第10章
夢小説設定
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『あんなに怒られるとは思ってもみませんでした…。』
「…。」
いまもし彼女の頭に獣の耳があったのならきっと落ち込んで垂れ下がっていることだろう。そんな様子が容易に想像できた。
ナルサスの言った通り、殿下のお説教とやらはエレンの骨の髄まで染みているようでその表現はあながち間違いではなかったようだ。
今現在シンドゥラは二人の王子による世継ぎ問題の真っ只中である。
数日前、このペシャワールへ侵攻してきたのはガーデーヴィ王子。そして今回侵攻してきたのはもう一人の王子・ラジェンドラだ。今この二人の王子が次期国王の座を争って荒れているとキシュワード様が教えてくれた。
此度の戦もナルサス様が策を巡らせているようだ。だが私はその席に参列していなかったためどのようにして動けばよいのかわからない。
『ナルサス様、私はどこの隊に着いていけばよろしいですか?』
「お主本当に出る気か?今回は別に無理せずともよいのだぞ。」
『お気遣いありがとうございます。ですが大丈夫です。』
確固たる意思にナルサスは以前彼女が言った、自分は騎士だと、戦う定めの人間だという言葉を思い出す。こうなってはきっと聞き入れはしないのだろう。やれやれ、と胸の内でため息を溢したナルサスは留守番させるという説得はとうに諦めてエレンに作戦の指示を言い渡した。
「今回の戦は敵であるラジェンドラ王子を捕らえることが最優先だ。前線で戦うのはキシュワード殿にお任せしてある。お主はそうだな…、ダリューンと私と来てもらおうか。」
『お二人に?』
「あぁ。前線をキシュワード殿でそのあとダリューンに敵を錯乱してもらう。混乱したシンドゥラ軍で孤立したラジェンドラ王子を捕らえる手伝いをしてもらう。」
それはナルサスなりの最善の気遣いであった。いくら大丈夫と本人が言っても心配しないわけにはいかない。そんな状態で前線に放り込むことなどできるはずもない。
エレンとしては少し物足りない役回りであったが決して重要でない役割というわけでもない。
ナルサスの気遣いに申し訳なく思うも、ありがたくその役目をエレンは引き受けたのだった。
「さて、そろそろかな。」
『あの…ダリューン様、ナルサス様…、』
遠慮がちに声を掛けたエレンに二人は不思議そうに振り返った。
その視線の先は言いづらそうにもじもじと落ち着かない様子のエレン。なにか言いたいことがあるのだがうまく言葉に出来ない、といった様子だ。
『この戦が終わりましたら…お話したいことがございます。』
「「――っ。」」
はっと顔を見合わせる二人。
それを前に緊張した面持ちのエレン。
今の今まで姿を表さなかったのはエレン自身の気持ちを落ち着かせるためでもあり、また覚悟を決めるためでもあったのだ。
己の過去を明かす覚悟を…。
…出来ることなら墓場までこの秘密を隠し通しておきたかった。そして人知れずこの真実を歴史の闇に葬り去りたかった。
だが不可抗力とは言え知られてしまった以上、聞かなかったことになどもう出来ないのだ。
それに考えなければならないことも出来てしまったから。…それは兄・ヒルメスのことだ。状況が状況だったため感動の再会など程遠く。ただお互い生きていたことに驚き信じられないといった顔をするしかなく。
「…わかった。この戦ののち、落ち着いたらゆっくり話すとしよう。…よく決心してくれた。」
ぽん、とナルサスは労るようにエレンの肩に手を添える。
ダリューンも優しく微笑んだ。
「では行くとしようか。」
「おう。」
『はい。』
三人はそれぞれ馬に騎乗する。
目的は敵大将・ラジェンドラ王子だ。
ペシャワール城から先に出撃したのはキシュワード様の隊だ。そのあとを別ルートで馬を進めるナルサス・ダリューン・エレンと続く。
シンドゥラ軍五万の兵力に対し、こちらはなんとたったの一万の戦力しか整えていないことを出撃後にエレンは聞いた。
その兵力差で勝てるのか、とエレンは問うとナルサスはいつもの自信に満ちた表情で「当然。」と自慢げに話した。
「ダリューンよ、お主絹の国《セリカ》に行った時戦うにあたって注意すべき三つの理を学ばなかったか?」
「あぁ。“天の時”、“地の利”、“人の和”のことだ。」
『それが“三つの理”?。』
エレンにとって初めて聞く言葉だった。
今回シンドゥラの軍勢はそのすべてを犯して侵攻してきたとナルサスは説明する。
“天の時”
それは今の時節を指す。
パルスは今冬の季節にあたる。雪すら見たことがない南国育ちのシンドゥラの兵達には到底不慣れな気温である。
“地の利”
それは暗闇のなか進軍し、地形に不慣れであることを指す。国境のカーヴェリー河から先を彼らは把握しきれていない。
どこから奇襲されるかも熟知してない軍は格好の的だ。
そして最後に、
“人の和”
これは今まさにシンドゥラ国の内情を指し示している。ガーデーヴィ王子にしろ、ラジェンドラ王子にしろ一時の欲にかられてこちらに侵攻してきたのだ。もし競争相手に知られれば後方から襲いかかられる…と。
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