第5章
夢小説設定
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「エレンよ、病み上がりですまぬがエクバターナでのことなにか情報があれば聞かせて欲しい。」
エラムが用意してくれた朝食を受け取るエレオノールにナルサスが言った。
アルスラーンも真剣な表情でこちらを見つめる。
『はい。此度の戦、ルシタニアは随分と知恵がついたようでした。奴隷達をけしかけ、王宮の地下水路を使い城に侵入した…。その知恵の出処はおそらく…昨晩戦った銀仮面の男かと。』
「なるほど。ルシタニアに知恵者がいるとは思っておったが…、あやつか。」
あやつか、と呟いたときのナルサスの顔はすこし怒りを含んでいるように見えた。あとでダリューンに聞くと“ヘボ画家”呼ばわりされたことが気に入らなかったらしい。
というか画家、って?
「アンドラゴラス陛下や王妃様のことはなにか知らぬか?」
『…いいえダリューン様。私も負傷し王宮の一室に監禁されていたところをかろうじて逃げてきましたので…。行方不明としか…。』
「そうか…。昨夜、俺たちもエクバターナに侵入し情報を集めていたのだが陛下はどこかに幽閉されているとしか。」
『幽閉?』
つまり生きておられる、ということか。
真っ先に殺されるかと思っていたのだが、まさかルシタニア側がそのようなことをするとは思わなかった。
『生かしておく理由があちらにある、ということでしょうか。』
「…それはまだわからぬ。故あってのことか、もしくはいざというときの交渉の手段にするか…。」
『故あって…。』
その言葉にエレオノールはカーラーンを思い出した。
故あってのこと。と彼は私や父上に言っていたっけ。
一体あの人は何を知ったのだろう。
よほどのことでなければあれほどの忠義の厚い武人が国や王を売るような真似などしないはず…。
「いずれにしても我々は少数すぎる。どうやって味方を増やせばいい。」
これ以上は考えても仕方のないことだ。
アルスラーンはみなに問うように語りかけた。
「それには殿下が将来、いままでの国政において条理に合わぬことを無くす、と…。パルスの民にお示しになるのです。王位の正統は血にあらず。政治の正しさによってのみ保証されるのですから。」
「それもそうだか…っ。もっと直接的な策略があれば…」
「失礼ながら、王者たるものが策略や武勇を誇るべきではありません。それは臣下たるものの役目です。」
「――…っ。」
ナルサスの言い分に言葉をつまらすアルスラーン。彼の中の王というのはアンドラゴラス陛下ただ一人。彼がずっとそうだったから己もそうでなくては、と思ってしまうのも無理はない。
武勇においてアンドラゴラス陛下の右に出るものはそうはいない。ナルサスの提案する方法は悪くいえば遠回りなように聞こえてしまい、いますぐにでも王都を奪還したい気持ちが焦っているのがナルサスだけでなく他のものにも伝わった。
考えを読まれていたのが、情けなくてアルスラーンはナルサスから視線を離した。
「まずは殿下の目指すのもを明らかになさいませ。」
「え―?」
「それが叶うように我らは努力させていただきます。」
「…よろしく頼む!」
ナルサスを始め、ダリューン、エラム、ファランギースにギーヴ、そしてエレオノール。六人が強い眼差しでアルスラーン殿下を見上げた。
人数は至って少ないのにどうしてこう強い気持ちが湧いてくるのだろう。
アルスラーンの目に迷いはなかった。
「時に、エレン。」
『はい?』
アルスラーンがエレオノールの方を見る。…正確にはその髪、だが。
「その髪はいったいどうしたのだ?」
『髪…?』
さらりと自分の髪を撫でる。背中くらいまではあったであろうそれが肩にすら届かない短さになってしまっていたのを思い出す。
しかも所々、長かったり短かったり。
昨晩の出会い頭からバタバタしていたのでつい聞きそびれていたダリューンもそういえばと、話す。
「それは俺も気になっていた。会戦前に会ったときはもっと長かったはずだが?」
『これは…事故?のようなもので…、』
どこか慌てふためく様子の彼女。
自らの意思でそうしたわけではないのか、とダリューンは予測する。
ふと昨晩の銀仮面卿と対峙していたシーンを思い浮かべた。
まさか…。
「銀仮面の男に、か?」
『―!?』
ギクリ、と揺れた肩をダリューンは見逃さなかった。
図星か。
跪いていた、あの時か。
剣の切っ先を向けられていたあの瞬間。あと少し早くたどり着いていれば…。
「すまん。俺がもう少し早く助けに行けていれば…、」
『ダ、ダリューン様っ、気になさらないでください。髪はまた伸びます。命を助けて頂いただけで十分でございますっ。』
落ち込む様子のダリューンを元に戻すのには骨が折れた。意外にそういうところを気にされるのだな、と思ったのは内緒だ。
ぼざぼさになった髪はエラムにお願いをして切り揃えてもらった。
ひと思いにエラムと同じくらいの長さにして、と言うとひどく驚かれてしまった。
「い、いけません!そのような…っ。長さを揃えるだけにしましょう!私と同じ長さになど…!」
『いいのよ別に。…けじめでもあるから…。』
「エレン様…、」
結果、エラムを負かしたエレオノールの髪型は少年さながらの短さとなり一行の度肝を抜かせる事となった。
ギーヴも残念がっていたが、短くなったことによって覗く細いうなじを見て、これはこれで悪くないか、と独り言をこぼすのであった。
第5章・完 2022/09/02