第26章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「殿下がお戻りになられた!」
「ご無事か!?」
心配そうにするジャスワントをはじめ城の兵士らが殿下を囲む。
そんな中、アルスラーン殿下は改めてギーヴに礼を申していた。
それを遠目から見つめるイスファーン。
他の兵士らもギーヴが帰参したことに不満を漏らす者がいたが、アルスラーン殿下の窮地をお救い申し上げたのはギーヴだとダリューンが告げると不満を漏らす声はぴたりと無くなった。
ダリューンはダリューンでナルサスから「おぬしが出ていながら殿下を危機にさらすとは⋯」小言を言われていたのだが⋯。
『やはり野戦のトゥラーン軍は侮れませんね。動きが速い⋯。』
「うむ。ギーヴのおかげで大過なくすんだが⋯。あやつ、もっとも効果的な出番を計っていたに違いない。」
うんうん。と隣でエレンも頷いて見せる。
剣術でだけでなく頭も切れるギーヴについ感心してしまう。
ギーヴの帰還にペシャワール城の者たちはまだすこし反感の目を向ける者がいたがそれも以前ほどではなくなった。
そんな彼にライバルが現れたことなどまだ知らない⋯。
久方ぶりの愛しのファランギースを探しているとその隣に馴れ馴れしくいた男・クバードとギーヴは対面する。
下で帰還したギーヴ、ナルサスとアルフリード、エラムが騒がしくしている頃、先に食事を済ませたエレンが城壁からトゥラーン軍の動きを見張っていた。
「また懲りずにやってきますね。」
「今度はなにをする気だ⋯。」
『⋯。ずいぶんと働き者ね。トゥラーン人は。』
「遊牧民というのはそうなのでしょうか?」
さぁ?と首を傾げて誰も答えを知らないので、ははっと呑気に笑いが起きた。
「エレン、何か動きはあったか?」
城壁へ上がってきたダリューン。兵士たちと見張りをするエレンが城壁の間を彼に譲るようにしてエレンがダリューンを見上げた。
『夜だというのに、トゥラーン人はまだ働くようですよ。』
「そのようだな。」
先程までの大軍ではないが、一万騎ほどはいるだろうか。こちらに向かってくる様子が見て取れた。
『ダリューン様。私はナルサス様を呼んで参ります。この場をお任せしても?』
「⋯いや。俺が呼んでこよう。エレンはここにいろ。何か動きがあればすぐに知らせてくれ。」
黒衣のマントを翻し、足早に城壁を降りていくダリューンの後ろ姿に向かって『よろしくおねがいします』と言ってその姿をじっと見つめる。
彼の気遣いに感謝しながら、エレンは再び城下へと視線を送り警戒を続けるのだった。
エレンの頼み事を引き受けたダリューンは城門広場にいたナルサスを見つける。なにやらエラムとアルフリードに詰め寄られたいそう困った様子だった。
「おい、“天才画家”。お前の弟子が呼んでいるぞ。夜だというのにトゥラーン軍が城門に押し寄せてきた。」
「なに!?それは一大事!のんびりしてはいられぬな!すぐにエレンの元へ行くぞダリューン!!」
渡りに船とはこのこと。呼びに来たダリューンを差し置いて脱兎の如く駆ける(逃げる)ナルサスに短く、おう。と返事をするもすでにその姿は遠く。
駆けつけたナルサスにエレンが状況を説明する。
説明するほどでもなく、見れば一目瞭然なのだが⋯。
押し寄せたトゥラーン兵は城門前で出てこい!だの、腰抜けだの。知る限るのパルス語を使いこちらを挑発する。
「こんな時間に勤勉なことだ。殿下を捕らえ損ねたのがよほど悔しかったとみえる。」
「相手にしてやらねば、また領民に害が及ぶな。」とダリューン。
『⋯また出られるのですか?』
背を向け歩き出すダリューンにエレンが呼びかけ、あぁ。と頷いてナルサスの方をみる。
「“トゥラーンの武将を一人、捕まえてこい”と言っただろう?」
『では私も一緒に⋯、』
「いや。今回、エレンはナルサスを手伝って城を守ってくれ。」
付いていこうとする足がぴたりと止まる。
すこし残念に思うもこちらの防衛も重要な任務だ。
ダリューンからすればエレンの先駆けの籠城戦に加え、今朝の出戦の参加。身体に疲労が溜まる頃だろうと心配してのことだった。
がっかりする肩にナルサスが手をぽんと乗せて励ます。大丈夫だ、と。
「やることは山程あるぞ。」
『大丈夫と仰ったのはどっちの意味ですか。』
ダリューンを心配する私になのか、役割がないことに心配した私に大丈夫といったのか⋯。
悪巧みを考えてそうな笑みを見せる師匠にちょっとげんなり。
「エレン、城壁の投石車を動かす準備をしておいてくれ。それと、“火炎瓶”の準備もな。」
『⋯。もう聞いたのですか⋯?』
エレンがペシャワール城の者、総出で作らせた特性“火炎瓶”。
これが大変効果があったと帰還したナルサスが後で聞いたのだ。
そのような知識も知っていようとは⋯、ふっふっふと一人怪しく笑うところをダリューンが通りがかりに見ていたらしい。
