第26章
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三人の万騎長、キシュワード・クバード・ダリューンらの奮闘とザラーヴァントらの活躍、そしてパルス軍本隊の底力を見せつけトゥラーン軍は後退を余儀なくされる。
撤退の合図である笛が城門前に響き渡ると、それに気づいたトゥラーン兵は一斉にその姿を地平線の向こうへと隠した。
さすがは遊牧国家。その騎兵の行動の早さは感心するものがあった。
パルス軍の勝利である――。
「トゥラーン軍が引いていく⋯。」
城門前に敵の姿が消えたのは実に久方ぶりであった。
アルスラーン殿下の御帰還である。
ようやく門が完全に開かれ、王太子軍が入城する。帰還したパルス兵をペシャワール城の皆が歓声を上げて喜びを見せた。
エレンはファランギースとともに、その隊列を眺めそこにナルサスの姿を見つけると互いに目線を送りあった。
「殿下!アルスラーン殿下!」
「ルーシャン!」
殿下のもとへ駆け寄るルーシャン卿。
殿下の前で跪き、頭を下げた。
「申し訳ありません!我々の力だけではこの城を守りきれぬと判断して使者を出しました。⋯王都奪還への快進撃に水を差してしまいました⋯。」
ルーシャン卿の言葉に、兵士らもそうだよな⋯、と口には出さなかったが態度が見て取れた。すべて無駄骨に⋯、と。
しかしアルスラーンはそんなこと気にしない、とその優しい笑顔を彼に向ける。
「ペシャワールが陥ちなくてよかった!死者も少なかったし、みんなよく耐えてくれたな。ありがとう。」
心からの言葉と誰もが感じただろう。呆気にとられるルーシャン卿と兵士たち。
そこへシンドゥラからの使者がペシャワール城の門を潜る。
「無事に入城なによりにございますアルスラーン殿下。」
「うん。シンドゥラ領内の通過を許してもらえて助かったよ。」
「ラジェンドラ国王陛下は盟友アルスラーン殿下のお力になりたいと、一万の騎兵と二万の歩兵、さらに戦象部隊を率いて国都ウライユールをすでに出陣なさっております由。」
その知らせにラジェンドラのいらつく顔が目に浮かんだ。
出陣したなどと、華々しく語るがどうせ助ける気もないだろうに。
「自分の都合で事を運ぶつもりだぞあの御仁。」とキシュワード。
「トゥラーンとパルスの共倒れをシンドゥラの神々に祈って、軍を動かしつつこちらを見学する気でしょうなぁ。」
彼の思惑など把握しきっているナルサス。
わかりやすいといつも彼は言うが、今回は皆がそう思うだろう。
トゥラーンとパルスが共倒れになることを願っているに違いない、と⋯。
と、まぁラジェンドラの思惑はさておき、シンドゥラと連携出来たことはよい結果をもたらした。
そのことにアルスラーン殿下も満足している様子で。
「こうしてラジェンドラ殿と協力することもできた。とにかくよかった!」
「殿下⋯、」
決して味方を咎めたりしない。それがアルスラーン殿下のお人柄である。殿下の言葉に悲観ばかりする必要もない、と前向きになる兵士らは俯いていた顔を次第に上げた。
「こういうのが殿下のいいところだよね。」とアルフリードが呟くのをエラムも珍しくお前と意見が合う、とちょっと嫌そうに、でもペシャワール城の人々の無事を心から喜ぶ姿の殿下を見て少し笑うのだった。
互いの無事を称えるなか、アルスラーンは一際身長が飛び出た人物に目が行く。その男は片目が潰れていて隻眼だった。
よく知るその風貌にアルスラーンははっとなる。
「クバードか!?」
「お邪魔しておりますぞ、殿下。」
酒を片手に気さくに話しかける。
クバードがここにいる経緯をファランギースが説明した。
「パラザータ殿に馬を貸した御人がこのクバード卿だったのです。」
『一緒にペシャワール城を守ってくださいました。』
「そうだったのか⋯。」
アルスラーンの前で軽く頭を下げたクバード。
そういうところは一応礼儀を守るんだな⋯、エレンは心の中で呟いた。
「アトロパテネの戦から消息不明だったので心配していた。よかった!生きていてくれたか!」
嬉しそうにするアルスラーンの前で酒をあおぐクバードにルーシャン卿が控えよ、と言うがそんなことは気にしない殿下。よいよい、と手で彼を制し、好きなだけ飲んでゆっくり休んでくれと窮地を救ってくれた戦士に労いの言葉をかけた。
やはりここは居心地が良い。そう思ったクバードは「ではお言葉に甘えて。」と嬉しそうに笑うのだった。
言ったそばから休息を取るため城内に入るクバード。
その前にとナルサスとダリューンが久方ぶりだと声をかけた。
「ご無事でしたか、クバード卿。」
「おうナルサス!話には聞いていたが本当にアルスラーン殿下に仕えておるのだな。」
宮廷で見覚えのある姿にナルサスだと改めて認識する。
