第10章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
耳の奥まで届いた肉を斬る音はきっとこの先、一生忘れることはないだろう。
目前に迫った銀仮面卿ことヒルメス王子。
殺気の籠もった剣先でアルスラーンを捉えて逃さない。
迫りくる脅威を前にして突然金縛りにあったかのように動かない身体。そんなアルスラーンの前に躍り出たのがエレンだった。
身を挺して主を守ろうとした。
その剣に貫かれるのを私は覚悟した。
ザシュ…ッ――、
「……っ。」
『…、…?』
痛みが来ない。
その代わりに頬に生暖かい何かが伝うのを感じた。
汗でも涙でもないそれは…、
『ぁ…、そんな…、――バフマン様!?』
「がはっ…、」
「バフマン、か…っ」
アルスラーン殿下をかばおうとしたエレンだったが、さらにその彼女を守ろうとバフマンが前に出てきたのだった。
無情にもその身体を貫く剣は血をまとい鈍く光り滴らせる。
「お懐かしゅうございます…ヒルメス殿下。」
「何故邪魔をした…!?」
ヒルメス王子の古い記憶が若かりしバフマンの姿を呼び起こす。この十六年の歳月で増えた白髪が彼もまた歳を取ったことを感じさせる。
「この御方と戦ってはなりませぬ…っ」
「何っ!?」
『バフマン様!』
自身の身を貫く剣にすがるようにバフマンはヒルメスに懇願する。しかしその顔は彼の命がもう長くないことを語っていた。
「どういうことだバフマン!」
「この御方は…あなた様が唯一大切になさっていた、たった一人の妹姫…アルフィーネ王女殿下にございます…っ、」
「なん、だと…、」
その言葉に驚いたのはなにもヒルメスだけではなかった。
その場にいた全員がその言葉を口にしたバフマンを見た後、エレンを見た。その彼女はこれ以上ないくらいに目を開かせ身体を震わせていた。
それはバフマンが言ったことが真実であると物語っていた。
ヒルメスはバフマン越しにアルフィーネだという目の前の娘に目をやった。
こやつが…アルフィーネ、だと?
あの幼かった、たった一人の妹が…、
だがもし生きていれば年齢的に考えても今のエレオノールとさほど差はないはず。
エレンはエレンで目の前の銀仮面がまさかヒルメスと名乗るとは微塵にも思っていなかった。
もし彼の言うことが本当なら…、
もしそうなら、この人は、私の…、
『あに、うえさま…?』
その名を口にしたのは十六年ぶり。
涙が込み上げてくるのはあまりの懐かしさからか。それとも敵として出会ってしまった不幸な運命にか。
お互い知らずにいられたらどんなに楽であっただろう。
ただ、敵として見ることが出来たなら…。
「どうかお引きくだされ…っ」
がは…っ、と吐血するバフマンに気が反れていたヒルメスはその剣を引き抜いた。
引き抜かれたことによってバフマンは崩れ落ち、エレンはその身体を受け止めるように支える。
『バフマンさま…っ、』
気を取られていたダリューンが急いでアルスラーンの元へ駆けつけ、三人からヒルメスを引き離すよう剣を振るう。
しかしそれをバフマンが「殺してはならん!」と止める。
バフマンの言葉に一瞬の隙が出来てしまい、ヒルメスはその場を逃げるように踵を返す。エレンは『ま、待て…!』と追いかけようとする。しかしその右腕を強く掴まれた。
「い、いけません!御二人が戦うなど…、そのようなこと…あってはいけません…っ」
『バフマンさま…っ』
「あの方を殺せば…パルス王家の正統な血が絶えてしまう…っ」
「―!?な、にを…っ」
耳を疑う事実がバフマンの口から出た。
思わず振り返るダリューン。
その目に映ったのは何かに怯えるようなバフマンと、そして顔を真っ青にしたアルスラーン殿下だった。
パルス王家の正統な血が絶える…。
その言葉が意味するもの。それはヒルメス王子がパルス王家の正統の血を引いてること。そして…アルスラーン殿下が正統な血を引いていないということ…。
大量の血を流すバフマンをエレンは支える。震えながら差し出すバフマンの右手をエレンは握りしめた。
「バフマン!死んではならぬ!」
「アルスラーン殿下…、アルフィーネ王女殿下…、申し訳、ございません…。」
『しっかりしてください!今…止血を…、』
止まらない刺し傷の出血箇所にエレンは手を添えた。大勢の人がいるがいまここで“力”を使わねば。この人を死なせるわけにはいかないのだ。
ぽぅ…と淡い光がエレンの手から放つ。
いまならまだ間に合う…。
だがその手をバフマン本人が退けるようにして振り払った。
「いけません…。そのお力を使っては…あなた様の寿命を縮めてしまう…」
『かまいません!私の寿命の十年や二十年…、バフマン様を死なせるくらいなら…っ』
それでもバフマンはその手を取らなかった。
だたエレンに向かって優しく微笑んだ。
「立派に、なられましたな、…アルフィーネ様。最後にお目にかかれて私は幸せでございます…。どうか健やかに…お過ごし…くだされ…、」
『バフマン様…っ』
その最後を悟ったのか、ダリューン、ナルサス、キシュワードと名だたる将兵達が彼の最後をつらそうに見守った。
バフマンはアルスラーンに視線を向ける。
.