第10章
夢小説設定
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「私は…友の言葉を受け止められず怯えておりました…。アルスラーン殿下…どうかお許しください…、」
「なぜだ…、なぜお主が謝る必要がある…っ!」
陽がペシャワールの山脈に沈もうとしていた。
それは残り少ないバフマンの命の終わりを告げているようだった。
「良い…王とおなりくださ、れ…―――。」
『――…っ!』
「ぁ…ぁあ…、バフマンー!!」
エレンの手を握り締めていたバフマンの手が力を無くし、だらりと重みにかわる。
太陽が沈んだことでペシャワールは暗闇に包まれようとしていた。
静まりかえるこの場所で皆がバフマンの死を悼んだ。
泣き崩れるアルスラーン。そしてエレン。
まさかこんな形で別れがくるなんて想像もしていなかった。
こんなことになるのなら、もっとちゃんとバフマン様に話をするべきだった。
本当のことを…。
彼が抱える悩みを…。
あの時、彼は救いが欲しくて私に跪いたのではないか。
どうすることも出来なくて、だたまっすぐにアルスラーン殿下に忠誠を誓うことが出来たなら、このような最後を迎えずとも済んだのではないか、と。
重たい空気が支配するこの場所へ一人の兵士が慌ただしく駆けつけた。
「ご報告します!」
「どうした。」
キシュワードが振り返る。
「たった今、シンドゥラの軍勢…数万、夜の闇に乗じて国境を突破しつつあるとのこと!」
「―!なんだと!?」
その知らせにキシュワードだけでなくナルサスやダリューンも驚いて見せた。
『(このような、時に…!)』
まさかヒルメス王子の奇襲があったその日にさらに東方の大国シンドゥラが侵攻してこようとは。
タイミングが悪いにも程がある。
* * *
翌朝。
シンドゥラ侵攻について話し合いが行われていた。斥候による情報では敵の軍勢は約5万。その進路はすでに国境のカーヴェリー河を越え、進軍しているとのこと。
その場にいたアルスラーン殿下とその配下の者とで会議が行われた。そこにはナルサス、ダリューン、キシュワードはもちろんファランギース、ギーヴまでもがその席に呼ばれていた。
…だがそこにエレンの姿はなく。その姿を探す素振りを見せたナルサスとダリューンにファランギースは朝起きた時にはすでに部屋にはいなかったと言った。
キシュワードもいつもの朝稽古かと思って中庭へ様子を見に行ったのだがそこももぬけの殻だったという。
一体どこへ行ったのか…。
聞かねばならないことが沢山あるのだ。
事によってはバフマンの言葉が本当なら彼女に対する身の振り方を変えねばならない。
彼女が本当に先王オスロエスの子・アルフィーネ王女であるのなら…。
アルスラーンも軍議に参列したがどこか心あらずで。
心配したダリューンがお休みになっては、と進言するがアルスラーンは笑って大丈夫だ、と返した。…だがその顔はどこか曇っているようで。
バフマンの残した言葉が彼の心に影を落とした。
一方、皆に探されているとは露知らず、エレンは一人とある部屋へと来ていた。
それは亡くなった兵士の遺体を一時的に安置する霊安室だ。そこにバフマンの遺体が一時的に保管されている。シンドゥラなんかが進軍してきたせいでいまだ埋葬されずにいるのだ。
エレンはそっとその棺に額を寄せた。
思い出す過去の記憶。
記憶の彼はまだ黒髪で若々しかった。大きかったその身体も今となってはこんなにも小さかっただろうか、と疑問に思う。
よく兄上と稽古をしているのを見に来ては、その合間に遊んだり話をしたりしてくれていたのを思い出す。
『(懐かしい…、いつの間にこんなにも白髪が増えてしまったのかしら…)』
歳で言えば彼もヴァフリーズと同じ大将軍になっていてもおかしくはなかった。だがきっと彼のその優しい心がその地位にふさわしくないと陛下から思われたのだろう。
だからこのような辺境の地の警備などを任されたのかもしれない。
ヴァフリーズ様がバフマン様に手紙で何をお願いされたのか、何を伝えたのか。皆目検討もつかないが守って欲しいと仰っていたのならきっとヴァフリーズ様はいつかアルスラーン殿下が即位された時おそばで支えることを望まれたのかもしれない。
自分がアンドラゴラス陛下のそばで仕えたように…。
バフマン様にもアルスラーン殿下のそばに、と。
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