第9章
夢小説設定
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エレンを部屋まで送り届けたギーヴはその足で軍議室へと赴いた。扉の前に差し掛かった時ちょうど軍議が終わったのか、ナルサス、ダリューン、キシュワードと各々話し合っていた者達が部屋から出てくるとこであった。
扉の前ではファランギースと、ちょうど良いタイミングで現れたギーヴと揃っていたのでナルサスは軍議で話し合われた内容を彼らに伝えようとする。
だが、その前にもう一人欠けていることに気づいたダリューンはその名を呼んだ。
「エレンは?おらぬのか?」
たしか軍議には参加を許されなかったが、終わるまで軍議室の近くで待っているといっていたはず。
それに答えたのがギーヴだ。
「エレン殿なら先程俺が部屋まで送り届けた。」
「具合でも悪いのか?」
とナルサス。
いや、とギーヴは首を振った。
「あれはもっと達が悪いね。俺がたまたま通りかかったのはバフマン老の部屋の近くだった。エレン殿は顔を真っ青にして通路で座り込んでいたのだ。」
「バフマン殿は軍議の途中で座を辞された。その後バフマン殿とエレンが一緒にいた、ということか?」
キシュワードは眉間にシワを寄せ二人の間でなにか話し合いがされたのではとナルサス、ダリューンに言った。
「ふむ…。その可能性は大いにあるな。しかし気分が優れないのは確か。お主らとエレンも含めてこれからのことを話しておきたかったのだが…。すまんがファランギース殿、あとで様子を見てきてはくれぬか?」
「承知した。」
ナルサスからの頼みにファランギースは二つ返事で承諾する。
さて、と場所を移してこれからのことを話そうとしたときだった。
『侵入者だーー!!ここにいるぞーーっ!!』
突然、そんな叫び声がペシャワール城内に響き渡る。
「「―――っ!?」」
その声の主は話題の人物・エレンだ。
なぜ彼女の声が、しかも外から聞こえてくるのか。だが今はそんなことを気にしてる場合ではない。侵入者がいるのだ。このペシャワールに。
ダリューンらは血相を変えて急いでエレンの元へと駆けた。
* * *
少し時を遡り。
部屋に戻り、寝台に腰を下ろしたエレン。
ギーヴの気遣いのおかげですこし落ち着いた心が再び不安に駆り立てられる。
ぎゅっと胸元を握りしめた。
まだ心臓がどくどくと激しく鼓動している。
こんな時、父上がそばにいてくれたら…、と自分でも情けないくらいに弱気になっていた。
会いたい、と願ってしまう。
その優しい声で私の心を落ち着かせて欲しい。
押し寄せる震えを、振り払うように父の顔を思い出す。
『父上…、会いたいです…、』
自分の正体をバフマンに知られてしまった。こうなっては周りの人に知られるのも時間の問題だ。
このままいなくなってしまうべきか。消えてしまうべきか…。
このまま…終わらせてしまおうか…、
『……。』
しかしエレンの弱気な思考はそこで停止する。
思い出すのは奴隷にされた頃のことだ。
自分だけ父上が奴隷商から買い、連れ出され、牢に残されたままの他の子供達。
私だけ湯に入れられ、きれいな服を貰い、美味しい食事を恵んで貰えた。
なのに心は何一つ喜ばなかった。
残された他の子達のことを忘れられなかったから。
すべてを失った私が、すべてを与えられたことがただただ、苦痛でしかなかった…。
息も出来ないくらい。
『(そうだ…。忘れたとは言わせない…。私があの子たちのような奴隷の子供を二度と生ませない国にすると誓ったんじゃないかエレン。)』
すべてをさらけ出したとしても、やらねばならないことが私にはあるんじゃないか。
だから騎士になったんじゃないか。
思い出せ、思い出せ。
罪悪感に苛まれるだけの私の無意味な人生。
やっと見つけたこの生命の意味を…。
アルスラーン殿下も奴隷制度を廃止になさるおつもりでいる。ナルサス様も親身になって協力してくださるはずだ。ダリューン様も殿下のなされることなら…。
きっとファランギースも、ギーヴも…。
それにエラムやアルフリードもきっと味方になってくれる。
私はもう、逃げない。
たとえいずれ終わらせるこの生命。
その時までは決して自分からも、このパルス王家の血からも逃げないと。
かならず取り戻してみせる。
この国の自由を。それが王族として生まれた
私のせめてもの償い…。
早馬のように鳴る心臓が次第に落ち着きを取り戻していった。
落ち着け、落ち着け。
本当の名がバレたからなんだというのだ。
私はエレオノール。父上が私にそう名付けてくれた。
パルスの騎士だ。
エレンはゆっくりと瞼を閉じる。
そして次に目を開いた時には、少し前までの不安で泣きそうな顔は消え、その澄んだ碧い瞳にはもう一度炎を灯したような色を輝かせていた。
よし、ナルサス様とダリューン様の元へ行こう。
私なら大丈夫だ。きっとやれる。
そう思って立ち上がった次の瞬間。
ゾクリ――っ!
『…っ!』
心臓を貫くような嫌な気配が身体全身を駆け巡ったのだ。とてつもなく嫌な予感がする。
アトロパテネ会戦の時より、ペシャワールへの道中で訪れた村での惨劇よりさらにその上を行く嫌な気配。
思わず震え出すほどの身体を叱咤しながらエレンは剣を片手にバン!と勢いよく開けた扉から出て城内を全力で駆けた。
その脳裏にはもっとも考えたくはないことが浮かんでは消えた。
アルスラーン殿下の身になにかあったのではないか、と…。
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