第27章
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捕虜を捕らえてから日付が変わった明朝――。
一騎の馬が城門を開け出ていった。その様子をエレンが城壁から見ていた。門を開けた見張りの兵に聞くと軍師殿からの使いで伝令を託かったと言われたそうだ。
そう、と小さく返しその場を去る。その顔には作戦通り、と顔が怪しく笑みを浮かべた。
エレンはそのままナルサスの策を実行するため、まずトゥース卿を探した。城門広場で待機していた彼に声を掛けると、軽く頭を下げられた。
「何か御用で。」
『お願いがあって参りました。ナルサス様の策をあなたに託したい。』
「―!俺に出来ることなら。」
承ろう。と二つ返事で了承してくれる。
トゥース卿は初めて会ったときから私に対して、見下したり嫌味を言うようなことは一切しない人だった。一人の騎士同士という対等な接し方をしてくれるのだ。
それが新鮮で不思議で妙にくすぐったいような感覚がした。
今まで初対面でそのような態度を取られることが初めてだったのだ。
『トゥース卿には今夜、二千の兵を率いて裏工作を仕掛けてもらいたいのです。ある場所で火を焚き、あたかも野営をしていたかのように装い、トゥラーンの軍勢が来る前にその場から身を隠してやり過ごしてほしいのです。非常に危険な任ですが引き受けて、いただけますか⋯?』
「なぜトゥラーンの軍勢が押し寄せると?」
『昨日捕らえた捕虜の前でパルス軍の増援が来るという内容の会話をするよう見張りの者に伝えました。その捕虜はパルス兵になりすまして早朝、このペシャワールを脱出しているのを確認しました。今頃本陣に意気揚々とこのことを伝え、我らの裏をかこうと策を弄している頃でしょう。』
「なるほど。だがやつはパルス語はわからないのでは…。」
冷静にエレンの解説を理解するトゥースに、さらに続ける。
『“わからないふり”というのは存外難しいものです。ちょっとした動作でそれが本当なのか嘘なのか。見ていればわかります。』
「ではやつは実はパルス語が理解出来ると⋯?」
頷くエレン。彼女の洞察力につい感心し言葉を失うトゥース。
只者ではない、と薄々感じてはいたがここまでとは⋯。
彼女が持つ他と違うオーラを年長者のトゥースには感じていたらしい。
いままで出会ってきた者の中で彼女は“普通”ではない、と長年の勘が告げていたのだ。
「その任承った。ナルサス卿にもそう伝えて欲しい。」
『ありがとうございます。この策がうまくいけばトゥラーン軍は今夜のうちにパルスを出ていくことでしょう。』
「責任重大だ。」
『ですからトゥラーン卿、あなたにお任せしたいのです。』
トゥース卿は年長者ゆえ、視野も広く状況判断が冷静に出来る人だ。
先のルシタニアとの戦いでそう思った。
笑う彼女に視線が釘付けになる。
ただ笑っているだけなのに、ついその期待に答えたいという気が起きる。まるでアルスラーン殿下と対面しているときのよう。
『一帯の地形の地図をお渡しします。野営地のポイントを書き込んであります。夜でも字が見えるよう蛍光塗料で書き記してあるので暗闇でも見えるはずです。事前に確認をお願いします。』
「承知した。」
『それと野営したポイントから身を隠す際、ペシャワールに向かってなるべく馬の蹄の跡を多く残すよう細工をしてください。』
「それもナルサス卿の策か?」
『はい。トゥラーン軍には“同士討ち”をしてもらいます。』
だから新月の今夜までナルサスは待っていたのだ。
夜討ちに最適な日和になるまで⋯。やるなら徹底的に、と言った彼の表情のなんと楽しそうなこと。⋯それは口にはしなかったけれど。
「エレン殿。」
『?、ギーヴ!』
振り返るとそこにいたのは旅から帰ってきた楽士・ギーヴ。顔を洗いに来た帰りのようで前髪から少しだけ水が滴っている。
そういえば戦場で言葉を交わしたけれど城に帰還してからはまだだったことを思い出す。
トゥース卿と別れ、ギーヴと歩きながら話をした。
「エレン殿にまだちゃんと帰還のあいさつをしていなかったな。」
『ふふ、そうね。おかえり、ギーヴ。』
「…。あぁ、ただいま戻りました。」
手を胸に添えて仰々しく頭を下げるギーヴにエレンはさらにくすくすと笑った。
おかえり、だなんて久方ぶりに言われたものだ。
まさか流浪の楽士ともあろう俺がそんなことを言われる日が来ようとは…。なんて感慨深い思考に浸る。
『愛しのファランギースには会えたかしら?』
「そう!ぜひともエレン殿に聞こうと思ったのだが、“あの男”は一体なんなのだ!?」
『“あの男”?…もしかしてクバード様のこと?』
めったに表情を崩すことのないギーヴがここまで嫌悪感を見せる相手。自分の留守の間にちゃっかり麗しの女神官殿の隣を陣取っていたことが許せないらしい。
クバードのことかと言うとその男だ!と意気込むギーヴにエレンはやや苦笑い。
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