第27章
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『悪い人ではないのだけれど、どこかいい加減な部分も否定出来ない方なのよね。』
「ファランギース殿ともあろうお人があのような粗野な男をそばに許すなど…っ」
首にかけていた布をぐっと握りしめる。
自分は違うのかい、と心の中で思うだけにしておいた。
ファランギースも大変である。そうしみじみと同情してしまう。絶世の美女として生まれた者の宿命なのだろう。
だからこそギーヴやクバードといった尻の軽い、いい加減な男のあしらい方を知っているのだろう。
ナルサスのところへ行くといってギーヴと別れたエレン。
彼からの雑務をこなし、夜の決戦に向けて最終段階の詰めを進めた。
そうして訪れた夜。
ナルサスの策を託したトゥース卿と兵を見送った後、後続の部隊の出戦の準備に取り掛かる。主に隊をキシュワードとダリューンで形成しその中にクバードやエレン、イスファーンらを配置させる。
アルスラーン殿下きっての希望もあり今回の決戦に参加される。
トゥラーン陣営の偵察に行かせていた伝令兵が戻るのを待つ。
「伝令!トゥース隊から連絡あり!トゥラーン軍が奸計にかかった模様!陣営に帰還したとの由!」
「よし!トゥラーン軍には自分の国へ帰ってもらうとしよう!」
ペシャワールの城門が再び全開し、アルスラーン殿下を陣頭にパルスの騎兵が列をなして前進する。
「狙うは国王トクトミシュの首、ただひとつ!
防戦一択のペシャワール城がここにきて攻戦に転じる。
ナルサス卿の奸計に見事に嵌り、混乱してるところをパルス軍に狙われトゥラーン軍を一気に追い詰めた。
大量の矢を浴びせられ、事態が急すぎて呆然としている。また味方かもと手をこまねいているトゥラーン兵たち。夜討ちをして味方を敵と間違えたことがさらに彼らの士気を下げたのだ。
「パルス軍だ!」
「待て!本当にパルス軍か!?また同士討ちだったらどうする!」
「いや⋯しかしジムサ将軍が寝返ったと
「パルス軍を引き連れて戻ってきた
混乱が伝染していくようで、誰かが憶測をいえばそこから燎原の火の如く。
パルス軍の増援が本当だ、と十万の兵が押し寄せているとか。
草原の覇者ともあろう者がなんとも無様な姿を敵国で晒している。
「もうだめだ!
うわあぁ!と逃げ惑う兵士に収集がつかなくなったことを悔やむ武将たち。
「同士討ちで気力を削いで戦意喪失させてからの夜襲か!」
「悪辣な⋯、悪辣な!!ナルサスとやらいう奴は悪魔か!」
「陛下!ご命令を!」
あまりの卑怯極まりない策にトクトミシュ国王も言葉を失う。
「たとえ人だろうと悪魔だろうと罠に落ちて手をこまねいていては殺されるだけです!今はこの罠を食い破るしか生きる途はないのですぞ!」
あまりの惨状に動くべきなのに動けない国王。
判断をこまねいている王にしびれを切らした臣下のイルテリシュ親王が代わって指揮を取った。
「諸将!剣を取って死戦せよ!」
「お⋯、おうっ!」
親王の掛け声に戦意を取り戻したトゥラーン兵が息を吹き返すように勢いを戻してくる。
先日剣を交えた武将はキシュワードを見つけると再戦を申し込んだ。
決着をつけられなかった前回を悔やんでいたキシュワードもその再戦を嬉しそうに受けて立った。
一方で、大勢のパルス兵を打ち取る猛将ことタルハーンにダリューンが一騎打ちを申し込む。
両名とも激しい打ち合いの末、キシュワードとダリューンが見事相手の武将を打ち勝利。
姿を見せない国王トクトミシュに向けてクバードやアルフリードが煽るが一向に現れることはなく。あれだけ城門前で剛気な姿を見せていたというのに。
なんとも呆気ないものである。
総崩れのトゥラーン軍。
その中でイルテリシュだけが現状を受け入れられず、一人アルスラーン殿下の首を取ろうと躍起になっていると、その彼を引き留めようと数名の兵が呼び止める。
「お戻りください
「我らは草原の覇者ぞ!これしきのことで!アルスラーンの首を取らねば!」
『そこまでです。トゥラーンの
「誰だっ!」
イルテリシュの前に現れたのはエレオノール。
戦場に似つかわしくない女の戦士の登場に不意を突かれた兵だったが、相手が一騎だとわかると我に返って剣を取った。
「
「ボイラ将軍もタルハーン将軍も討ち死いたしました!
