第26章
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数刻前――。
エレンはナルサス、ダリューンと共に城壁にいた。
「出陣の準備をしておいてくれダリューン。」
「なんだ?トゥラーン軍がどれだけ挑発してきても当分は出戦せぬのではなかったのか?」
当初はその予定であったしそれをダリューンやキシュワード、諸卿らに伝えておいたはずだった。
なにやら難しそうな顔を見せるナルサス。
「トゥラーン国王が出て来たので考えが変わった。―ひとつはトゥラーンの有力な武将を捕らえてほしいからだ。」
「うむ。承った。」とダリューン。
「もうひとつは、アルスラーン殿下が出戦を主張なさるかもしれぬのでその時はお守りするのだ。」
『殿下が?』
「ないに越したことはないが、あのトクトミシュ王が出て来たとなると⋯。殿下の逆鱗に触れるようなことを躊躇なく行うだろうな⋯。」
そう呟いたナルサス。それはまるで予言の様に起きた。
出陣だ!と声を張り上げるアルスラーン殿下。
普段怒りの感情を見せることのない彼にとってそのきっかけとなるのが弱き者や大切な何かを傷つけられた時だ。
その相手が無情であればあるほどに。
「罪なき者を殺したトゥラーン王の蛮行を許すことはできない!」
激昂する主のその様子にダリューンは「これか。」とナルサスに言う。
「そういうことだ。」
「戦の計算より、感情を優先してもよいのか?」
「時として計算ではなく、感情を満足させねばならぬ場合もある。――目の前で罪なき者が踏みつけられるのを黙って見れいられる御人ではないのだ。アルスラーン殿下は⋯。」
ここは殿下のお気の済むようにしていただくしかない、と言ったナルサスにエレンも師匠の名を呼んだ。
『では私も時によって感情を優先させてもよろしゅうございますか?』
「なに?」
『脅されたので脅し返したい、と⋯。』
エレンの言い様にナルサスはふっと困ったように笑う。
しかし駄目だと止めることもなく。よかろう、と小さく言った。
「退く時機だけは誤ってくれるなよ、ダリューン、エレン。」
「わかっている。行くぞエレン。」
『はい。』
ダリューンの後を付いて城壁の階段を降りていったエレン。
アルスラーンの号令により城内が一気にざわつき始める。
トクトミシュ王の命によって民の命が奪われた時からそう時間も掛からず、ペシャワールの城門がようやく開いた。
アルスラーン殿下を陣頭にパルス軍が出陣する。
おおぉ!と猛々しい声を上げながら突き進むパルス兵に待ってましたかのように大雨のように矢を浴びせるトゥラーン兵。
その先陣を共に出陣したザラーヴァントが突き進む。
「これしきの矢で止められると思うなよ!貴様らの王の陣まで道を開けよ!」
破竹の勢いの如く進んだザラーヴァントの隊がトゥラーン兵を追いかけると、引き下がった敵が左右に別れザラーヴァントを含めた隊を包囲し孤立させてしまう。その動きの速さはペシャワール城壁からも見て取れるくらい俊敏で、さすが遊牧国家の騎兵。敵ながら思わず感嘆の声が出てしまう。
「トゥラーン軍の動きが速い!」
「さすがに計算ずくで待ち構えているか。」
先鋒部隊のザラーヴァントらが出陣した後、続いてダリューンとエレンが出陣する。エレンの愛馬・ヴァナディールは負傷中のため別馬に乗っての出陣である。
敵も黒衣の騎士が出てきたと目をつけると一斉に矢を浴びせ集中攻撃をする。狙われるダリューンを他所にアルスラーン殿下は感情を優先し、先へと進んでしまわれたのでダリューンから離れてしまう。
「殿下!あまり先に行かれては⋯っ!――ぬうっ!」
「撃て撃て!撃ちまくれ!」
「殿下ー!くそ⋯っ、エレン!殿下を!!」
『―――はいっ!!』
その場から動けないと察したダリューンは近くでトゥラーン兵を討ちとっていたエレンを呼ぶ。その声だけで何をずべきか瞬時に判断したエレンはまた一人切り捨てると、馬の腹を蹴って勢いよく駆け出す。
その間にもアルスラーン殿下は勇ましくトゥラーン兵を倒して行くが、次第に周りを敵に囲まれてしまう。
「この小僧なかなかやるな!」
「いい鎧をつけておる。名のある将か?」
「嘴の黄色い雛鳥よ!貴様の名はなんという!?人語を喋れるならさえずってみせろ!」
あきらかに馬鹿にしたような言い草のトゥラーン兵。まさか目の前の人物が敵総大将とは思いもよらなかっただろう。
「パルスの王太子アルスラーンだ!だが別に覚えてもらう必要はない!」
「なにぃ!?」
「王太子!?」
勇敢に剣を振る少年がまさかの王太子と知ってトゥラーン兵は驚くがすぐに態度が変わる。
「そうかそうか⋯。西方の蛮族とやらに都を奪われ帰るに家なきパルスの孤児とは貴様のことであったか。」
下品な物言いは彼らの品位を表しているようだ。
国家といえどさすが遊牧民。宮廷のような上品さに欠けてよくない。
「哀れよのう⋯。サマンガーンに連れ帰り檻に入れて飼ってやろうか?一生餌には不自由させんぞ。」