『とっくに準備出来ていますよ。なんならさらに改良をしています。』
「改良とは?」
ふふん、と自慢げに胸を張る弟子に何をしたのか。期待と不安が過った。
『鍛冶職人の方から火薬を少し譲っていただきまして。火炎瓶に微量の火薬を仕込みました。発火した際さらに火が暴発する仕組みです。』
「⋯。おぬし火が怖いくせによくそのようなことを思いつくな。」
確かに言われてみれば。
まさかの指摘にエレンもあはは、と苦笑いした。
城門前では押しせてきたトゥラーン兵がパルス語を諦めて母国の言葉で野次を飛ばす。
「“出てこいパルスの腰抜け共!”」
「“王太子はどうした!もう戦わぬのか!”」
「“羊の方がまだ気骨があるわ!”」
『やっておしまい。』
「⋯、はっ!」
とくにあの辺りを⋯、と集中的に石を投げろと指示をするエレンにそれを実行する兵も苦笑い。あそこらへんから殿下が羊よりも⋯どうとか言うのが聞こえた気がする。
投げた石の他に、白い布の袋も一緒に投げるとそれは破れた拍子に中に入っていてものが出てくる。城壁のパルス兵が溢れ出てものを狙って火矢を放つと一気に爆ぜて燃え上がる。白い布の袋の中身は油だ。
目の前で立ち上る炎にエレンも思わず冷や汗が出るがこの距離と規模ならまだ大丈夫だった。⋯すこし手は震えるが。
燃え上がる炎が城門前を明るく照らし出す。
その爆炎の煙の中をダリューン率いる隊が飛び出した。
「(ナルサスに有力な武将を一人捕らえてほしい、と言ったが⋯。どうも雑兵ばかりだな⋯。)」
目ぼしい動きを見せる武将らしき者が見当たらない。
おぉ!!と果敢に立ち向かってくる“雑兵”もといトゥラーン兵を見ながら余裕綽々のダリューン。これが万騎長まで登りつめた勇将の技量なのだろうか。
ダリューンの他にザラーヴァントも再び出戦しており、先鋒で戦闘を繰り広げていた。そこへトゥラーン兵の中でも一際動きが違う者がいた。その者は剣と吹き矢を手に足さばきで馬を操り多くのパルス兵を討ちとっていく。
「うぬ⋯。これは並の腕前では相手にならんな⋯。我が名はザラーヴァント!いざ勝負――⋯、」
張り切って名乗りを上げたがその相手が、どうも子供のような顔立ちをしていたためつい気が削がれる。こんな子供のような顔をしているやつに我が軍の兵士たちがバタバタとやられたのだろうか。
しかしその見た目とは裏腹に剣術、馬術は並のトゥラーン兵とは一味違う。
「手綱を使わず、足だけで馬を操るか!トゥラーン人め、あなどれんっ。」
感心していると相手が闇に消えるように姿を隠す。トゥラーン人は夜目が効くことを失念していたザラーヴァントは無闇に突っ込もうとするが刹那。身の毛がよだつ感覚に手で防御の体制を取ると、そこに一本の吹き矢が刺さる。腕に刺さった瞬間、手が痺れ身体が硬直していく。瞬時に毒矢だと判断し、命の危険を察したザラーヴァントはそれ以上応戦をやめ、すぐさま撤退する。
「ザラーヴァント隊が戻って来ました!」
「―!どうしたザラーヴァント。何か⋯、」
様子がおかしい。
いつもなら声を張り上げて状況を伝えてくるのだが。
「毒の⋯、吹き矢を使う⋯、手練が⋯っ」
決死の撤退にザラーヴァントの意識がついに途切れる。
とどめを刺さんと追ってきたトゥラーン兵をダリューンが片付ける。
「門はまかせろ!ザラーヴァントを助け城内へ戻れ!」
「ははっ!」
城内に帰還したザラーヴァントに多くの兵が駆け寄る。
イスファーンもその一人。肩を貸し荷代に乗せて搬送させる彼の姿を城壁に上がる階段からアルスラーン、ナルサス、クバード、エレンが心配そうに見守る。
トゥラーン軍にとんでもない吹き矢使いがいる。ザラーヴァントが命がけでもたらしてくれた情報はすぐさま城内に広まった。
百発百中で矢には猛毒が塗られているらしい。そんな敵がいると知れな自然と兵士たちの士気も下がってしまうのは仕方のないこと。
このままではいかんな。と察したクバードは己の出番と理解し階段を降りていく。
『クバード様も出られるのですか?』
「あぁ。城は任せたぞ。イスファーンも連れてくが、いいだろう?」
ナルサスを見上げるクバード。
お任せします、とだけ言うとそれ以上の会話はなく、出戦しにいくクバードに向かって『お気をつけて』とだけ声をかけた。
馬に乗ったクバードは動揺する兵士をどうしたものか、と悩むイスファーンの元へ向かう。
「おい。何をぼうっとしている。」
「―っ!」
自分の事を言ったのか、声がする方に視線を向けると相手は馬に乗っていて。しかも大男ときた。
大剣の隻眼の男となればイスファーンも認知している。
「おぬし、シャプールの弟だったな。“
「―!!⋯否!」
兄弟共々、焚きつけるのが上手いのがこの男・クバードだ。
意気込むイスファーンを連れてクバードは門を出る。そのさきを守るダリューンを見つけた。どうやら門前に彼がいるので近づけばやられれるとわかっているからトゥラーン兵も尻込みしているようだ。
.