移動になったエレオノールのもとにもその声は届いた。
おそらくは王妃様のお耳にも届いていることだろう。
その様子をエレオノールは王宮のテラスから見ていた。
「城内の奴隷たちよ!立ち上がれー!」
「自由を手に入れろー!」
「お前たちの島に、搾取するパルスにいつまで頭を垂れているのかー!」
『あれは…っ。』
力では門を破ることが出来ないと悟ったルシタニアが思いついた作戦だった。外から門を開けることが敵わないのなら、内側から開けてしまえば良い、と。
すいぶん頭の切れるものがあちら側にいるようだ。
「城内の奴隷たちよー!イアルダボート神の元に万人は平等であるー!」
「ルシタニアに協力するものには自由民の権利と財産を与える!」
「奴隷たちよー!圧制者を打倒しろー!」
その言葉に最初は見向きもしなかった奴隷たちであったが、ルシタニアが語りかけるごとに奴隷たちは立ち止まり耳を傾け始めたのだ。
「平等…、」
「自由…、」
「圧制者を…、」
奴隷たちよ、立ち上がれ。
圧制者を打倒せよ。
* * *
結局その日ルシタニアが攻撃を仕掛けてくる様子はなく一日城内の奴隷たちに向けて、圧制者を打倒せよ。と訴え続けたのだった。
その翌日はさらに精神的攻撃を仕掛けてきた。
なんと城外に並べられたのは討ち死にした万騎長方。…その御首である。
その報告を受けエレオノールは急いで城壁へと駆けつける。
『父上!』
「エレン!よせ、見るなっ!」
『…!』
サームの制止も時すでに遅し。
それらを目にした瞬間、身体が震え上がった。
「おのれルシタニアめ…、」
万騎長マヌーチュルフ、
万騎長ハイル、
大将軍ヴァフリーズ――。
『あ、あぁ…、』
ヴァフリーズ、様…。
『そんな…、』
数日前まで城内でアルスラーン殿下の稽古の相手をしていたヴァフリーズ老の姿が蘇る。そして、変わり果てた姿に身体の震えがおさまらない。ヴァフリーズ様の無惨なお姿に次に思い浮かべるのはダリューン、その人。あのお方はヴァフリーズ様がこうなったことをご存知なのだろうか。いや、そもそも生きておられるのだろうか。
どうか神よ。
生きておられるのならどうかお守りくださまし。
もはや祈る他ならない。
その凶報は王妃様の耳にも届き。
その御首の中に国王陛下のものはなく、しかしながらルシタニアのこの精神的攻撃は間違いなくパルス軍の士気を落とすことになった。
半数以上の腕に覚えのある万騎長が打たれたのだ。
いったい誰がこの窮地を逆転出来ようか。
日に日にルシタニアの言葉を真に受け、謀反を起こす奴隷たちが跡を絶たず。城内の兵士たちはその対処に手一杯であった。
次から次へと門を開けようと奴隷たちが城門へ集まり、それらを兵士が圧制するの繰り返し。
次第に奴隷たちは牢から出されなくなり、そうなればもちろん仕事は進まず。
パルス自慢の交易も停滞していった。
奴隷たちの反乱に頭を痛めた父・サームは王妃様に謁見し、奴隷たちに恩賞を与え一時的にでも不満を和らげるべきだ、と進言した。
そんなことをすればパルスの社会制度が揺らぐ、と王妃は反対したがサームは、敵はその社会制度を狙っているのだと断言する。
頭を悩ませる王妃。結局その場でははっきりと申さなかったが、考えておくとだけ言われサームはその場を辞した。
『父上。』
「エレンか。」
謁見室に向かった父をエレンは待っていた。
『王妃様はなんと?』
「うむ…。奴隷たちへの恩賞の件については考えてくださるそうだ。」
『そう、ですか…。』
考える、か…。
正直そんな時間も余裕ももう無いのだが。
戦地に立たぬものは戦場のことなどまるでわからないものなのだな…。
「とにかく城内の奴隷たちと城外のルシタニアは我々で食い止める。お前は王宮内の警護にあたれ。ここは任せたぞ。万が一のことがあれば王妃様を城外へお連れするのだ。」
『父上!』
娘の抗議に有無を言わさず、立ち去る父にエレンはそれ以上はなにも言い出せず。せめて父のそばで戦いたかった。そんな思いも虚しく。
その夜。静まり返ったエクバターナ城内。
ルシタニア勢は夜陰に乗じて総攻撃を仕掛けてきたのだった。
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