「!!?」
「相手は“女”一人だ!
剣を振り三人の兵が一斉に襲いかかる。しかしエレンは冷静に剣と腰に下げていた“ある物”を手に取った。
それはまるで生き物のようにしならせ、一人の兵の腕を捉えると残りの二人の兵の方へと振り回し体制を崩した彼らの首を駆け抜けながら剣で一閃。的確に首を狙って斬りつける。
同時に三人もの兵を倒したこの女は一体何者なのか⋯。
呆気に取られるイルテリシュ。
エレンが手にした物。それは革製の鞭だった。
これなら一度に大勢の敵と戦える。そう考えたのだ。
トゥース卿が持つ獅子用の鎖を見て、非力な私でも扱えるものが無いかと模索し考えついたものだった。
『あなたを守る者はもういません。ここで引き下がるというのなら見逃しましょう。』
「この俺に逃げろと言うのかっ。この俺がっ⋯―、」
『あなたが誰であろうと知ったことではありません。先に仕掛けてきたのはそちらです。どのような結果になろうとそれは自業自得というもの⋯。』
「⋯っ。」
彼女の瞳と視線がぶつかったとき、最初に感じたのは“見透かされている”という恐怖。その瞬間、空気が数度下がったような錯覚に陥った。
まるで自分がひどく無防備な存在であるように。
鋭いけれど攻撃的ではないエレンの碧い瞳は、数多の修羅場をくぐり抜けてきた者だけが持つ、深く、静かな審美眼。
ただの女ではない。そう感じたイルテリシュはエレンが紡ぐ言葉に悔しいそうに食いしばった。
もう立て直しようのない此度の戦になんの戦果も得られていない。
草原の覇者ともあろう我らがなんとも情けない終わり方であろうか。
いまここで⋯――、
『この女を殺したところでなんになろうか。』
「――!?」
まさか心を読まれたかのような言葉に正解だと言わんばかりに目が開き身体が反応してしまう。
『そう、思っているような顔をしていましたよ?⋯なんなら試してみますか?どちらにせよ、恥を上塗りするのはあなただということは明白ですが⋯。』
「なにっ!?」
喪失仕掛けていた戦意が再び戻って来るが確かにこの女の言う通りだ。
勝ったとしても、パルスの女に勝てたと言いふらすことではない。万が一負けたとすればなお恥であることは確かだ。
なによりこの俺を前にしてこの女の堂々たる態度や自信は一体どこからくるのか⋯。
この女に、俺は勝てる、のか⋯?
「(―!なにを馬鹿なことを!俺はトゥラーンの
しかし身体は正直だった。剣をエレンに向けるが切っ先が震えるのだ。
なにかおかしい。どうして目の前の娘に恐怖を感じるのか⋯。
「(圧倒されているのか⋯。この俺が⋯、)」
氷晶のように冷ややかで、同時に深く澄み渡った“碧い瞳”。しかしその瞳から燃えるような炎を感じる。その瞳に見つめられると、嘘や虚飾はすべて剥ぎ取られ、魂の核まで露呈してしまうような感覚になる。
右手に剣と、左手に鞭を持つ女騎士。
勝てないはずはないのに⋯。身体が言うことを聞かないのだ。
「きさま、名は。」
『⋯。パルスの騎士、エレオノール。』
「エレオノール⋯。覚えておくぞ、きさまの名を。この俺を圧倒させたのだ。次会う時は楽に殺してやらぬ。」
『――!』
静かにそう言い残すとイルテリシュは冷静さを取り戻したかのように馬を引き返し、一人シンドゥラの領地の方へ向かって走り去っていったのだった――。
こうしてトゥラーン軍はなにもパルスから得ることなく、味方の屍を積み重ねただけの侵略はようやく終わりを告げたのだった。
攻囲が解けたペシャワール城ではパルス軍の大勝利に歓喜の勝鬨を辺りに響かせた。
トゥラーン軍が敗戦し国への帰り支度をしていることを知ったシンドゥラの色男ことラジェンドラ陛下はにやりと口元を上げたのだった――。
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