第11章
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“アルフィーネ”
それは私の、もう一つの名。
しかしもう呼ばれることのない名前。
この国を、愛しているから捨てた名前だから。
王女としてではなく、この国で生きる一人の民――騎士として。養父であるサーム様が与えてくれたエレオノールという名で生きていく。
けれど王女としての生き方を捨てても、王族として生まれた責務は果たしたい。それが私の使命だ。
この先ずっと。
ただそれだけを胸に生きるのだ。
いまはなくとも、いつかアンドラゴラス陛下の前で膝を着く日もきっとあるだろう。父から王位を奪い兄を傷つけた本人を前にして。
許すことはできない。だが耐えてみせよう。
すべてを話し終えたエレンが最後に真っ直ぐな瞳でみなにこういった。
『もし万が一のことが生じた場合、私のことはどうか見捨ててくださいませ。』
「見捨てる、とはどういう…、」
ナルサスは眉をひそめ顔を見る。
『そのままの意味です。私がアルフィーネだということはルシタニア側にも知られた可能性は否定出来ません…。どのようなルートでどこまで広まるかは検討もつきませんが捕虜となっている陛下の耳に入る可能性もゼロではありません。そうなれば…、』
考えられる選択肢は限られる。
ルシタニアの客将であるヒルメス王子の妹としてルシタニアに手引したと因縁をつけ処刑を言い渡すか、
『私を、利用しようとするでしょう。その時は迷わず私を見捨ててください。』
「エレン…、」
『そんな顔をなさらないでください。別に死ぬつもりはさらさらありませんから。どんな手を使ってでも逃げ延びて陰ながらでも殿下やみなの力になるつもりです。』
これは最悪の可能性。
エレンは笑ってそういった。
彼女は前向きだった。決して悲観してそのようなことを言ったわけではなかった。
見捨てろと言われたダリューンらは心配して損した気分だ。彼女ならたとえ陛下から処刑を言い渡されようとも逃げ延びそうな気がするのは何故だろう。
「お主なら処刑人を押し倒してでも逃げ出しそうな気がするな。」
『え。そんな風に見えますか?私。』
キシュワードにそんな事を言われたので嬉しいやら嬉しくないやら。でも顔にはむすんとした表情が表に出ていたのだった。
ずいぶん長話をしてしまった。
明日からは本格的にシンドゥラ国への遠征の準備に取り掛からなくてはならない。
遅くなってしまい申し訳ないとエレンは何度も頭を下げた。しかしその表情はつい先程まで時折浮かべていた不安そうなものではなく。
どこかすっきりとした、晴れ渡るようなものにナルサスらは思えたのだ。その事が少なからず彼らを安心させる。
彼女が抱える“途方もないこと”を聞けたことは彼らの不安を和らげた。まだ知らないこともたくさんあるのだが、一歩前に進めた、とでも言えようか。そしてエレンのことを知れたナルサスは一人あることを企てる。そのことをまずは先輩万騎長であるダリューン、キシュワードに聞いて貰いたく退席し部屋に戻る女性陣を見送ったあとで二人に声を掛けた。
「本気か、お主…、」
「あぁ。あとは本人次第ではあるが、もしその気があるのならその時はダリューンとキシュワード殿にいろいろとご教授願うつもりです。」
「しかしナルサス、女性でその地位についたものは未だかつておらぬ。はたしてうまくいくかどうか。」
ナルサスの提案にダリューンは心配そうにする。キシュワードも両手を上げて賛成というには遠く、不安要素が二人の脳裏にちらつくのだ。
「なに。武勲を上げれば殿下もそのように取り計らってくれよう。それに先の大戦で我が軍にお主らのように力のあるものが一気に減ってしまったからな…。一人でも多くの優秀な逸材を育てねばならんというものだろう?エレンにはその素質が十分あると俺は思う。」
エレンという人物は、
強い意思を持ち、
情熱を持った、
激しい人――。
それは人を惹きつけ、魅了し、従わせる素質。
その言葉には二人も納得せざるを得ない。
たしかにエレンには不思議と他人を魅了させる何かがあるように思えるのだ。
彼女の瞳で見つめられると胸が熱くなるような、心臓を掴まれるような。先程の話し合いの際もただ微笑んでいるだけなのにその瞳に見つめられるとなぜだろう。身体が動かせなくなるような感覚に襲われるのだ。
なによりその美しいその容姿、そして空と海を取り込んだような宝石のように煌めく碧い瞳。しかしその奥には情熱的な炎を感じさせる。
ナルサスはダリューンとキシュワードにこういったのだ。
“エレンを次期万騎長候補に”と…。
第11章・完 2022/10/17