第29章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『はぁ、はぁ…っ。』
ずぶ濡れのローブを引きずりながらなんとか堀から這い上がることが出来たエレン。その視線をペシャワールに向けると漆黒の空に立ち上る黒煙と火の手の明かり。
まさに城内では火災が起き、そのどさくさに紛れてナルサスとダリューンらがペシャワールを脱しようと奮闘していたのだ。
その騒ぎに城の兵士らが気を引かれている今のうちになるべく遠くまで逃げなくては。エレンは濡れたローブを引き裂いて走りやすくし、そのまま真っ暗な夜道を一人、駆けていく。
剣もなければ、甲冑も、馬もない。水も食糧もないけれど。
絶望的なこの状況でも、不思議と怖くはなかった。
足が痛くても。息が切れても。延々と走り続けるエレン。
この先にアルスラーン殿下がいると信じて。
『(今すぐ追いつきます。アルスラーン殿下…っ。)』
待っていてください。
どのくらい走り続けたのだろう。限界が来て一度足を止めた。
膝に手を着いて呼吸を整えていると、かすかに馬の鳴き声が聞こえてた気がした。
振り返って目を凝らす。追手がきたかと予想し、地面に耳をつけて確認する。
『(一、二、…三頭…。いや、もっとか…。)』
ペシャワールからの追手なら、ここまで来るのにそうも時間かからず追いつかれるだろう。隠れる場所もない。強硬手段でパルス兵を切り破らねばならないかもしれない、と近づいてくる馬の蹄の音に警戒する。
なにせ明かりの一つもない夜道。至近距離まで互いの姿を確認出来ないこの状況で。かたや目立つ衣装のエレン。向こうに存在を気づかれたのか、大きな声で叫んだ声が警戒するエレンの耳に届く。
「エレンーっ!!」
『――っ!』
この声は――。
ドクンと心臓が跳ねた。
その声の主が誰なのか、わかった瞬間。胸が熱くなって涙腺が緩み感極まって、喉の奥が熱く声が出せなかった。
『ダ、リューン、様…っ!』
暗闇から突如、最初に姿を表したのは漆黒の衣を纏い、愛馬シャブラングに跨ったパルス一の豪勇ことダリューンだ。その彼に続いてナルサス、アルフリード、ファランギース、ギーヴ、エラム、ジャスワントと信頼出来る者たちが次々とその姿を表した。
ひと足早く城を脱したエレンの無事を皆が喜んだ。
「また変わった服を身に纏っているなエレン。」
『全くです。早く脱ぎたいですよナルサス様。』
「塔から飛び降りた、と聞いたが。まさか本当にやってのけるとはな。」
そう仕組んだのはそちらなのに、と苦笑いするエレンに感心するダリューン。
『まだ心臓がドキドキしています。最初にカゴの中にあった“縄”を見た時は信じられなかったです。塔から飛んで、堀にも落ちたので全身ずぶ濡れです。』
「それでよく無事だったわね〜。」
自分でも信じられないわ、と感心するアルフリードに感想を語った。
『とにかくみんな無事で良かった。早くアルスラーン殿下を追いかけましょう。話はそれからです。誰か一緒に馬に乗せてもらえますか?』
「エレン様、」
『エラム?』
こちらをと仲間たちの間から一頭の馬の手綱を引いて見せたエラム。その手綱の先に繋がっていたのが…。
『うそ…。ヴァナディール〜!なんで!?』
見覚えのある白いたてがみのエレンの相棒ことヴァナディールだ。しかも鞍とエレンの甲冑を荷にくくりつけられているという用意周到ぶり。
主を見つけたヴァナディールはぐいっとエレンの服を噛んで早く乗れとい言わんばかりに滅多に見せない感情を表した。そんな彼女の鼻先を撫でながらエラムに問い詰めた。
『どうしてヴァナディールがここに!?』
「私の独断でございます。エレン様がもしかしたらペシャワールに残られるという選択をされる可能性もあるなかで、あなたなら城を脱出してアルスラーン殿下を追われるのではと思い、一か八かで共に連れてまいりました。」
咄嗟の判断でございます。お許しください、と申し訳なさそうな顔をするエラムをエレンは歓喜のあまり勢いよく両腕を広げた。
『偉いぞエラム〜!さすが!なんて気が利くの!』
「エレン様っ!」
一回り身長が小さいエラムの頭をぎゅっと包み込むようにして激しい抱擁をする。…エレンの一方的だが。
突然のエレンからの抱擁に動揺するエラム。顔を赤くし、目を回す初い少年のリアクションなど気にすることなく抱擁を続けるエレンにいい加減に可哀想に感じたファランギースが止めに入る。
「その辺にしておいてやれエレン。エラムが可哀想じゃ。」
「続きは是非このギーヴが引き受けましょうぞ。」
「おぬしは話をややこしくするでない。」
ずばっと斬り捨てられるギーヴの戯言をスルーし、ようやくエラムを解放したエレン。胸を抑えて落ち着かせようとする少年を見てつい興奮してしまったと『ご、ごめんね。』謝罪した。
『嬉しさのあまりつい…。大丈夫?』
「だ、大丈夫です…。」
顔を真っ赤にしながら大丈夫というが視線がエレンを直視出来ないのか明後日の方向を見ながら平気だというエラム。とんだとばっちりを受けた自分の侍童を哀れに思うナルサスだった。
『とにかく、先を急ぎましょう!アルスラーン殿下の元へ!』
第29章・完 2026/1/27.