第9章
夢小説設定
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ペシャワールでの夜が明ける。
エレンは早朝、剣を持って中庭に来ていた。
『ん〜っ、いい天気。』
清々しく晴れ渡る朝の空。
逃亡生活が続いたため、こうして気を張り詰めず迎える朝はずいぶん久しぶりだ。
アトロパテネでの会戦前ぶりくらいになるだろうか。
ここはエクバターナと違ってとても静かだ。
市場のバザールの声も家畜の鳴き声も、働く人々の会話もここには届かない。
キャラバンもよく訪れると聞くし、城門前の広場にいけば賑わっているだろうか?
噴水のそばに立てかけておいた剣を抜き、朝日を浴びた剣身はくもり一つなく光り輝く。
本当なら自分の目の前にはいつも父がいるはずだった。毎朝、こうして朝食前に剣の手合わせをするのが日課だったから。
最初はよく剣を弾かれたりと悔しい思いをしたが、歳を重ねるごとに負ける回数が減っていくのを父は嬉しい反面、すこし複雑だと言っていた。
そんな父との記憶を思い出しながらエレンは一人剣を振るう。
同じくアズライールの散歩がてら中庭やってきたキシュワードは一人剣を振るエレンを見つけた。
朝から精が出るな、と独り言をこぼす。
あの真面目さはさながら父親譲り、か。
サーム殿のことだ。騎士になりたいと願い出た娘に生半可な鍛え方はしなかっただろう。
狩りに出ていたアズライールが中庭上空を旋回し、キシュワードを探していた。
それに気づいたエレン。
どうやらキシュワードのことは気づいていないらしく、『アズライール!』と腕に止まってもらおうとここだよ、と右腕を掲げていた。…が、しかし降下してきたアズライールが止まったのはエレンの腕ではなく、その横の噴水の縁だった。
『……。』
「……。」(アズライール)
腕を上げたまま、視線は噴水に降りたアズライール。
お互い沈黙が続く。
『もう!お前はいつになったら私の肩に降りてきてくれるのよ。』
鷹相手にぷんすか怒る人間の姿ほど面白いものはない。アズライールもお前なんかに止まるか、と言わんばかりにぷいと首を反らす。
なんだ、反抗期か。
以前ヴァフリーズが殿下に懐くアズライールに対し、なめられているのでは?と飼い主であるキシュワードに言っていたが、違う。
きっとエレンのような状態をなめられている、というのだろう。
一連の流れを見ていたキシュワードはついに声を出して笑ってしまった。
「ははっ。朝から笑わせてくれるなお主は。」
『キシュワード様!見てらしたんですか!?』
「あぁ、すまんすまん。」
顔を赤くするエレンの横をすーっとアズライールが横切り、キシュワードの肩に止まる。
エレンはそれを羨ましそうな目で見るのだった。
『薄情者。』
「だ、そうだぞ?アズライール。」
しかしアズライールはそれでもふい、と目をそらすように首を横に振り、ついには再び大空へと飛び立ってしまった。小さくなるその姿をエレンは残念そうにじっと見つめた。
「稽古をしておったのか?」
『―!はい。父との日課でしたから。』
「そうか。一人ではつまらんだろう。俺が相手をしてやろう。お主がどれだけ成長したか見てみたい。」
『えぇ!?いえいえそんなキシュワード様直々にお相手していただくなんて!』
「なんだ不服か?」
いやいや。
不服とか、そうではない。
万騎長直々に剣の稽古など、恐れ多いのだ。
…とはいえ父も同じ万騎長なのだが。
いや、それとこれとは意味が違う。
キシュワードはエレンのこの様子では埒が明かないな、と思い強引な手段に出ることにした。
やる気満々なキシュワードは双刀のうちの一本だけを抜きエレンに構えた。
あわあわと焦る彼女に半分以下くらいの力で振り下ろす。
カン!
剣を振られては逃げるわけにもいかない。
観念したエレンは振り下ろされる剣をひとまず受けた。
キシュワードはにやり、と口角を上げる。
「どうだ。この俺から双刀を抜かせることが出来たらお主の頼みを一つだけ聞いてやらんでもないぞ?」
『―!ほんとですか!?』
さきほどの威勢の無さとは一変。
けろりと人が変わったように顔を輝かせたエレンに思わずふっ、声を溢してしまった。
「あぁ。」
『では…新しい甲冑が欲しいです!』
「そういうことは俺から双刀を抜かせた後に言うのだな!」
初手よりもすこし力を込めて剣を振り下ろす。
しかし新しい甲冑がかかっているとなるエレンの気合に入り具合もさらに増す。
『はぁ!』
横薙ぎに払った剣をキシュワードは一本の剣で受け止め、弾くように払いそのまま右袈裟で斬り下ろす。しかし弾かれた剣を素早く手前に戻し振り下ろさせる剣を受け流すようにかわす。
キシュワードは受け流されたことで崩れた体制を戻そうと数歩下がる。
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