第8章
夢小説設定
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その場から立ち去ったバフマンにかわり、キシュワードが殿下の部屋とエレン達それぞれの部屋、そして湯の用意をすると言ってくれた。
湯の用意と聞いて一番喜んだのはギーヴだった。
一方でアルスラーンから逃げるように離れたバフマンは自室に閉じこもっていた。
「知らねばよかった…。知るべきではなかった…。」
頭を抱えるバフマン。その手には彼の唯一無二の友・ヴァフリーズからの手紙が握られていた。
あぁ…、何も知らずにいられたら…、
あの聡明そうな王子に永遠の忠誠を誓うことが出来たであろうに…。
それにエレオノールのことも…、
ヴァフリーズの言うことが本当であればあの娘は…、あの方は…、
サームはこのことを知っていて養子にしたのだろうか…、
いったいわしはどうすれば…――。
* * *
用意してくれた湯殿で旅の汚れをきれいさっぱり落としてすっきりしたエレン。
ファランギースとアルフリードはすでに上がっていてもう部屋に戻っているだろう。
貰ったうぐいす色の羽織と裳(下半身に着るスカート状の衣類)で身軽になったその足で厩舎に行こうとした。
ここまでの長旅に愛馬・ヴァナディールを労いにいこうと思ったのだ。
エレンは廊下ですれ違った兵士に声を掛けた。
そこへたまたまダリューンが通りかかる。
廊下で兵士とフードをすっぽり被った人物が話しているのが視界に入った。
しかし気にすることなくその場と通り過ぎようとする。侍女と兵士が他愛のない会話をしていると思ったからだ。
…だが、ふとダリューンの元に届いた香りに思わず踏み出した一歩を止めた。
覚えのある香りだったからだ。
もしやと思い、気づけばその名を呼んでいた。
「エレンか?」
『―?、ダリューン様。』
やはり思った通りの人だった。
フードで隠れていた姿も振り返れば間違いなくエレオノールその人。
呼ばれて振り返ればそこにいたのがダリューンだったことにエレンも嬉しそうな顔をする。
ダリューンは胸をくすぐられるような感覚になった。
兵士からなにかを受け取り軽く会釈し、エレンはダリューンのもとへ駆け寄った。
『こんばんは。よく私だとおわかりになりましたね?』
「あ…あぁ。こんなところで何をしていたのだ。」
まさか香りで気付いたなどと言えば一歩間違えれば変態とも思われかねない、と咄嗟に判断したダリューンはその返答を濁した。
ギーヴならさらりと言いそうだ…。
それはそれで彼女をいつかのように怒らせてしまいそうだ、とダリューンは心の中で苦笑いする。
『兵士の方からこれを頂いてたんです。ヴァナディールの鞍の鐙革が古くなったので替えはありますか、と。あと厩舎の場所も。ダリューン様はどちらへ?』
「殿下を部屋までお連れしたところだ。」
『殿下はもうお休みに?』
「あぁ。…厩舎へ行くのだろう?俺も付き合おう。」
『え?ダリューン様ももうお休みになられては?シャブラングのお世話なら私がしておきますよ?』
「気にするな。お主の苦労話も聞いてやらねばならんしな。」
ダリューンが言う苦労話とはきっとナルサスとアルフリードのことを指しているのだろう。
そう気付いたエレンもあはは、と苦笑いした。
それにいくら味方の城とは言え、夜に年頃の女性を一人うろつかせることにダリューンはすこし抵抗があったのだ。
「エレン、あまり一人でうろつくなよ。」
『はい?』
「ここはエクバターナとは勝手が違う。お主を守っていたサーム殿もそばにはおられんのだからな。」
『はぁ…。わかりました。』
「…。」
たぶんわかってないな、とダリューンはこっそりため息をついたのだった。
ペシャワールの中はダリューンのほうが詳しかったので厩舎のへの道も彼に任せてついて歩いた。
道すがら、他愛もない話に盛り上がる。
『キシュワード様、私を軽々持ち上げておいて“重くなったな”なんて言ったのですよ?ひどくないですか?いつまでも私を子供扱いするんです、あの方は。』
「ははっ。」
他愛もない話といっても、もっぱらキシュワード殿への愚痴であったが。
しかしダリューンにはそれほど前からエレンがキシュワードと交流があったことに驚いていた。
『よく父に会いに邸にいらしてましたから。五、六歳…くらいかな?初めてお会いしたのは。チャームポイントのお髭が怖かったと泣いてしまって…。』
悪いことしました、と反省する素振りを見せた。
廊下から外に出るとすでに日は落ち、等間隔に灯された松明の火がかすかに城内を照らしていた。
降りる階段に差し掛かった時、ふとダリューンが振り返り左手をエレンの方へ差し出したのだ。
その意図がわからずエレンは首を傾げた。
「足元が暗い。転ぶかもしれん。」
『――!こ、転びません!』
また子供扱いか、すねようと思った。
しかしダリューンからは意外な返答が返ってきた。
「今のは“子供扱い”ではなく、“女性への気遣い”というものだ。」
『〜〜っ。』
首あたりから一気に血が登るような感覚がした。
暗くてよかったと心底思う。
きっと今、自分の顔は夕日のように赤いだろう。
戸惑いながらも差し出された手に遠慮がちに右手を少しだけ乗せ、左手は服の裾を踏まぬよう持ち階段を降りた。
まさかこのような扱いを、しかも自分が恋慕う相手からされようとは。
急に喋らなくなったエレンを不思議に思いながら彼は歩みを進める。結局、ダリューンは足元が見えない厩舎までエレンの手を引いて歩いてくれた。
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