第26章
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「おう、ダリューン。ずっと門番か。助かるな。」
「⋯ザラーヴァントは?」
「
まだ死んでないのに“敵討ち”など、ザラーヴァントも可哀想である。
本人が聞けばまだ死んでおらぬ、と抗議しそうだ。
「ではついでに有力な武将を一人捕まえてきてくれませんか。ナルサスに言われているので。」
「おう、いいぞ。」
ここは街中かな。軽く“買い物ついで”みたいな会話をする万騎長二人に味方から引かれていることなどこの人たちは知らない。
「行くぞイスファーン。」
「ははっ。」
門番にダリューンを残し戦場に向かうクバードとイスファーン。
向かった先では先程、ザラーヴァントを死地へ追いやったトゥラーンの将を見つけたクバード。次々とトゥラーン兵を討ちとっていくクバードに果敢に挑む吹き矢使いの男。
しかしクバードの腕力につい怯に、何度か剣を打ち交わすがあまりの剛腕に剣が折れてしまいそうだ。クバードの凄まじい剣裁きと剛腕に耐えきれずに落馬してしまうが、そこは遊牧民。器用に立て直して馬にもう一度跨る。その様を見ていたクバードはトゥラーン人の馬術の巧みに感心した。
かたや、クバードの剛腕を相手に痺れる腕に加え、頭までも揺れてる気がした吹き矢使いの男。その彼にイスファーンが追い打ちをかける。剣を交わし、吹き矢でとどめを刺してやろうと吹き付けるも狙うのは剥き出しの顔周りと理解したイスファーンは咄嗟に剣の腹でそれを防いだ。
まさか防がれるとは思わなかったのか。驚きつつも吹き矢をもう一本、と矢を手に伸ばすがその前に背後から誰かに腰紐を捕まれ力いっぱい引っ張られると馬から強引に地面へと叩きつけられた。
吹き矢使いの男はそのままクバードの手によって捕らえられることに。
* * *
囚われたトゥラーンの吹き矢使いの男は両腕を縄で拘束され、アルスラーン殿下の前に突き出された。
対面するアルスラーンの背後にはナルサス、エレン、ダリューン、キシュワードの他、数名の兵士が控えていた。
「降伏すれば命は助ける。どうだ?」
「??」
アルスラーン殿下の話すパルス語が理解できないのか、捕虜になった吹き矢使いの男は首を傾げた。
「この者、パルス語が話せぬと見えますな。」とナルサス。
「通訳を頼めるか?」
頷くとナルサスは捕虜に向かってトゥラーン語で語りかけた。
「“パルスの王太子、アルスラーン殿下であらせられる。おぬしに降伏をすすめているがどうだ?”」
「―!。“トゥラーン人はトゥラーン国王以外の者にけっして膝を屈することはないのだ。ましてや自分より勝る勇者でもあればまだしも、未熟な小僧などに降伏してたまるか!”」
罵詈雑言を吐いてそうな彼の表情だったが、なにせトゥラーン語はわからない殿下。今度はこちらがきょとんとする。
彼の吐いた言葉にナルサスは通訳しても?と一応確認をする。
「罵られていそうなことはわかるが⋯。詳しく聞かせてくれ。」
ナルサスは今しがた彼が吐いた言葉を一語一句偽ることなく殿下に通訳して差し上げる。すると、それを聞いた彼がふっと笑い出したのだ。
「ははっ⋯。たしかに自分は小僧だ。」
悪口を言われたのに彼がにこにこと笑っているので、なぜか無性に腹が立つ捕虜の男はさらに暴言をトゥラーン語で浴びせた。
「“そこに据わっているパルスの小僧も遠からずトゥラーン軍の出に捕らえられ、我らが国王の御前に引きずり出されるであろう!そうなった時は貴様らは旧敵の恨みを忘れてトゥラーン国王に仕えるよう忠告するつもりか!?俺は降伏などせぬぞ!!”」
「――、だそうです。」
「ふむ。」
捕虜の言葉をアルスラーン殿下は冷静に受け止めるも、他の者はそうはいかない。吹き矢使いの男の傍で控えていたイスファーンが怒りをあらわにし、剣を取る。
「おのれ言わせておけば雑言のかぎりを!」
「待て待て。殿下の御意だ。殺すな。」
「ですが軍師殿!こやつ、これほど恐れげなく雑言を吐くからには降伏する気などござるまい!生かしておけば後日の災い!斬り捨てて立派な墓に葬ってやるのがこやつ自身のためでもござろう!」
「あわてるな。殺すのはいつでもできる。よろしゅうございますか殿下。」