「宮廷勤めに嫌気がさして山奥で絵を描いていたのだろう?」
「ははは。出すぎたマネとは思いつつ、戻って参りました。」
「何も苦労しに戻ってくることもあるまいに。」
「いや全く。おっしゃる通り、苦労が耐えません。芸術家は俗世のことに関わるものではありませんな。さっさと俗事を片付けて、絵画の美しい世界に戻りたいものです。」
ふっふっふ、と洒落たことを言うがその隣で友人から、それは絵画の方から断られるのでは?と思うが口にすることはなく。
「クバード卿が加わってくださるのは本当に心強い。」とナルサス。
「ここにいる以外の万騎長たちはどうなった?」
クバードの問いにナルサスは包み隠さず彼に話した。
バフマン殿は先年、ペシャワール城へ侵入した者の手によって、
カーラーンは王太子殿下に反旗を翻しダリューンらで打ち取り、
マヌーチュルフ殿、ハイル殿、大将軍ヴァフリーズ殿はアトロパテネで討ち死に、
ガルシャースフ殿はエクバターナで討ち死に、
「シャプール殿はルシタニア軍によって晒し者になるところを味方に“俺を射殺せ”と⋯、それをエレンが打ち⋯、武人として立派な最期であったと伝え聞いています。」
「そうか⋯。あいつが⋯。」
そんな素振りは見せなかったが、エクバターナでエレンは籠城戦に参加していたのだったな⋯。顔を合わせれば口喧嘩ばかりだったシャプールの最後に、それ以上なにも言うことはなく。ただその背に少しばかりの寂しさが感じ取れた。
そういえば、とエレンで思い出した。
クバードはきょろきょろと辺りを見渡すと、声を張り上げてその名を呼ぶ。
* * *
同じ頃、エレンはせっせと片付けに勤しんでいるとふいに、背中をぐっとなにかに押された。なに?と振り返るとそこにいたのは想像よりも大きいもので。
それは白い毛並みをしていた。
『ヴァナディール!?』
エレンの背中を鼻先でぐいっと押したのは数日前に離れ離れになってしまった愛馬だった。本隊に合流するパルス兵がエレンの馬も一緒に連れて避難してくれたらしい。
『よかったーっ。心配したのよっ。』
無事でよかったとヴァナディールの鼻先を抱きしめるようにすり寄った。負った怪我もちゃんと手当てされており、連れて避難してくれたパルス兵にエレンは大変感謝したのだった。
そこへクバードがエレンの名を呼ぶ。
「エレン!」
『――、はい?』
近くの兵士にヴァナディールを預け、呼ばれたエレンはクバードの方を向き、そばに駆け寄った。
近くにナルサスとダリューンがいることに気がつく。
『なんですか?』
「おう。お前の親父に会ったぞ。」
『――!?』
もたらされた情報にエレンは見たことないくらい目を開かせる。
エレンの親父、となればそれは万騎長サームのことだ。
父のことは銀仮面卿もとい、ヒルメス王子から配下に付いたと伝え聞いたことくらいしか知らなかった。
クバードの話にナルサスとダリューンは顔を見合わせる。
『父は⋯っ、今どちらに!?あの、お元気でしたでしょうか!?ひどい怪我を負ったのです!』
「落ち着け。まぁ、なんだ。とりあえずあいつは無事だ。」
多少、顔はやつれてはいたが。⋯まぁそれに関してはわざわざ言うほどでもないか、とそれ以上のサームの状況を伝えるのはやめた。
「お前に、元気でやっているから心配するな、と俺に伝言を託しやがった。まったく⋯、会えるかもわからねぇってのにな。」
実際はこうして会えたわけではあるが⋯。
『そう、でしたか⋯。』
「ほらよ。あいつから預かったものだ。」
服のポケットから出したのはエレンが負傷しベッドで横たわる父の元に置いてきた耳飾りの片方。なぜそれをクバードが持っているのか謎だった。
彼が言うには、父は今エクバターナとアトロパテネの中間地点にあるザーブル城というところにいるらしく、その城を攻略する際に力を貸してやったのだと言う。しかし、長居する気も無かったので早々に立ち去る戦友に娘に会えたら渡してくれと、預けたのだそう。
手のひらでキラリと煌く耳飾りにぐっとなにかが込み上げてくる。
涙でもなく、悲しみでもない。⋯そう安堵の気持ちだ。
渡された耳飾りに、父の言伝以上の気持ちが伝わるようで。
『ありがとう、ございます⋯。クバード様。』
「おう。ちゃんと伝えたからな。俺は少し寝るぞ。起こすなよ。」
『はい。おやすみなさい。』
ひらひらと手を振りながらクバードは城内へと消えていった。
残されたナルサス、ダリューン、エレン。
ペシャワール城内の惨状を把握するため、散策しにいくナルサスについてくるよう促されたので片付けをやめて、エレンは二人に付いて歩いた。
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