がはは、と仲間の冗談に笑う。
余裕に浸っていると、刹那。とてつもない殺気が彼らを金縛りのように動けなくする。
『一体誰を飼うだと⋯?』
「――⋯っっ、」
ごくりと喉が上下する。息を吸うのも恐ろしく、喉を噛みつかれそうな猛獣のような視線。それだけで射殺してしまえそうなその者は。
「エレンっ。」
アルスラーンに名を呼ばれ一瞬だけ振り向いてふわりと笑って見せるも、束の間。殿下の前に出て、再びトゥラーン兵を見つめる。
『私を檻に入れて飼う、というのならそれもいいだろう⋯。ただし、私を檻に入れたその日から枕を高くして寝られると思うなよ⋯。いつでもお前たちの寝首をかいてやろうぞ――。』
「⋯ふ、ふざけたことをぬかすな!女っ!!王太子の首を差し出せぇ!」
圧倒されていた自身を奮い立たせて、トゥラーン兵は我に返るように剣を振りかざす。
「礼節も仁慈も知らぬ敵に降伏する気はない!」
「生意気な!」
討ち取ろうと立ち向かってくる敵にアルスラーンは剣を振りかざした。しかしその剣先を背後にいた兵に叩き折られてしまい、チャンスとふんだ数名の兵士が襲いかかる。
『殿下っ!』
盾になるようにエレンが剣でその攻撃を受け止める。しかし一人で複数の攻撃を受け止めるには分が悪かった。次第に押されていく彼女。すると窮地に立たされたエレンとアルスラーンの前にいた敵が何者かに斬り付けられ、絶命した兵士を乗せた馬だけがひとりでに走っていく。
突如現れた人物にアルスラーンとエレン、ダリューンやイスファーンらも釘付けにした――。
『「ギーヴ!!」』
ついさっきまで一緒にいたかのような変わらない雰囲気の彼。
助けてくれたのがギーヴと知るとアルスラーンは嬉しそうに彼を呼ぶ。
「ギーヴではないか!よく戻ってきてくれた!」
「恐縮です殿下。」
と、にこりと笑いながら背後に襲いかかる敵をぶすっと一刺し。
「そろそろ帰参の時機かと思い、こうしてでしゃばって参りました。」
『ギーヴ、あなたさてはこの戦いを影から見ていたでしょう⋯。』
「はて。なんのことであろう。」
こいつ⋯。とつい漏れてしまいそうになる本音を飲み込む。
その代わり視線で彼を訴えた。
突如現れた男・ギーヴの登場にトゥラーンは目ざとく目につける。
「なるほど。貴様の名はギーヴというのだな。」
「ただの“ギーヴ”ではないぞ。上にちゃんと【正義と平和の使徒】と付くのだ。」
鼻につくセリフに戯言を!と叫び剣を振りかざすトゥラーン兵をまた打ち取る。
「気に入らんか⋯。それなら【美女には愛を。醜男には死を】がよいか?」
もはや目の前の男が誰だっていい。
討ち取った敵の剣を拝借すると、それをアルスラーン殿下に投げて渡すギーヴ。
「殿下!エレン殿!駆け抜けますぞ!」
「あぁ!先を任せてもよいかギーヴ!」
彼を心から信頼しているからこそ頼める先駆け。
アルスラーンは迷いなくそれを彼に託す。ギーヴもアルスラーン殿下からの信頼に答えるように「御意に。」とそれに従った。
走り出すギーヴと後を追うアルスラーン。その彼を援護するようにエレンが後をさらに追う。
『ギーヴ!アルスラーン殿下を頼んでもいいかしら。』
「エレン殿の頼みとあらば。」
喜んで。とわざとらしい微笑みを浮かべるギーヴに少しイラッとしながらも、彼になら殿下を任せられる。そう感じたエレンは押されるパルス兵を率いるザラーヴァント卿のもとへ馬を走らせた。
ギーヴの登場に一時、戦場が乱れそれを目ざとくザラーヴァント卿が気取ると、好機と取り敵を一気に打ち落とす。
『ザラーヴァント卿!一時撤退を!』
「承知した!」
ザラーヴァントと合流したエレン。彼と並んで並走しながら撤退を指示し、二人で馬を駆ける。
「奴ら城に戻る気だぞ!」
「腰抜けめ!」
二人を追うように迫るトゥラーン兵の隊の間をうまくすり抜けたザラーヴァントは一目散にペシャワール城の門へと走る、かと思いきやザラーヴァント卿がエレンに目配せをし、それに気づいたのかコクンと頷いて見せると一斉に進行方向を左右に別れ、それに続くようにパルス兵も左右、列になって別れる。すると別れたパルス兵に囲まれるように孤立するトゥラーン兵。動揺する彼らを一気に殲滅した。
「さきほどの戦法、そっくりそのままお返しするぞ!」
「おおぉー!!」
押していた筈のトゥラーン兵。いつの間にか戦況はパルス軍に傾き始めたようだ。
「エレン!」
『――ダリューン様!』
戦況を覆したところでダリューンが合流する。
「ザラーヴァントも。これ以上の深追いは無用だ。一時城へ撤退するぞ!」
「承知した!」
『はい。⋯殿下は?』
「ギーヴとイスファーンと共にすでにペシャワールへ帰還された。」
ダリューンのその言葉にほっと胸を撫で下ろす。
しかしイスファーンに援護を任せるとは⋯。大丈夫であろうか?
顔に出ていたのかダリューンに「心配ない。」と小さく言われたのでとにかく今は早く城へ帰還しよう。
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