第8章
夢小説設定
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エレンはその真っ赤な顔を弱々しく振った。
『し、知りませんよ!言ってないですからっ。』
「なんだ、言わぬのか。ダリューン相手ならサーム殿も納得するのではないか?」
エレンの父親への懐き具合からして、父親の方も相当娘を溺愛していたはずだ。
となれば嫁に出す相手にも頭を悩ませてるに違いない。とナルサスは予想する。しかしエレンから返ってきた言葉はその予想を遥かに外れたものであった。
『私はどなたとも結婚するつもりはありませんので。…だからダリューン様への想いを伝えるつもりも無いのです。』
「…。それはお主の過去、が関係しておるからか?」
『――っ!』
さっきの赤い顔はどこへやら消え去ってしまった。
エレンは驚いたようでナルサスを見る。
本題はこれだったか、と勘ぐる。
これも彼の話術なのだろうか。
結婚しないなんて単なるわがままと捉えられるかと思っていたからだ。
『何故…、』
「少しずつであるがお主の事がわかってきてな…。疑問に思うことも全てお主の過去と繋がっておるのではないかと考えたのだ。」
『…。』
「背中の古い火傷の跡も、火が苦手だということも、サーム殿の養子であるということも。」
『――っ。』
ドクン、と心臓が鳴った。
私はナルサス様という人を侮っていたのかもしれない。
頭の切れる人だとは認識していた。
でもそれでは甘かった。
ナルサスの鋭い視線がエレンを貫くように見た。その鋭さに再び身動きが取れなくなる。
『わ、たしは…、』
「…。」
ナルサスはエレンの話す言葉を静かに待った。
『私は…パルスの騎士、です。戦う定めの人間です。ただそれだけです。…今はこれしか言えません。叶うことならすべてを抱え、誰にも話さず墓場に持っていくつもりです。』
「エレン…」
『私は、私の願いはアルスラーン殿下がパルスの国王(シャーオ)の座に着いていただくこと。…ただそれだけなのです。』
エレンは己が抱える“何か”をすべて闇に葬り去るつもりなのだ。
ナルサスは思った。
軽い気持ちでカマをかけたつもりが、目の前の彼女にもどうやら“途方もないこと”を抱えているようだった。
果たしてそれはもう聞くことが敵わない亡きカーラーンが抱えていたことと同じことなのか、あるいは…。
「(それ以上のなにか、か。)」
なにはともあれ。
ナルサスからしてみれば聞きたかったことの半分は聞けたのでよしとしよう、と満足する。
「お主の過去、とやらはいずれ聞ける日を首を長くして待つことにしよう。あとは…そうだな。結婚するしないに関わらず想いは伝えるべきだと俺は思うぞ?」
『――!』
うっ、と言葉をつまらすエレン。
「愛する人が明日も元気に生きてるとは限らぬからな、この時代。伝えられる時伝えておかねば後悔するぞ?」
『ナルサス様…、』
エレンには想いを伝えるのに渋る理由がもう一つあった。
どうしても忘れないあの日のこと。
そう…ダリューンが絹の国【セリカ】の使者団の護衛に行った時のことだ。
すごくショックを受けて食事も食べなかった私を父は大層心配していたのを覚えている。
『ナルサス様はご存知無いかもしれませんがダリューン様の心にはあの方がいらっしゃるのです…。』
「あの方とはセリカの公主のことか?」
『知ってたのですか!?』
「まぁな。だがあれは…なんというか。その、気の迷いとでも言うか…。」
すごく表現のしづらい男女の内容にさすがのナルサスも言葉が出てこなかった。
どうやらこの娘はダリューンとセリカの公主との間にある浮名を気にしているようだ。
そんなに気にすることもない、と言いたいのだがそれはそれで親友のなにかを傷つけてしまいそうで、へたに言えなかった。
「他人の俺が言うのもなんだが、少なくともダリューンはそこらの女性より遥かにお主のことを大事に思っていると思うぞ。」
『…ありがとう、ございます。気休めでもうれしいです。』
「…。」
いや、決して気休めなどではないのだが。
まぁこれ以上は何を行っても意味がないだろうな、と判断したナルサスは交替の時間までもう少し休ませてもらうことにした。
こうして村で夜を明かしたエレン、ナルサス、アルフリードの三人。
夜明け前に交代してくれたナルサスに見張りをお願いし、出発までの時間をエレンは休ませてもらった。
そのあとに起きてきたアルフリードを伴ってナルサスはせっせと亡くなった村人の埋葬に勤しんだのだった。
出発に時間になり、無事村人の埋葬も終わらせたエレン達はお世話になった村を後にした。
ペシャワールまであともう少しである。
お昼前まで軽快に馬を走らせていた時、ナルサスがふとエレンに言った。
「エレン、あそこに見えのがペシャワール城だ。」
『あれが…。』
まだ遠いがその視界に確かにペシャワールをようやく捉えること出来た。
苦労したかいがあるものだ。
「おそらく仲間もみな無事だろう。なにかあればルシタニアが触れ回っているだろうからな。だがペシャワールを目前に、ともなれば敵の追撃も過激になってくるだろう。そこで足の早いお主に頼みがある。」
『なんでしょう?』
「お主一人で先にペシャワールへ先行し、兵を出して我らを追うルシタニア兵を迎え撃つよう頼んできてはくれぬか?ペシャワールに誰か知ってる者がおればなお話は早いのだが…、」
『わかりました。大丈夫です。ペシャワールには父と同じ万騎長キシュワード様がおられます。気さくで優しい方です。』
「意外に顔が広いのだな、お主。」
『―?なにか?』
小さく呟いた独り言だったのだが、まさかエレンの耳に届くとは思わなかった。
『では先に行って兵を連れて参ります。…ナルサス様はアルフリードとあとから“ゆっくり”とおいでになってくださいね?』
「エレン!変なことを申すな!」
「もうエレンったら〜。あたし達に気を使って〜」
「〜〜っ、」
ほんのりと頬を染めるアルフリードに対し、ナルサスは頭を激しく抱え込むのであった。
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