第7章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ひゃ、ひゃ、ひゃ…。これはこれは…。」
『…っ!』
その薄気味悪さに思わずエレンも後ずさりしてしまうほどに。
無意識に剣の柄を強く握りしめた。
《300年振りでございますなぁ…お久しゅうございますぞ…。“聖女様”…。》
「――っ!」
『な、に…?聖女、様…?なんのこと…、』
その言葉がなにを意味するのかまったく理解できなかった。ただ、そう呼ばれたことにより身体がまるで金縛りにあったかのように動けなくなってしまったのだ。
「目を覚ませエレン!」
『…っ!』
「――っ、」
ナルサスの飛ばした激にエレンの身体はびくっ、と縛りが溶けたように動いた。そしてその声に驚いた黒い影もまた地中へ逃げるように姿を隠す。
だが声だけは聞こえてきた。
《ナルサス…、ほぉうナルサスか…、こんな所で会えるとは…、くっくっく。お主が死ねば面白いことになりそうだ。》
その声の不気味さに思わず鳥肌も立つ。
だがそれより驚いたのが黒い影がナルサス様を知っている、ということだった。
それほど彼らの間ではナルサス様の噂が有名なのか、それとも別に理由があるのか。
先手を取られたことにより冷静さをかいてしまったナルサスだったが相手が口の聞く者だとわかったとたん、いつもの強気な彼を取り戻せた。
考えがあるのかナルサスは民家の壁においてあるツボの中を確認するとそれをゆっくり倒して中身を地面に流した。テカテカした液体のようなものの正体。エレンはその匂いでそれがなんなのかわかった。…そして彼のやろうとしていることも。
そして次にその液体を浸した布切れを剣に巻き付けて持っていた着火剤で火つけたのだ。
するとナルサスはふとエレンに目配せをする。
それはこれから自分がやろうとすることに対して彼女への配慮だった。
それに気付いたエレンはすぐさまアルフリードが登っている樹の後ろに身を隠した。
次の瞬間――、
「ナルサス!」
ボオォオォ――!!
《ぎゃあぁぁあぁーー!!》
激しい爆発音と耳をつんざくような断末魔。
ナルサスがツボから流したのはヤシの油だったのだ。それが激しく燃え移り、黒い影をまるごと焼き尽くす。火が苦手と言ったエレンにはこれほどの業火はきっと耐え難いもののはず。
だから事前にナルサスは目配せをして見ないように気を使ってくれたのだ。
あとはたったの一撃だ。
のたうち回る黒焦げになった黒い影をナルサスの剣が首をはねた。
「二人とも、もういいぞ。」
『ナルサス様、』
「化け物をあんな手でやっつけるなんて…!」
アルフリードは始終興奮が冷めなかった。ナルサスはナルサスでやはり気を張っていたのだろう。どっと疲れた様子だった。
『大丈夫ですか?ナルサス様、』
「あぁ、なんとかな。お主は?平気か?」
『あ…、』
ナルサスが聞いたのはおそらくあの火のことだろう。たった一度しか言ったことがないのに、忘れす気にかけてくれたナルサスにエレンは申し訳無さが半分、嬉しさが半分だった。
『はい。大丈夫です。…ありがとう、ございます。』
「よし。」
「あんた凄いんだね!強くて頭も良くてさ!」
アルフリードが冷めぬ興奮をそのままナルサスにまくし立てていた。
「大抵の人はそう言ってくれる。」
「…うん!ナルサスあんた歳はいくつなの?」
「―?二十六だが、それがどうした?」
『ダリューン様の一つ下だったのですね。』
「二十五を超えてるのか。もう少し若いのかと思ってた。」
「…ご期待に背いて悪かったな。」
というかいきなりそんなことを聞いてアルフリードはどういうつもりなのだろう。
そんな二人の話を小耳に挟みながらエレンは切り捨てられた黒い影の成れの果てを見た。
この村には一人しかいなかったが、あのような者がたった一人でこんな事をするはずはない。もしかしたら他の仲間のもとに別の誰かが向かっているのかも…。
それに…、とエレンの脳裏で木魂のように繰り返される。
『(聖女様…、って…)』
いったいどういうことだろう…。
もしかして、この“力”のことを言ってるのだろうか…。
エレンは自身の手のひらをじっと見つめたのだった。
「待て。落ち着け。そんなことより食事にでもしよう。」
「あたし結構料理うまいよ。」
きらきらと期待の眼差しを惜しげもなくナルサスに向けるアルフリード。
さっきからなんの話をしているのだろう二人は。
「…さっきから何が言いたいのだお主は。」
「鈍いんだねぇ、まだわからないの?ほんとに?」
「…。(わかっているがわかりたくない!!)」
『ナルサス様?どうされました?』
「エレン!食事にしよう!腹が減ったであろう!」
『…?』
突然を声を張り上げたナルサス。
それは普段の彼とは想像もつかないほどの慌てっぷりだった。
* * *
《アルザングが殺されたか…、》
ここはペシャワールを目指すエレン達がいる場所から遥か彼方の地下深く。
その部屋は奇妙な場所で古びた書や薬草、動物の骨が供え物のように所狭しと並んだ暗い部屋だった。
《意外にあっけなかったのぅ。》
《まことに不甲斐なきこと…、》
《同志たる我らも尊師に面目が立ちませぬ。》
尊師とやらにチャンスを懇願すつ二人の魔道士。
《どうか名誉を回復する機会を頂きたく存じます。》
《まぁそう恐縮せずともよい。それにアルザングはよい“置き土産”をおいて逝ってくれた。》
《…置き土産…ですか?》
《300年振りに【聖女様】が現れたそうだ。》
――!
道士達にどよめきが走る。
《もう少し…もう少しだ…。【聖女様】の血を贄にさせていただこうか…。蛇王ザッハーク様の為に…。》
尊師、と呼ばれた男が静かに…不気味に微笑むのだった…――。
第7章・完 2022/09/17