第9章
夢小説設定
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「アトロパテネ会戦の直前にバフマン殿の元に手紙が届けられてからあの調子なのだ。」
「手紙?」
「――。ヴァフリーズ殿からだった。」
その内容にダリューンとナルサスは驚く。
キシュワードはバフマンの様子がおかしくなったのはそこからだと話す。
「伯父が手紙を!?」
「内容はなんと?」
「内容の方は俺も見ておらんのでわからぬ。しかしバフマン殿の切れ味がなくなってしまったのはそれからのことでな。よほどの内容だったのだろう。」
「…会戦の直前に伯父に“アルスラーン殿下個人に忠誠を尽くせ”と誓いを立てさせられました。何か関係があるのでしょうか…、」
謎は深まる一方である。
キシュワードはさらに気になったことを思い出す。
エレンのことだ。
バフマンがエレンに対して拝跪したこと。
「エレンが単騎でここへ来た時、出撃の準備に取り掛かるのにバフマン殿が渋っていたのであやつが“しっかりしろ”と一喝された老はまるで怯えるようにエレンに対し膝を着いたのだ。」
「どういうことだそれは…。」
ナルサスはエレンに対しますます疑問が増えるばかり。
ただの娘…しかも自分よりはるかに下級の騎士に対し膝を着くなど。
それほどバフマンは気が遠くにいっていたのか、驚いて咄嗟にしたのか。
…ただそれだけで膝を着くなどありえないことなのだが。
騎士が拝跪する相手は決まっている。
それをする相手は王族のみ。アンドラゴラス陛下、もしくはアルスラーン殿下と王妃タハミーネのみ。
ナルサスは仮定の一つをダリューンとキシュワードに語った。
「これはあくまで予想なのだが…、」
「なんだナルサス。」
「エレンは十六年前の事件に遭遇しているのではないかと俺は考えたのだ…。」
十六年前の事件…。
それは暗黙の了解とも言える内容でもある。
先王オスロエスとその嫡子であるヒルメス殿下、そしてあまり表に出ることなかった幼い王女が一人火事で亡くなったのだ。
その後、王弟であるアンドラゴラスが王位を継いだ。世間では事故として片付けられたが一部のものはアンドラゴラスが兄王とその子供であるヒルメス王子や王女を殺したのでは?と囁かれている。
どういうことだ?とキシュワードが続きを問うた。
ナルサスは顎に手を添え、いくつかの仮定のうち一番可能性のありそうな事を口にする。
「エレンのことを知るうちに疑問がわいてきてな…。背中に古い火傷の跡、火が苦手だということ…そしてサーム殿の養子であること。つまり…、」
エレンは十六年前の事故に何らかの形で遭遇し、重度の火傷を負い、孤児になったのちサーム殿に拾われた…。
「あれほどの火事にあえば火を怖がるのも無理はないかと考えたのだ。ファランギースもいっていただろう?エレンの背中の火傷の跡はかなり古いものだと。おそらく幼い頃に負ったものであろう、とな。」
「なるほど…。だがそれとバフマン殿の事と繋がるだろうか。」
「そこなのだ。俺は一度ここへ来る前にエレンに問うたのだ。だがエレンは話せない、と言った。出来ることならこのまま墓場まで持って行くことを望む、とな。」
「……。」
思いがけないエレンの覚悟にダリューンは思わず息を飲んだ。
伯父が俺に言いたかったのはこのことだったのだろうか。
計り知れない何かを彼女が抱えていること伯父は知っていたのかもしれない。
自身のことでこの三人が頭を悩ませていることなどつゆ知らず。エレンはバフマンと共に彼の部屋へ赴いていた。
『どうぞ、中へ。』
「うむ…。」
『では私はこれで。』
「…ま、まて…、」
『…?』
一礼してエレンはダリューンらの元へ行こうと思っていた。その矢先、まさかバフマンに引き止められるとは予想外であった。
相変わらず目は合わせようとしないバフマンが弱々しく言った。
「…茶でも、飲んでいかぬか…」
『お茶、ですか…?』
言って後悔した、というふうな顔をするバフマン。
なにか私に話したいことがあるのか…、だがその決心がまだついていない、といった様子だった。
ただ誘われたからには断るわけにもいかない。
『では、お言葉に甘えて。』
「あぁ、入ってくれ…。」
この時、この誘いを断ればよかったと何度も後悔した。
そうすればあんなにも頭を悩ませることもなかったはずだ。
エレンはバフマンに言われるがままパタンと部屋の扉を閉めた。
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