第26章
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「エレン、ご苦労だったな。」
ナルサスがエレンを労う。
「よく耐えてくえた。」とダリューン。
『いえ、本隊が思ったより早く到着されたので。ここにはエクバターナと違って奴隷もいなければ、秘密の地下道もない。なにも恐れることはありませんでした。』
そう話すが少しの過労は重なっているのだろう。
ダリューンの目にはエレンがいささか疲れているような顔に見えた。強がる弟子にナルサスも申し訳なさそうに笑みを浮かべる。
「おぬしに先鋒の隊に付いて行くよういったのは俺だが、あとになって気づいたのだ。籠城戦の指揮を取るよう任せたが、エクバターナの事を思い出すのではないか、と。」
『それは⋯、考えはしましたがさきも申し上げた通り。ここはペシャワール。エクバターナとは違います。それが功を奏した、と思っております。』
さきだってペシャワール城の奴隷を解放したことが大きかったことだろう。ルシタニアにならってトゥラーン軍が奴隷たちをそそのかすような言葉を使っていたらどうなっていたことか。
それこそエクバターナの二の舞い、だ。
『ルシタニア軍の方はどうでしたか?』
「うむ⋯。実は王都エクバターナの様子がいささか気になってな。」
『⋯と、言うと?』
「ダリューンよ、ルシタニア軍の反応が鈍いと思わないか?」
鈍い、と言われればそうかもしれないが。それはナルサスの策によるものではないのか、とダリューンが言う。
ナルサスは顎に手を添え、考える。
「我が軍の後退にまるで手を出してこなかった。」
「おいおい。何を今更⋯。ナルサスの策通りに奴らはエクバターナに釘付けになったのだろう?」
「⋯。」
どうやれそれだけではなさそうだとナルサスは思考を巡らせる。
確かに後退するパルス軍を追ってルシタニアが猛追撃してこないように策を弄したのだが、それにしても動きが鈍い。
切れ者の王弟殿下ギスカール公にしては、だ。
「⋯。ルシタニア軍が王都から動けなかった重大な理由が他にあると⋯?」とダリューン。
「王都城壁の外にいる敵はルシタニア人にとってそう恐れるべきではあるまい。」
『⋯王都の中で何か起こっているかもしれないとお考えですか?』
その見解にナルサスは頷く。
そう思えば納得もいくというもの。
「たとえば⋯、ルシタニア王が急病で倒れたとか⋯、派閥争い⋯、あるいは城内のパルス人による反乱⋯、」
「アンドラゴラス国王陛下が幽閉先から逃げ出し、一人でルシタニア王の首を取ってしまった、とか。」
「⋯。」
『そんなまさか⋯、⋯。』
一瞬。一瞬だけ想像してしまった⋯。
言ったあとでなんてな、と言った本人であるダリューンとともに笑う。笑いながらナルサスが城壁から身体をひょいと遠ざける。
直後、城壁に一矢がカーン⋯、と虚しく音を立て狙いを外す。
何事かと思い、顔を覗かせると数名のトゥラーン兵が城門前にいて罵詈雑言を吐いてこちらを睨んでいた。
そんな彼らにひらひらと手を振って返すナルサス。
「命中していたら歴史が変わったぞー。」と。
とにかく今は、目の前の敵であるトゥラーン軍を排除するしかない。
気の迷いでトゥラーン軍がルシタニア軍と手を組む前に⋯。
* * *
トゥラーン軍がペシャワールから撤退して数日。
城壁でキシュワードがアズライールの帰りを待っていた。
国境周辺で情報収集してくれている部下からの一報を待っていたのだ。
飼い主の腕に止まったアズライール。
「“トクトミシュ率いるトゥラーン国王軍は騎兵のみ十万”か⋯。このあたり一帯、草の根まで略奪されそうだな⋯。」
情報を読み上げて、その内容にキシュワードは思わずうわ⋯、と声が出る。
「ラジェンドラ殿は?こちらと呼応して挟撃の構えなど見せてはいないか?」
アルスラーンが尋ねるがそばにいたジャスワントからすればあの人がそんな気の利いたことをするはずもない、と胸の内で呟く。決して口には出さないが。
