第11章
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『以前、私に聞かれましたよね。何故騎士になろうと決めたのか、と。』
あぁ、とダリューン自身もその問いを覚えていたのか頷いた。あの時はルシタニアとの戦から凱旋した後のことで、後ほど共にアルスラーン殿下の元へご挨拶に伺おう、その時にゆっくり話そうと約束していたのだが結局殿下が脱走した捕虜に掴まり、連れ回されるという前代未聞の事件に見舞われ、どさくさに紛れて流れてしまったのだ。
『私が騎士になろうと決めたのは、私自身の願いを叶える為です。その願いはアルスラーン殿下が玉座に就かれた時に初めて叶います。』
「お主の願いとはなんじゃ。」
ファランギースが優しい顔でエレンを見つめる。隣に座る女神官様をエレンも見つめ返した。
『私の願いは三つ。アルスラーン殿下に次期国王の座に就いていただくこと。そして奴隷を開放すること。最後は…、』
最後の願いは。
その願いを口にしようとした時のエレンの顔はまるで感情を無くしたかのようだった。
ただまっすぐに、しかしその瞳の奥は揺らぐ炎のような激しさを持ち。憎しみと恨み。まるでその視線の先に誰かを見ているかのようで。
彼女から感じるその威圧感。アンドラゴラス陛下と対面しているときのようだ、と彼を知るものは皆そう思った。
『最後の願いは、パルス王家を滅ぼすことです。』
――っ!?
その場にいた全員が息を飲んだ。
まさか彼女の口からそのような言葉が紡がれるとは誰が予想しただろうか。
その願いの内容と、エレンの意思の強い瞳がいかに本気かを物語っている。
そしてその身体から発せられる気迫はアルスラーン殿下にはない…そうアンドラゴラス陛下と同じそれ。エレンを見ているはずなのになぜかその姿に陛下が重なって見えた。
あぁ、本当に彼女はパルス王家に連なる者なんだ、と誰もが思った。
バフマン殿がつい膝を着いたと聞いたがこれではそうしたくなる気持ちもわからなくもない。
その時、ナルサスが口を開いた。
「パルス王家を滅ぼす、ということはそこにアンドラゴラス陛下はもちろんヒルメス王子も含まれよう…。…だが、お主はどうなる?」
『――。』
皆がはっとなる。パルス王家を滅ぼす、ということはその血を受け継ぐ彼女はどうするのか。
だがその質問にエレンはただ静かに微笑むだけ。
『それは私が個人ですること。アルスラーン殿下はもちろん、皆になんの関わりも無いことにございます。後のことはこの国の法に身を委ねましょう。』
「お主…、」
パルス国の法に身を委ねる。…それは死を意味する。王家に…ましてや国王を亡き者にしようものなら極刑は免れない。
エレンは自らの命も消すつもりなのだ。
…それほどの覚悟なのだ。
『パルス王家の歴史は長く深い。…ですが古い血筋は争いや憎しみしか生みません。現にアンドラゴラス陛下は我が父と兄、そして私を亡き者にしようとしました。』
十六年前に起きた王宮での火事。
世間ではあれを事故として片付けられたのだが、一部の者からは弟のアンドラゴラスが王位に就くために兄王とその子供らを殺した、と囁かれているのだ。
『ですが私は、アルスラーン殿下に新たなパルス国の王になっていただくためならば己の身に起きた世の理不尽に耐え、アンドラゴラス陛下の前で膝を付きましょう。』
王族としてその地位を取り戻すこともせず、己の父と兄の仇であるアンドラゴラス陛下を討つことも望まず。一体なにをして彼女をここまで強くさせるのか。
人を惹きつけてやまないエレンという娘。
彼女には王族としての誇りや自尊心はないのだろうか。
「何故お主はそこまでする?王族としてのプライドはないのか?」
『キシュワード様…、』
王家に忠誠を尽くすキシュワードにはエレンの選択した道が理解出来なかった。本来ならここにいる全員彼女に膝を付き頭を垂れねばならぬはずなのに。
ヒルメス王子も己の王族としての、そして先王太子としてのプライドに従って王位を復活させることを望んでいる。
しかしエレンはそれを望まない。それどころか共に戦うことを選ぶというのだ。
『王族としてのプライド、誇り…。そのようなもので貧しい民の空腹は満たされますでしょうか?』
「「――!」」
『不満は和らげますか?悲しみは癒えますか?無闇矢鱈とその力の無い権力や地位を振るっても私に救えるものは誰もおりません。』
だから力のある権力を持つアルスラーン殿下に委ねるしかない。そのために自分に出来ることはなんだってする。殿下をお守りするためにこの生命を落とす事になったとしても私は自分で選んだこの人生を後悔したりしないだろう。
『パルスの民をお救い出来るのはアルスラーン殿下において他なりません。私はそう信じています。その為ならば私はどんな罰も甘んじて受け、己に降りかかるどんな理不尽にも耐えてみせます。』
それが王族として生まれた私の使命。
本当は辛いのに、辛くないフリをして。
自分の気持ちを誤魔化して、傷つけて。
軽い気持ちで聞いていたわけではないけれど、彼女の本当の姿、その胸の内を知ったときその確固たる覚悟にナルサスらは圧倒されてしまった。
これがナルサスが聞きたかった彼女の本当の姿。
墓場まで持って行くと決めた過去。
彼女の決意の固さを知った時、ナルサスはもちろんダリューン、キシュワードがおもむろに立ち上がる。
突然立ち上がった彼らをエレンはどうしたのだろう、と見ていた。
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