第6章
夢小説設定
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『アルスラーン殿下、一体何があったのですか?どうして奴隷たちはああも怒っていたのです。』
ダリューンから開放されたアルスラーンは自分の馬に乗り、カシャーン城塞を出た一行は暗闇を駆けていた。
その隣をエレオノールが並走する。
「私にもわからない…。お前たちの主人は死んだのだからお前たちはもう自由だと、いったらあのように怒ったのだ…。」
『…。』
殿下の疑問に答えてくれたのはナルサス様だった。いつかダリューン様言ってったっけ。
アルスラーン殿下の疑問はナルサス様なら答えてくれるだろう、と。
「…ホディールは自分の所有する奴隷達には優しい主人でした。あの奴隷達にしてみれば殿下も私共も主人の仇ということになるのですよ。」
『それでは彼らはあのまま奴隷として生きていくことを望んでいた、と…?』
「…あぁ。」
「なぜ教えてくれなかったのだ?こうなるのではないかということを。」
駆けていた馬の速度を徐々に下げ、やがてその足を止めたナルサス。その端正な顔を申し訳無さそうにした。
「先にそう教えて差し上げても殿下は納得なさらなかったでしょう。」
「――。」
「世の中には経験せねば決してわからないことがあると思いましたので…。あえてお止めしませんでした。」
「それはお主のことでもあるのか?ナルサス。」
「…はい。」
ナルサスは五年前、父親の跡をついでダイラム領主になり、その際領地の奴隷をすべて開放したのだ。
その話だけを聞けば大層なことをやってのけたのだな、言うのは簡単である。しかしその道のりは決して平坦とは行かなかった。
ナルサスは領地の奴隷開放、そのあとの経緯を殿下に話した。
彼が奴隷を解放後、パルス国の東の果、隣に位置する国、トゥラーン・シンドゥラ・チュルクの三国連合を退けるためしばし領地を離れ王都に滞在し、それらを無事退けた後、自分の領地に戻った時だった。
「私が開放したはずの奴隷達の約八割が舞い戻って働いているのを見つけたのです。」
『戻っていたって…何故です?』
「寛大な主人のもとに奴隷であるということ…。これほど楽な生き方はありません。」
『楽…ですか…、』
エレオノール自身も元・奴隷である。
しかし奴隷でありたいと望む彼らの気持ちが理解出来なかった。
父・サームは奴隷商から私を買い、奴隷から開放し養子として迎えてくれた。それはすごく恵まれていることだと認識はしている。
だからといって奴隷でありたいなんて思ったことなど一度だってないのだ。
「自分で考える必要もなく、ただ命令に従っていれば家も食事もくれるのですから…。五年前の私にはそのことがわからなかったのです。」
落ち込んだ様子のナルサスにエラムは心配そうに見ていた。彼もまたナルサスによって開放された奴隷の子である。
しかしナルサスに付き従うのは己の意思であって、決して人任せにしているわけではない。
エラムは幼いながら立派である。…なんならナルサスよりある意味“大人”である。
「だけどお主は信念に基づいて正義を行ったのではないか?」
だから自分もそうしようとした結果がこれだ。
カシャーン城塞の奴隷を開放しようとしたが返り討ちにあったと言ってもいい。
なにが違うのかアルスラーンにはわからなかった。
ナルサスは果てない夜空を見上げた。
そこには満天に輝く美しい星々。
「“正義”とは太陽ではなく星のようなものかもしれませんな、殿下。星は天空に数限りなくありますし、たがいに光を打ち消し合います。」
よく冷えるパルスの夜にひときわ天の川がよく見えた。この季節ならではの星座もその輝きを発している。
「ダリューンの叔父上がよく仰ったものです。“お前らは自分だけが正しいと思っとる”と。」
『ヴァフリーズ様…、』
よく王宮で叔父に小言を言われるダリューン様の姿を遠目から見かけたことがあったのをエレオノールは思い出した。
叱られる度に、申し訳無さそうな顔をする彼を微笑ましく見ていたものだ。
「ではナルサス。人間は本当は自由など必要ではないのだろうか?」
「いえ。人間は本来、自由を求めるもの。奴隷達が自由より鎖に繋がれた安楽を求めるようになったのは誤った社会制度の…」
「ナルサス?」
「…いえ、殿下。なんにしても私の申し上げることなどに左右なされますな。」
ナルサスが言葉を区切ってしまったことで不安な顔をするアルスラーン。
結局はナルサスは奴隷を開放したのだ。そんな彼の言葉をあてにするな、と言われてしまっては不安にもなるだろう。
しかしこれは殿下自身が決めて進まねばならない道である。
「殿下は大道を歩もうとしておられる。ぜひその道をお進みください。」
「――。」
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