第9章
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「エレンもうよい!それ以上戦えばお主が…!!」
死んでしまう、と言いかけた。
しかし言えなかった。再び剣を構えたエレン。
血は今もその腕から滴り落ち、自身の足元に血の池を作る。
だがその目だけは決して光を失ってはいなかった。
『(血が登っていた頭が冴えてくるようだ…。)』
「今度はその右腕ごと切り落としその心の臓を貫いてやろう。この俺の手によって死ねること、光栄に思うが良い。」
『…、それはあなたが王侯の身だからか?』
「いかにも。」
その言葉にエレンはふっと笑みを作る。
銀仮面は眉間にしわを寄せた。
なぜ彼女は笑うのか。王宮にいた侍女もアンドラゴラスの小せがれですらも己を見て怯えていたものを。彼女はいつもそうやって笑うのだ。…恐ろしくはないのか。
「貴様はなぜ笑う。この俺が恐ろしくないのか。」
『…。』
彼女は答えない。
しかしその目はまっすぐ銀仮面に隠された瞳を捉えて離さない。
この目だ。…初めて王宮で剣を交えたときにも見せた。どこか懐かしく、懐旧の記憶が呼び起こされる。
激しく、熱を感じるその眼差しは、そう…、我が父と同じそれ。
「(まさか…、な。)」
ふと彼の脳裏に懐かしい人物の存在がちらついたが、その意識はすぐに目の前の娘に戻される。
『恐ろしい…?私が、あなたを…?』
「…。」
『ここに来てそんなことを聞くのね…。…もちろん恐ろしいに決まってる。』
「では何故俺を見て笑う?」
『もっと恐ろしい経験をしたから。』
「…。」
この俺と対峙するよりももっと恐ろしいこと。
それが一体なんなのか。銀仮面卿には想像もつかない。
ただ殺すには惜しい、と思った。
「お前の父は俺に跪いた。アンドラゴラスの小せがれなど捨て、この俺に仕えよエレオノール。」
『…父上が…。』
父上がこの男に服従したと?
言葉を失ったエレン。なぜ、と頭の中で繰り返されるその言葉。きっと父のことだ。何か考えがあるに違いない…否、そう信じたい…。
『私が…あなたに…?忠誠を誓えと?』
「そうだ。」
『…。もしそうしたとして、あなたは私の願いを叶えてくれるの…?』
「…いいだろう。」
軽々しく肯定した銀仮面に対し、エレンはぎゅっと歯を噛み締めた。この男が私の本当の望みを叶えてくれるはずがない、と。
『私の、願いは…、パルス全土の奴隷を開放すること!』
「エレン…っ」
「奴隷の…開放、だと…?」
『それはアルスラーン殿下にしか出来ないことだ!お前と道を同じくしてもそれは決して敵わないと、馬鹿な私でもそのくらい容易に考えれる!私を、甘く見るな!!』
エレンは激しく燃えるような瞳で怒りをぶつける。その気迫に銀仮面も思わず身体が固まってしまうほど。
次の瞬間、エレンは大きく息を吸った。
『侵入者だーー!!ここにいるぞーーっ!!』
「貴様…っ!」
エレンの声がペシャワール城内に響き渡る。
城の様子が一気にざわめいた。
『こんなところへ来たのが運の尽きだ。今ここで必ずお前を打ち取る。これ以上殿下の邪魔はさせない!』
「小癪な真似を…っ!」
『誰が私一人でお前を相手するといった?今ここには名だたる将兵方が大勢いる。いくら精強なお前でも一人で相手に出来はしない。観念しろ!』
銀仮面卿は恨めしそうにエレンを睨みつけた。
エレンが声を上げてそう時間が立たない間にドカドカと大勢の駆けてくる足音がこちらに向かってくるのがわかった。
「何者だ!」
「あいつは誰だ!」
「侵入者だ!」
駆けつけたパルス兵が槍を手に集まってくる。
「アルスラーン殿下!エレン!」
『ファランギース!』
いち早く駆けつけたファランギースは一本の矢を放つ。それを簡単に斬り伏せる銀仮面。だがそのすきにエレンは銀仮面卿から距離を取り、アルスラーン殿下の前にかばうようにして立つ。
次に駆けつけたのがナルサス。
軍師とは思えぬ剣捌きで銀仮面に斬りかかる。
「ヘボ画家!!」
「二度も三度も聞き捨てならんなっ」
「殿下!お下がりください。エレン、無事か!?」
「ダリューン!」
『ダリューン様!』
アルスラーンとエレンの前にダリューンも到着する。次々と集まる精鋭達に銀仮面も徐々に追い詰められていく。
前後をナルサス、ダリューンと挟まれた銀仮面卿は通路に上がる階段へと飛び降りた。
しかしその先では双刀将軍の名を持つキシュワードが待ち構えていた。
「待て!双刀将軍の名にかけて城を侵す者はこの手で討ち果たす!この男は俺に譲ってもらおう!」
「くっ…!この、逆賊どもが!!」
キシュワードの双刀の攻撃にも銀仮面は怯むことなく斬り結ぶ。
「おぉー!!」
ガン!と振り下ろした双刀が階段を破壊する。
キシュワードの激しい攻撃を恐るべき身体能力でかわし、階段の踊り場に後退した銀仮面。しかしその先で待ち構えるのはナルサス、ダリューン。
その戦いを見守るアルスラーンは彼に向かって問いかけた。
「今一度問う!お主は何者だ!」
ダリューン、ナルサスをいとも簡単に退けた銀仮面。
アルスラーンのその問いかけに彼は不敵に笑った。
「俺は…先王オスロエスの子、ヒルメス!!」
「「――っ!」」
『…ぇ、』
階下にダリューン、ナルサス、キシュワードと集まったせいで気を抜いた彼らの隙をついた銀仮面卿ことヒルメス王子は一気に階段を駆け上がった。明確な殺気を持った彼の剣筋がアルスラーンを狙う。
「なんと甘いことよ!」
彼にとってこれ以上無い好機。
守ろうとしたファランギースも簡単に突き飛ばし、アルスラーンの目前に迫る。
『――…。』
刹那、アルスラーンの目の前で栗毛色の髪が揺れた。
ザシュッ…――。
生暖かい何かが顔を伝った…。
第9章・完 2022/09/26.