第12章
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サーム様と王宮内を回っているとき数年ぶりにヴァフリーズ様にあった。
昔とまったく変わらない姿に懐かしく思った。
しかしそれに対し、彼はいつも優しく微笑む顔をめったに見せないくらい驚いてみせた。…今思えばあれは私がアルフィーネ王女だと気づいたからだったのかもしれない。
それでもサームが娘と紹介したので少し戸惑いながらも挨拶をかわしてくれた記憶がある。
『守って、くれていたのですね…。私が王女だと陛下や周りに知ればどんな目に合うか、想像が着くから…、』
「かもしれん。今となってはわからぬが…。」
ただただ感謝しかない。
しかしヴァフリーズもすでにこの世にはいない。
彼は唯一の肉親を失ったのだ。
普段はそんな素振りなど微塵も感じさせないが、きっとダリューンの心は悲しんでいる。
手当を終えたその無骨な手の中指を自分の親指と人差し指できゅっと握った。
「エレン?」
『…。』
なにも言わない。
そのかわりに、伏せていた顔をゆっくりと上げじっと彼の目を見つめた。
心配している、と私なんかが言うのはおせっかいだろうか。この人は黒衣の騎士と諸外国にも恐れられる人で戦士の中の戦士と言われる勇者なのだ。
そんな人を騎士の端くれのような私から心配されたところで。
…でも。それでも。
『あまり無理しないでくださいね。』
「…っ。…あぁ。」
ありがとう、と小さく彼が呟いた。
『すべて片付いたら、一度ヴァフリーズ様の墓前に参らせてください。』
「あぁ、約束だ。…だからお主も、死ぬなよ。」
『――っ!』
驚いて目が小さく開く。
ダリューンはエレンの先の未来を心配していた。
いままで大勢の人の人生を見てきたからなんとなくわかる。
彼女が時折見せる目は死ぬ覚悟を決めた者がする目だ。
この娘は死ぬ気だ、と。
『…それは、…約束出来ません。』
「何故だ。」
『…。』
「エレン。」
『――…っ、』
その声は、ずるい。
そんな声で名を囁かれては、意識してしまう。
心臓が早鐘を打ち、吐く息が震えた。
きっと耳まで真っ赤だ。
きっと私はどこか切なくて、けれど少し甘いこの夜の事を何度も思い出すだろう。
もっと、もっと。
この人を求めてしまう心が抑えられなくなる。
名を呼んで欲しい、その瞳に映して欲しい。触れて、欲しい、と。
『(あなたが好きです…、大好きです…)』
たった一言。
その一言が言いたくて、言えなくて。
しかしある思いがエレンのまっすぐなダリューンへの想いを踏みとどまらせる。
『(ダメなんだ…。この人を困らせたくはないの…。)』
その想いを閉じ込めるように振り払うように。
握った手を離し、エレンは噴水の縁から立ち上がった。
「エレン?」
『もう、休まなくてはいけませんね。』
「…。」
なぜか話を反らされたような。そんな気がした。
部屋に戻りましょう、というエレンにダリューンも頷くかわりにまた手を差し出した。
それはいつかの厩舎へ一緒に行った時と同じように。
差し出された手とダリューンの顔を交互に見るエレン。その顔はどうしたらいいのらや迷っている、といった様子だ。
「部屋まで送ろう。」
『だ、大丈夫ですよ…。』
そう言いつつもこころなしか嬉しいのを隠せていない。
もじもじさせていた手をちょっと動かす。
差し出された手はいつまでもエレンが手を乗せるのを待っていた。
もう一度だけダリューンの顔を見て、ようやく折れたのか恐る恐るその手にちょこんと手を乗せた。
ダリューンも無意識に差し出した手を軽率だったか、と少し後悔したがようやくエレンが手を乗せてくれたことでその感情は消え失せ、先程宴会場にて感じた胸のモヤモヤが嘘のように消えたことに気づいた。
その理由は検討もつかない。
存外パルス最強の騎士も色恋には疎いようだ。
乗せられた手を傷に響かぬように優しく握りしめ、もう片方の手で外れたフードをもう一度被せる。ペシャワールの夜風で身体を冷やしてしまわぬように。視界が狭まるもダリューンだけはちゃんとその目に映した。途端にかちりと合う視線。碧と金色。
心臓がトクンとひとつ鳴る。
やっぱり手をつなぐとエレンは黙り込んでしまうのをダリューンは不思議でならなかった。…本人緊張して喋れないだけなのだが。
しかしそんなことをダリューンは知らない。
人気のない城内でダリューンに手を引かれたエレンは与えられた自室へと戻っていった。
* * *
『はぁ〜…、つらい。』
「…。朝から何かと思えば…。惚気話か?」
『の…っ!?』
違います!と元気そうな否定が耳に響いたので片手で耳を塞いでうるさいぞ、とジェスチャーをする。
ナルサスの自室に朝の早くからの来客に誰かと思えばエレンだった。渋々招き入れたかと思えばいきなり盛大なため息をついたのだ。
エレンの旧友に対する想いに勘付き、あまりそういった話を聞かない友だからこそナルサスも最初は面白そうにしていたのだが、これといって進展もなければ浮ついた話もないので結果飽きてきたというのが彼の現状である。
「昨日あのあとダリューンといたのだろう?」
『う…、そ、うですけど…、』
やはりナルサスにはお見通しだ。
エレンの盛大なため息の原因がわかっているからこそ、とくに追求することなく…というかアホらしくてどうでもいいというのが正直なところである。
「素直に好いている、と一言言ってしまえばよいものを。」
『…言えません。そんなこと。ダリューン様を困らせてしまう。』
「そんなこと伝えてみなれければわからぬだろうに。…それよりお主、殿下とギーヴに話をしたのか?」
『あ、はい。ギーヴとはさっき水場で会ったので。アルスラーン殿下とは午前中にダリューン様と稽古をなさるそうなのでその前に時間をいただこうかと…。』
「そうか…。ギーヴはなんと?」
『はい…。』
* * *
ナルサスの自室へ惚気話をしにいく数時間前。
早朝の稽古を済ませたエレンは水場で珍しい組み合わせの二人を見つけた。お互いを色男呼びをしていたギーヴとラジェンドラ王子だった。二人ともどこか顔色が悪そう。
そういえば昨晩、ファランギースにお酒で酔い潰されたんだっけ。
『おはようございます。ラジェンドラ王子、ギーヴ。』
「おはようございます、エレン殿。」
「これはこれは!朝からこの“俺”に挨拶に来てくださるとは!」
ラジェンドラ王子はギーヴに向けていた嫌そうな視線から一変、この場に来たのが麗しの女騎士殿とわかると手のひらを返すように笑顔を見せ、両手を上げて近づいてくるのでエレンはそれをひらりとかわしたあと、ギーヴの腕を組むように掴んでにこやかに笑って見せたのだ。
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