こういう時のナルサスはいつも何かを企んでいる。⋯そう思うようになったのか、アルスラーンは意義を唱えることなく頷いた。
もとより殿下のご気性ゆえのこともあるかもしれないが。
しかしイスファーンだけは納得がいかないようで。
ザラーヴァントをやられたこともあるのだろう。このまま無罪放免になっては彼に申し訳が立たないと思うのか、ぐっと歯を噛みしめるのだった。
こうしてトゥラーンの吹き矢使いの男は一時地下牢に入れられることになった。連れられるその後姿を悔しそうに見つめるイスファーンにエレンは声をかけた。
『イスファーン卿、』
「―!エレオノール殿。」
呼んだ人物と顔を合わせようと下に視線を下げる。
じっと見上げるエレンがイスファーンを心配そうに見ていた。
『大丈夫ですか?』
「⋯はい。」
大丈夫ではない、と言えるはずもない。エレンもそう理解するからこそすこし申し訳なさそうに笑みを浮かべた。
そして捕虜が去っていった方向をじっと見つめる。
『敵を取れないことの悔しさは痛いほどわかります。ですがこれはナルサス様の考えあってのこと。どうかそうのように。』
「⋯あやつはまだ死んでおりませんよ。」
『⋯っ。そうでした。』
なにかにつけて“敵討ち”とクバードもエレンも言うのでつい言いたくなる。ザラーヴァントはまだ死んでいない、と。
自分の失言に、あははと苦笑いするのでそれを見ていると先程の苛立ちが消えて無くなっていくのを感じたイスファーンだった。
「エレン。」
『はい?』
イスファーンと話すエレンを呼ぶナルサス。遠くからこちらを見ていたのでどうやらついてきて欲しいようだと察すると彼女はイスファーンに軽く頭を下げ、ではまた。と短く挨拶し小走りで軍師の元へと駆け寄っていった。
『ナルサス様、“彼”はたぶんパルス語がわかる気がします。』
「おぬしもそう思うか?」
城内の廊下を歩くナルサスとエレン。
先程の対面で感じたことを正直に話した。
『“わからないふり”というのは存外難しいものです。』
「そうだ。わかるのにわからないふりをするというのは器用な者がすることだ。」
『たとえば⋯ナルサス様みたいなお人とか?』
「ふふ。まぁ俺ならそのくらい朝飯前であろうな。」
ちょっとうれしそうにするナルサスにやれやれと思う。
『“朝飯前”だなんて。使い慣れない言葉を使うものではございませよ。』
「なぜそう思う?」
『だって、ナルサス様は“朝飯”はちゃんと食べたい派でしょう?』
「⋯。」
図星なのか、うっと言葉を詰まらせる。
エレンはふふっ、と笑い声が溢れた。
『欲を申せば、エラムの作った朝ごはんをちゃんと食べてから仕事に取り掛かりたいはずです。』
「⋯おぬしとの付き合いもずいぶん長くなってきたものだ。」
というより、よく人を見ている。この娘は。利口な娘と思っていたが、むしろ侮ってはいけないような気さえしてきたナルサス。
まさか自分のことをここまでお見通しとは。
なにかにつけてナルサスは糧食のことばかりを考えるのだ。
遠征にしろ、城内に滞在するにしろ。アルフリードにナルサスはいいとこの坊っちゃんなのに、ご飯のことばかり考えてるんだー。と意外そうに彼の一面をエレンに話していたのを思い出す。
とにかく、と咳払いをしナルサスは話を替える。
「明日の深夜にはトゥラーン軍と決着をつけるぞ。明日は新月だ。」
『夜討ちには最高の日和でございますね。』
エレンの返しに、まったくこの娘は⋯。とナルサスは感心する。
こちらが言おうとしていることを瞬時に察する能力には脱帽である。
「忙しくなるぞ。準備は怠るなよ。」
『はい。お任せください。火炎瓶のさらなる改良を――』
「それはもうよいっ。」
エレンは両の手を握りしめ意気込むもそうではなかったようで。
違った?と言わんばかりの顔をする弟子にナルサスはつい突っ込む。
ダリューンがナルサスに突っ込み、ナルサスがエレンに突っ込む。いつかエレンがダリューンに違うだろ、と突っ込む日が来るだろうか。
ダリューンやナルサスに従っていたエレンだったがいつからだろう。遠慮なく、対等に話せるようになったのは。いつの間にか、二人の後ろではなく二人の間に立っているような。そんな気がした⋯。
ナルサスはふとそんな事を思う――。
今頃、地下牢の捕虜の前でパルス兵が油断し“うっかり”増援の話をしている頃だろう――⋯。
第26章・完 2025/11/28.