第10章
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「…という訳です。」と事の顛末を簡潔に説明してみせたナルサスとそれを聞き終えたアルスラーンの前には見事なまでに捕虜です感を漂わすラジェンドラ王子。
「ガーデーヴィとパルスがつるんでいたとか、我が軍に内通者がいたとかは?」
『そのような事実はございませんよ。』
口を開いたのが己を縛る縄を持つエレンにラジェンドラは首だけを後ろに向ける。
その顔を見たエレンはにっこりと笑顔を見せる。
『すべて貴方達が勝手に思い込んで、勝手に混乱しただけのこと。』
見事なまでに天才軍師の策略にはまってくれた彼にナルサスはこれでもかというくらい嬉しそうな笑顔をラジェンドラに向ける。
ラジェンドラ王子も、してやられた…というような深いため息を一つこぼした。
「いやぁ参った参った。見事にしてやられたわ!はっはっは!」
「エレン、よくやってくれた。」
『いいえ。ナルサス様の策が宜しきを得たからにございます。私はほんの少し手を出しただけにすぎません。』
ほんの少し手を出しただけ、と微笑む彼女にアルスラーンは真に受けてよくやったと笑うが、同じく戦場で戦っていた兵士達はあれで少し手を出しただけか…と若干引いた目で見られていた事にエレンは気づくことはない。
軽く騎馬兵を20、30人討ち取ってラジェンドラまでの道をひらき、矢の如き速さで戦場を駆ける彼女の姿をペシャワールでは“超越した存在・鬼人”と異名つけられることになる――。この名が本人の耳に入るのはシンドゥラ遠征後のことである。
気を取り直して。
アルスラーンは縄を解かれたラジェンドラと同じ目線になって彼と対話する。
「私はパルスの王太子・アルスラーンです。いささか乱暴でしたがお話ししたいことがあってこのようにご招待しました。」
「話?」
警戒しつつもラジェンドラは自身の境遇にも冷静のようで、大人しくアルスラーンの話に耳を傾けた。
「貴方と攻守同盟を結びたいのです。まず貴方がシンドゥラ国の王位につけるようお手伝いをして差し上げましょう。」
その提案のあとアルスラーンは自国の情勢を正直にラジェンドラに話した。その話を聞いた上でラジェンドラは自分を助けることなど出来るのかと王太子に問いかける。
アルスラーンも「まったくその通り」と頷いた。
しかしその顔はひとつも曇りがなく、気力に溢れている。ラジェンドラはそれが不思議でならなかった。
「少なくとも私は異国の軍に囚われてはおりません。」
そう言い放つ彼の背後にはこのパルス国の5本の指に入る戦士が二人も肩を並べて立つ。彼の強みはこの屈強な戦士が自分の味方であるということ。それに他ならない。
「上手く言い立てるが俺の兵力を利用したいだけだろう。そんな同盟の話に乗るバカがおるか!」
『お言葉ですがパルスの騎馬兵は大陸にその名を轟かす屈強な兵士。その我らが他国の兵をアテにするはずございません。』
「う…っ、」
たしかに…。
昨晩も一瞬にしてそのパルスの騎馬兵に敗北したのだからその強さはラジェンドラ自身も身に沁みている。
だからお前の兵など必要ないときっぱりと言い放つエレンの言葉に言い返すせず。
「なに…嫌なら嫌で一向に構いませんよ。貴方の首に鎖をかけてガーデーヴィ王子に引き渡すだけのこと。」
「――!!ま…っ、」
ギーヴ、鎖を…、とナルサスが一声かければ一体どこに隠し持っていたのやら嬉しそうにして両手に鎖を握りしめるギーヴ。初見ではあるがすでに彼はラジェンドラを毛嫌いしているようだ。
「待て待て待て!そう性急に結論を出すものでもない!俺をガーデーヴィに引き渡したところで奴は感謝などせんぞ!」
それに異母兄弟を殺したと口実つけて…うんぬんかんぬん。いろいろ言い訳をまくし立てるがそのようなこと軍師ナルサスには右から左へ、である。「ガーデーヴィの思惑などどうでもいい。」と一刀両断する。そしてす…、と据えた目つきで異国の王子を見下した。
「貴方が盟約を拒絶するというのならこちらは意趣返しをするだけのこと…」
「い…っいや盟約と言っても俺の一存では決められぬ!シンドゥラの民に事情を説明する手間も必要だし…!」
慌てるラジェンドラ。
彼は自分が置かれている状況をまだ把握しきれていないよう。アルスラーンは同盟を結びたいと親身になって持ちかけたのだが、言い方を変えればこれは脅迫…というものだ。
彼に選択肢などすでに無い。
その現状を突きつけるかのようにナルサスがとどめの一言を放つ。
「ご心配なく。すでにシンドゥラ国内には殿下の部下の方々をもってして通達してございます。」
ラジェンドラ王子はパルスの王太子アルスラーンとの間に友誼と正義に基づく盟約を結び、シンドゥラ国に平和をもたらすため、国都ウライユールへ進撃を開始した…と。
「……。」
見ていて面白いくらいにラジェンドラ王子の顔が青ざめていくのがわかる。開いた口が塞がらない、状態の彼にナルサスは「この知らせは二、三日の内に国都ウライユールまで届くでしょう」とさらに決断を迫った。
「貴方のご決断はすぐに母国の人々が知ることになる。」
「〜〜…っ、」
ラジェンドラは目の前の幼い王太子をじっと見つめた。その曇りのない深い海のような瞳についに彼も折れたのか観念し一際大きなため息とともに降参するというかのように両手を上げたのだ。
「よし、わかった。――同盟を結ぼう。」
第10章・完 2022/10/02