第12章
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「一つ聞いても良いか?」
『なに?』
両手を頭の後ろで組み、空を見上げながらギーヴは問うた。
「お主の話だとまるでエレン殿は王女に戻りたくない、という風に聞こえてくるのだが。」
『…。』
エレンは彼の指摘に顔を伏せる。
王女としてではなく[#dn=1]として接してほしい。エレンはそういった。
ギーヴにはそれがまるで王族の人間に戻りたくない、と言っているように聞こえたのだ。
エレンも周りの人にはエレオノールとして接してほしいと言ったがその本心は王族に戻りたくないというのが自分でも気づいてなかった。
指摘された初めて気づいた。
『(エレオノールとして接して欲しいというのは本心。…けれど王族に戻りたくないというのも…私の…)』
…本心?
私は王族に戻りたくなかった?
その言葉がすとんと胸に落ちた。
『ギーヴの言う通りだね。私、王族に戻らなくていいんじゃなくて、戻りたくなかったんだ。』
「…。」
ギーヴは黙って聞いてくれた。
『王室女性の人生なんてつまらないものだもの。いくら才能の溢れていても、美しい容姿と従順な態度だけを求められ、あげくどこぞの好色家と結婚させられて家門の威厳を高めるだけの人生…。そんな人生、私はうんざりだわ…。』
愚痴ともいえるエレンの本音に思わずギーヴは声を出して笑ってしまった。
「はっはっ…!」
『そ、そんなに面白かった?』
「いや、すまんっ。エレン殿の人間らしい所を見れたのでついなっ。」
『人間らしい、て。ギーヴは私を何だと思ってたのよ。』
「そうだな…、強いて言うなら己の意思が無い心まで人形のようだ、と思っていた。」
『そんな風に見えた?』
不安そうに見上げてくるので昨日まではな、とギーヴが付け足したことで今は違うのだと理解したエレンはほっとした表情を見せる。
初めて会った時の憂いを帯びた表情も良かったが、抱えていた不安が消えたことで変わった安心した表情にこちらの方がぜんぜん良いな、とギーヴは一人頷くのだった。
そろそろ城内へ戻ろうと歩き出す。
ギーヴがシンドゥラ国には美女が多いとラジェンドラ王子に言われたのですこしそわそわしていたことがエレンは面白かった。
彼の美女への賛美歌は世界共通らしい。
ナルサスの所へ行くと言ってギーヴと別れたエレンは先程の冒頭に繋がる彼の部屋へと押し掛けたのだった。アルフリードが知ればヤキモチを焼かれてしまうだろうか。
押し掛けて遠征準備に忙しいナルサスはエレンの訪問を邪魔そうにした。なんせ惚気話をしにきたのだから。
「お主、暇なら少し手を貸せ。」
『暇って…、確かにやることはありませんが…、』
ほれ、と数枚の紙を乱雑に投げるように寄越したナルサスにエレンは怪訝そうにそれを受け取った。
『なんです?これは。』
「此度の遠征での部隊の詳細だ。今回キシュワード殿の隊はペシャワールでの留守を任せるのでそれ以外の兵の数とその人数の振り分けの確認をしてきてくれ。」
『キシュワード様に?』
「あと、ダリューンにもな。それから、」
『まだあるんですか?』
「当たり前だ。俺は忙しいのだ。猫の手も借りたいとはよく言ったものよ。奴隷上がりの歩兵部隊の練兵の進行具合と徹夜で仕上げてくれている矢の総数の把握も頼む。」
『はぁ…。』
なんだかずいぶんな量の頼まれ事をされてしまったが、女である私なんかがここまで部隊のことで首を突っ込んでいいのだろうか。
そんな思いが顔に出ていたのか、ナルサスは走らせていた筆を一旦机に置き、両手を組んでその上に顎を乗せてエレンを見た。その視線はどこか楽しそう。
「心配するな。お主なら出来よう、いやお主だからこそ頼むのだ。」
『ナルサス様…、』
「言っただろう?期待している、と。俺はエレンを次期万騎長候補にと考えておるのだから。」
『―!?次期万騎長!?な、なんですかそれは!?』
聞いてません!と叫んだエレンにナルサスはしれっと言っておらんからな、とさらりと言い放つ。
「とはいっても今日明日でなれるものでも無いことくらいエレンもわかっておろう。だからせめて百騎長くらいの技量を身に着けてもらおうと俺は思っている。」
『ナルサス様、』
「微力ながらも俺も手伝うつもりだ。安心しろ。これはお主の為でもある。俺の言ってることがわかるか?王女としてではなくエレオノール個人として生きるのであればエレオノールとしても地位や力を身に着けなくては己を守れまい。」
『……。』
エレンはナルサスが言いたいことがわかった。
王女としてではなく、ただの人として生きて戦場に出るのであればエレンとしても力がなければ常に危険が付き纏う。それは重々承知のこと。
ナルサスはそれを心配し、そして彼なりに己を守る方法を考えてくれた結果が百騎長ひいては次期万騎長ということ。いくら万騎長サームの娘と言ってもそれを知るものは少ない。
しかし彼女自身に地位や力があれば誰も手を出そうとは思わなくなるはず。
『…、考える時間はありますか?』
「よかろう。遠征出発前までだ。返答次第で遠征時のお主の与える役割も変わってくるのでな。」
エレンは静かに席を立った。
考えたいと言った彼女だったがナルサスには彼女がこの提案に拒否はしないだろうと予測していた。なぜならその根拠はエレン自身の掲げる“願い”を知っているからだ。
「(殿下と同じく奴隷開放を掲げるのであれば、ただの騎士が提案したところで何の力にもならぬ。ならば殿下と同じようにその発言力に確固たる影響力を持ってもらわねばならない。)」
エレンが退室したその扉を静かに見つめる。
しかしナルサスの鋭い瞳はシンドゥラ遠征のさらに先を見据えていた。
「殿下の為、エレンには“最も高貴な守護者”となってもらわねばな。」
ナルサスの脳裏に描く人物はしっかりとした足取りで最も話し合わねばならない御方・アルスラーン殿下の元へと向かっていた――。
『アルスラーン殿下…、』
第12章・完 2022/11/02