第8章
夢小説設定
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『ヴァナディール、』
愛馬を見つけ、嬉しそうに駆け寄る。
ヴァナディールの方もまんざらでもないような雰囲気で鼻を鳴らした。
すでに厩舎の者が世話をしてくれていたようで、干し草と水も用意してくれていた。
エレンは近くにおいてあったブラシを借りて毛並みを梳いてあげた。気持ちよさそうにするヴァナディール。たまたま隣にいたシャブラングが羨ましそうにこちらを見たあと、飼い主であるダリューンの方を見る。まるで自分もして欲しい、と訴えるかのように。
それに気付いたダリューンも苦笑いし、ブラシを手に取った。
二頭してブラッシングしてもらい、気持ちいいなと鼻を擦り寄せ合うシャブラングとヴァナディール。
いつの間にそんなに仲良くなったのだ?
ダリューン曰く、シャブラングが他の馬に気を許すのは大層珍しいことらしく驚いていた。
「珍しいなシャブラングが他の馬に鼻を擦り寄せるなど…、ヴァナディールは雌馬だったな?」
『はい。飼い主の私が言うのもなんですが、ちょっと変わってるんです、この子。私のことも飼い主ではなく、友人?のように思ってるみたいなんです』
昔から動物には好かれない体質なのかも。
キシュワード様のアズライールにも懐かれなくて、一度も肩に止まってくれたことはない。
そのくせ殿下にはすぐ懐いて、よく肩に止まっているのを見て私は羨ましかった。
目的の鞍の鐙革の交換も済み、使った道具を片付けて来ますとエレンは足早にその場から離れた。
すこし離れた場所でいそいそ動く彼女の背をダリューンはじっと見つめる。その背を見て思い出した事があった。それはアトロパテネでの会戦前、伯父が自分に言った言葉だった。
伯父は戦が始まる直前、俺に“殿下個人に忠誠を”と望んだ。とくに気にすることなく承知すると、安心した顔を見せると同時にもう一つ奇妙なことを言ったのだ。
“エレオノールを気にかけてやって欲しい”と。
「(伯父は何故、殿下だけでなくエレンにもそのようなことを言ったのだろう…。)」
たかが、といっては失礼かもしれないが、ただの万騎長の娘を気にかけてやる理由はなんなのか…。
“気にかける、とは?”
“言葉通りじゃ…。守ってやれ、とは言わん。ただ困ったことや悩んでいるようなら手を差し伸べてやってほしい。”
ただ、それだけだ。と――。
『お待たせしました、ダリューン様。お部屋に戻りましょう?』
「あぁ、なぁエレンよ。」
『はい?』
再び差し出した手を今度は迷うことなくその手を取るエレンにダリューンは言った。
「何か困ったことや悩み事があれば俺か…ナルサスでもいい。頼る、と約束してくれ。」
『ダリューン様…、』
唐突にどうされたのだろう…。
きょとんと顔を見上げたエレン。
ダリューンのその思惑に理解できず、ぽかんとする。
『急にどうしたのですか?』
「いや、ふと思っただけだ。他意はない。気軽に相談してくれ。」
『…わかりました。』
その思惑についぞ知ることは出来ず。
ダリューンに手を引かれ、エレンがファランギースとアルフリードと共に使っている部屋まで送ると言ってくれた。
平気だと、言ったのだが何故かダリューンは聞いてはくれず。しかも城内に入ったにも関わらずその手は離すことなく部屋の前まで繋がれたまま。
だが思いがけない想い人との時間にエレンもだんだん気持ちがふわふわしてきて。時々夢でも見ているのでは?と何度も意識を他所へやってしまいそうだった。
『ありがとうございました。遅くまで付き合って頂いて。』
部屋の前でダリューンはようやくその手を離した。
繋いでいた右手がすこし寂しそうにその温もりを失っていく。
「あぁ、気にするな。もう休め。」
『はい、ダリューン様も。おやすみなさい。』
「おやすみ。」
エレンを部屋まで送り届けるとダリューンも自分の与えられた部屋へと戻っていく。エレンはその大きな後ろ姿をずっと見ていた。通路を曲がったことでダリューンの姿が見えなくなり、そろそろ部屋に入ろうと扉を開ける。
『――わっ!?』
「エレンおかえり!」
扉を開けた途端、赤髪が視界に映った。
ついで拘束される左腕。なにが起きたのか頭がついていかない。
「聞いてたわよ〜。なに部屋の前でダリューン卿とイチャイチャしてんのよ〜。」
『ア、アルフリード!別にイチャイチャなんかしてない!』
問答無用でぐいぐい引かれる左腕。いまから拷問でもされるのか私。
同じく部屋で矢を自作していたファランギースも微笑ましくエレンを見ていたのだ。
「さぁ、座って!今日は全部白状するまで寝かせないわよ!」
『えー、なにを白状することがあるのよ…。』
「決まってるじゃないダリューン卿のことよ!」
無理矢理座らされたエレン。その隣にアルフリードが陣取り、視線を前にすればこれまた助ける気もなさそうな女神官様。
ぐいぐいと詰め寄るゾットの娘。
これはデジャヴというやつかな?つい先日も同じような目にあったぞ、と思い返す。
これは本当に白状しないと眠らせてはくれないやつだと観念したのかふかーいため息をつくエレンであった。
一方で、ダリューンはというと。
部屋に戻るとこれまた思わず後ずさりしてしまいそうなほど顔をにやにやさせたナルサスがダリューンの帰りを待っていたのだった。
(お主、エレンとどこで何をしておったのだ?)
(何故俺がエレンと共にいた事を知っている。)
(兵士から聞いた。寝る前に明日の軍議での話を少しして置こうと思ってな。お前を探しておったのだ。)
(…。なにもやましいことはしていない。)
(ほう…?)
やけに今日のナルサスはエレンのことに食いついてくるな、と思うダリューンであった。
ナルサスはナルサスでダリューンのこの様子では本当に“何も”なかったようだな、と呆れるのであった。
やれやれ、もう少しはっぱをかけてやるべきか…。
エレンとダリューン。
お互い同室の者から追求されてることなど知る由もない。
ペシャワールでの夜が静かに明けていく――…。
第8章・完 2022/09/20