彼はカーヴェーリ河の東に布陣したまま、国境を超えるような動きはないとのこと、とキシュワードは伝える。
まぁ、最初から当てにしてなかったのでむしろ動きがあったほうが怪しいというもの。
眉間にしわを作って、敬うという気持ちの欠片もないダリューンが吐き捨てるように言った。
「まぁあの御仁には元から期待など微塵もしておりませんが。」
「はは。自分の利益に対して正直な人だからな。」
アルスラーンも苦笑い。
彼の癪に障る笑顔がぼやーと浮かんだので頭を振るって消し飛ばした。
『彼が国王でシンドゥラはこの先大丈夫なのかと心配になるわ⋯。』
エレンの正直な気持ちにジャスワントも母国ゆえ、うんうんと頷いて見せる。
「だからこそかえって御しやすいというもの。シンドゥラが心配だと言うのならおぬしが“嫁”にいって王位を奪ってくればよかろう。」
『―っ!もうその話は結構です!』
冗談交じりに言うナルサス。この話にはキシュワードも初耳だったらしく、なんのことだ?とダリューンを見た。問われた彼は少し気まずそうに答える。
「ラジェンドラがパルスとの国婚でエレンを妃にと望まれたのです。」
「なんと⋯。そのようなことが。」
「それでエレンが自分を妃にすれば、王位を奪ってパルスの属国にしてやると脅したのです。」
あまりに痛快な返しに、キシュワードも声を上げて笑う。
「はっはっは!それは頼もしいなっ。」
『だから行きませんってば!それにシンドゥラとの国婚を断られたのはアルスラーン殿下でございます!殿下は私がいなくなるのは淋しいと仰ってくれたのですよ?』
「ん?そうだったかな。」
殿下を盾にしようとしたけれど、淋しいとはまでは言われてはいない。エレンが大げさに話を盛っただけである。
とにかくだ。
向こうの動きが見られない限り、こちらも大人しくする他ない。
するとその後日。ペシャワール城の東の門で噂の十万の騎兵が列をなす。
その様子を城壁の上から見るアルスラーン殿下。左右に別れた隊列の真ん中を優雅に馬を進め、こちらに向かってくる一人の男がいた。見事な装飾の甲冑を身に纏うその男はこちらに向かって声を張り上げた。
「予はトゥラーン国王トクトミシュである!」
敵の総大将と知るとファランギースがギリ⋯と矢を構える。しかしアルスラーンに話を聞いてみようと制され、その矢を下ろした。
城門前に単身で姿を見せてこちらに狙い撃ちされてもおかしくない状況で大した度胸の持ち主だ。果たしてその真意とは⋯。
「多くを語る必要を認めぬ!汝らが大人しく降伏開城せねば全軍こぞって攻撃するのみだ!」
「国王自ら最前線に出て煽るか⋯。剛気だねぇ。」
『どこかの国王を思わせますね。』
クバードの呟いた独り言にエレンはある人物を思い描いた。
もちろんアンドラゴラス陛下のことであるが。
「満城を流血の湖と化せしめてくれるぞ!快い返答を待つがトゥラーン人は気が短いことを心得よ!」
トクトミシュ国王の言葉にペシャワール城は返事なく。
すると国王が合図するとそこへ連れられてきたのは数名のパルスの民。どうやら逃げ遅れたようで、トゥラーン軍に捕まってしまう。
彼らを地面に跪かせたかと思うと、次の瞬間トゥラーン兵が容赦なく剣を振り下ろす。アルスラーン殿下の制止も間に合わず目の前で命を奪われる民たち。
「パルス軍よ!城外に出てこい!降伏せぬなら出て戦え!出ぬとあらば近隣の村を焼き、毎日毎時村人をここへ引きずり出し、殺し続けるぞ!ただの脅しではないことはすでにわかったであろう!」
トクトミシュの脅迫まがいの脅しにアルスラーンは静かに息を吸って「⋯よくわかった⋯。」と答える。
「ほう。わかったか。」
「待っていろ。おぬしをすぐに先代のトゥラーン国王にしてやる!」
アルスラーンの怒りが溢れ出す――。
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