第7章
夢小説設定
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煙を抜けた瞬間、剣の音も、弓を引き絞る音もしなくなった。
シン…と静まり変える自分の空間で必死に音を拾おう耳を澄ます。
『駄目だ…。なにも聞こえない…。』
殿下は…、皆は無事だろうか…。
こういう時、割と胸騒ぎがすることが多いのだが意外にも落ち着いている自分がいる。
誰かが殿下のお側にいてくれてるのだろうか。
むやみに探し回ってルシタニアに遭遇しても危険だ。仕方ない、とエレンはヴァナディールの手綱を引いた。
『一人だけど、進むしか無いよね…。お前だけが頼りよヴァナディール。』
エレンの言葉に愛馬はフン、と鼻を鳴らす。
任せとけ、とでも言ってくれてるのだろうか。
一人になり、暗闇の中を慎重に進んだ。
極力戦闘は避けたいので迂回迂回と道なき道を進み、さすがにこれ以上は自分も馬も休ませなくてはと考え、茂みに隠れ火も焚かずに静かに夜を明かした。
明日は夜明け前から動こう。
そんなことを考えながら、ふと自分がたくましくなったような気がした。
『(少しまえの自分なら想像もつかないな…。旅を始めた頃は不安しかなかったのに。)』
殿下を探そうと父のもとを離れ一人きり。
不安しかなく、それでもなんとか自分を奮い立たせてここまできた。
少々強引な方法だったが、これが俗に言う“親離れ”というものなのだろうか、と一人考える。
今思えば結婚なんてしないだの、父とずっと一緒に過ごすだの、と思っていたがあれは単なる甘えだったのかもしれない…。
『もうすぐ夜明けだ…。』
うっすらと空が白け始める。
ペシャワールまであとどのくらいだろう。
それまでに誰かと合流出来たらいいのだが…。
エレンは閉じていた瞼を開き、空を見上げた。
かすかに見える星の位置からおおよそのペシャワールへの方角を再確認する。
『行こう…。』
夜明け前のまだ薄暗い道を敵に悟られぬよう慎重に馬を駆ける。
幸い敵の目は他の誰かに向いているのか日が登って明るくなってもエレンは敵に遭遇することはなかった。
誰かがおとりになってくれてるのか…。
『もしかしてダリューン様が…?』
いやもしくは殿下の方に敵の目がいっているのかも…。
すると考えこむエレンの耳にありがたい音が聞こえてきた。
沢の音…水だ。
『水が流れてる…?』
だがそれは敵もおそらく同じことを思うに違いない。馬から降り、手綱を引いてゆっくりと水の音がする方へ進んだ。一度茂みに身を潜め、沢の場所を確認する。どうやら周囲に人の気配はなさそう。
『誰もいなさそう…、よかった、ヴァナディールに水を飲ませてあげられる。』
隠れていた茂みから見を乗り出して沢に近づいた。
愛馬の首をなでて、水を飲むよう促してやると嬉しそうに飲み始めるヴァナディール。
これまでの激走をいたわるように何度も首を撫でてあげた。
その時だった。
『――っ。』
誰かいる…。
人と…、馬の息遣い。
ルシタニアか…。
エレンはすっと剣に手を伸ばした。
向こうもこちらに気づいたようで息をころしてこちらの様子を見ているようだ。
『(ルシタニアではない…?かなりの手練の気配…。)』
背後の茂みに誰かいる。
エレンは先手必勝と、勢いよく茂みに向かって剣を振り抜いた。それと同時に相手もやられまいとその一撃を受け止めようと剣を振るう。
ガキン!と剣同士がぶつかりあう音が響いた。
受け止められたことにエレンは驚いたがそれよりもっと驚いたのが相手の剣が見覚えのある造りのものだったことだ。
その持ち主を見ようと視線を横にずらすと…、
『―!ナ、ナルサス様!?』
「お主だったか…。」
まさかの軍師殿であった。
エレンは慌てて剣を引いた。
『申し訳ありません。てっきりルシタニア兵かとばかり…、』
「気にするな。俺もお主をそうだと思っておったからな。一人か?」
『はい…。ナルサス様も?』
ナルサスはちょっと情けなさそうに肩をすくめてみせる。
「そんなところだ。まったくどこが智者やら、だな。だが一人合流出来ただけでも幸運といえよう。」
『私も一人で心細かったのでナルサス様と合流できて良かったです。足手まといにならぬよう気をつけますのでペシャワールまでよろしくお願いします。』
ナルサスは微笑み、エレンの肩をぽんと叩いた。
心配はいらぬ、と言うかのように。
「そうかしこまらなくても良い。案外俺はお主を“アテ”にしておるからな。」
『えぇ!?』
はっは、笑うナルサス。
エレンはすこし不安になる気持ちを隠せないのだった。
実際、ナルサスも相当な剣術の使い手だが、やはり頭を使うことに専念したい。そのため戦うものが一人でもいればなお良い。
パルスの騎士であるエレンと合流出来たことはナルサスにとってはとてもありがたかった。
ナルサスからすると彼女の力量は未だ未知数であるが、おそらく自分並かそれ以上か…。
へたをすれはダリューンに匹敵する指揮力も持ち合わせているかもしれない。
…あくまでも予想にすぎないが。
「(なにせあの万騎長サーム殿のご令嬢だからな…。騎士として父親からどれほどのものを吸収しておるか…。この旅ではからせてもらうとするか…。)」
そんなことを思われているとはつゆ知らず。
エレンは、視線を感じてはっと沢の近くの崖上を見上げた。
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