第1章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
首都エクバターナ。
城内。
カン、カン、と剣のぶつかり合う音が響いた。
今日も今日とて剣の稽古に勤しむパルス国王太子・アルスラーン殿下。
相手は大将軍・ヴァフリーズ。
万騎長ダリューンの伯父である。此度の戦においてエレオノールの父・万騎長サームとともにこのエクバターナの守備を任されていたのだ。
アルスラーン殿下はどうやらそのことが不満らしく。ヴァフリーズも父王陛下アンドラゴラス王とともに出陣していればこのように毎日剣の稽古をしなくてすむのに。とつい愚痴を溢してしまう。
このようなことを申せばさらにグチグチとお小言が飛んでくるのであまり文句は言えないのだが。
「剣の基本が出来ているだけで立ち居振る舞いがしゃんとして見えるものです。それに殿下は初陣もまだですからその日に備えて剣を鍛えておきませんと。」
「はぁ。わかっているよ。わかっているけど…、」
「わかっておられるならキリッとなさいませ。兵士達も待っております。」
そういってやってきたのは城の正門にある広間。
そこにはパルス兵が列をなして待っていた。
上の階から姿を見せたアルスラーン殿下。そしてその隣には母である王妃・タハミーネ。
「大義である。永遠なるパルスへの忠誠を期待します。」
それだけを言い残すと王妃様はその場から立ち去ろうとする。
「王妃様とアルスラーン殿下に敬礼!!」
「あ、はは…、」
その迫力に押されたアルスラーンは苦笑いしながら手を振り、母の後を追うようにその場から立ち去った。
「母上!」
部屋に戻ろうとする母にアルスラーンはつい引き止めてしまう。
「…なんです?アルスラーン。」
「あ、いえ…、お待たせして申し訳ありませんでした。」
「いいえ。毎日剣の稽古をしているそうですね。」
「―!」
母のその言葉にぱっと顔が輝く。
アルスラーンは母が自分のことに興味をもってくれたのがとても嬉しかった。
「はいっ。父上のような立派な王になるために励んではいるのですが…、なかなか上達いたしません。いつもヴァフリーズに…」
「そう。」
途端に自分に興味を無くしたか、息子の言葉を最後まで聞かず遮るように会話を終わらせ、王妃は踵を返して自室へと戻ってしまった。
自分のことを聞いてくれて嬉しかったのにそれも一瞬の出来事であった。
ひとりぽつんと残されたアルスラーン殿下。
母の冷めた態度にしょんぼりしながら、ヴァフリーズを伴い城の廊下をとぼとぼ歩いたのだった。
城の中庭に差し掛かると上空から鳥の鳴き声が聞こえてきた。聞き覚えのある声に空を見上げる。
「アズライール!スルーシ!」
「おぉ、こやつらが帰ってきたということは。」
ヴァフリーズも知った鷹なのだろう。
アルスラーンは服の袖を巻き二羽の鷹を呼んだ。
「おいで!…っうわ、」
アズライールが勢いよくその腕に止まったが、あまりの勢いに後ろへ転ぶアルスラーン。後ろで殿下っ、と侍女が心配そうにする。
だがそんなことも気にならず、アルスラーンは嬉しそうにする。
「おかえり。アズライール。」
「殿下。」
ヴァフリーズや侍女たちとは違う声で呼ばれたアルスラーンはアズライールからその声の主の方へ視線を向けた。
黒い外套に若い見た目によらず、立派な髭を生やした武人。
「キシュワード!戻ったのか!」
「飼い主より先に殿下に帰還の挨拶とは。生意気なやつらめ。」
そういいながらも彼は嬉しそうだった。
「はっは、なめられているな。」
「いえいえ。私がなめられているのではなく、こいつらが心のそこから殿下を慕っているのです。獣や鳥は相対する人物の心を映す鏡。殿下の心の健やかさをこやつらはわかっているのです。」
そういうとキシュワードはアルスラーン殿下の前で膝をついて頭を下げた。
「遠征ご苦労であった。みな無事か?」
「は。当方の損害は軽微にて。友邦マルヤムに進入してきたルシタニアを我がパルス軍が撃退致しました。」
アンドラゴラス陛下のご帰還です――。
そのころエクバターナ北西の門からパルス軍が凱旋していた。その中央にはアンドラゴラス陛下が堂々とした威厳でパルス国民の前に姿を表す。
民は国王陛下と屈強なパルス軍を一目見ようと駆けつけた。
民衆の歓声を聞きながら軍の列は城を目指し進む。
その中には此度の戦に参戦した数々の将兵や万騎長達もその姿を民衆の前に現す。
その姿に幼い子供もいつか自分も騎士になるのだと夢を見るのだった。
パルス軍の帰還をエクバターナを上げて皆が喜んでいた。
* * *
『ただいま帰還しました、父上。』
「おぉ、エレンか。よく無事で戻った。怪我はしておらんか。」
後ほど、共にアルスラーン殿下の元へ帰還のご挨拶に伺いましょうと約束したダリューンと別れ、エレオノールは一度邸へと帰宅した。ちょうど登城する前だったようで父・サームが身支度を終え、出かける前であった。
何度も怪我はないか、痛むとこはないか、としきりに聞いてくるものだからこの人の寿命を縮めずにすんでよかったと心底思う。
もしかしたら遠征に行っている間にもすこし寿命が縮んだかもしれないが。
とにかく父を安心させることが出来て良かった。
「私はもう行かねばならん。帰ってきたらお前の武勇伝を聞かせてもらおう。」
『武勇伝などというほどのものではございませんが…。久しぶりに二人でゆっくりお話致しましょう。』
「あぁ、では行ってくる。」
戦に出るのも大変であるが、もっと大変なのがその後だ。父は主にその仕事を任されることが多い。帰ってきたらとはいうが果たしていつになることやら。久しぶりの親子の再開もものの数分で終わりを告げる。邸を出てゆく父の後ろ姿をエレオノールは見送った。
.