第25章
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『ペシャワール城へはファランギースと私、エレオノールが入城します。残った者は戦闘をやめ、直ちに飛散して身を闇に隠してください。その後はパルス軍本隊と合流を。』
「「はっ。」」
「ほう⋯。」
まさか目の前の小娘が兵士に命を下すようなことをするとは。
しかもその内容は的確かつ明確に、ときた。この半年でずいぶん成長したようだ。⋯そう感想を持ったクバード。
これでも万騎長。その目はやはり隊を率いる者のそれである。
するとクバードを振り返るエレン。
『あなたも一緒にペシャワール城へ入ってくれますね?』
「⋯、おう。いいだろう。」
揺るぎない視線でクバードを見つめる。
この俺が指示を受けようとはな、と思いながらも今はただの旅人という肩書であるため素直にそれに従った。
そしてやがて陽が沈み、さらに静まりかえるペシャワール城とその周辺ではファランギース率いる隊が闇に乗じて動き出す。
囮役を任されたクバードは宣言通り屈強な兵とともに派手に暴れまわり、幕舎に火矢を放ちトゥラーン軍の野営地を混乱に陥れた。
混乱し逃げ惑うトゥラーン兵。そんな兵たちと違って立ち向かってくる武将がクバードと対面する。
「待てーい!我が名はイルテリシュ!トゥラーン王家の一員にして親王(ジノン)の称号を帯びたる者ぞ!ペシャワールの城壁に達したくば、我が馬前を力ずくで「⋯⋯。」――⋯ぬおっ!?」
まるでそこに誰もいないかのように素通りするクバードに、まさか戦場で名乗る途中で無視されるなんて思ってもみなかったことだろう。
すー⋯、と前を通り過ぎていくクバードに腹を立てたイルテリシュは慌ててその後を追いかけた。
「貴様は武将たる者の名乗りを最後まで聞かんのか!“礼を知らぬ蛮人めが!”」
名乗りを聞かぬし相手もしないクバードを蛮人め!と吠えるが、そもそも他国が侵略されている時に攻めてくるトゥラーンもどうかと思う。
彼の言葉がまるで雑音かのように無視し続けるクバードにしびれを切らしたイルテリシュはその背中を狙って剣を振る。
それをクバードはまるで背に目でもついているのか、剣だけを背に回しそれを防いだ。振り向きざまに見えた隻眼がようやくイルテリシュを捉える。
剣を上に押し上げるようにして、イルテリシュの剣を弾く。
「今日のところは見逃してやる。さっさと帰って母親の乳でも飲んでいろ。」
「おのれ⋯――っ!」
ただの挑発にまんまと乗るイルテリシュはその剣裁きの応酬をクバードに浴びあせた。その確かな太刀筋に武将と名乗るだけの力はあるようで、やるな。と感心を見せるも今は相手をする時ではない。
クバードを補佐するようにパルス兵が数でイルテリシュに襲いかかり彼から遠ざけていく。
「待て!貴様逃げるな!」
呑気にひらひらと手を振るクバード。しかしパルス兵が邪魔をして通れない。
「⋯っ!あやつを追えーっ!!」
その騒動はペシャワール城の城壁からでも見ることが出来た。
トゥラーン軍の陣営から火の手が上がり、なにやら騒々しい。
報告を受けたルーシャン卿はその様子を見るべく城壁に上がる。
「あちらを。西門方面の陣に火の手が上がっています。」
「⋯。」
それをじっと見つめるルーシャン卿。
あきらかに敵襲を受けているような様子に見えた。
幕舎にいくつも火が着き、陣営を明るく照らし出す。
その中でルーシャン卿はある合図を目にする。
「⋯。門を開ける準備をしておけ。」
それを合図にペシャワール城内もそれに合わせて動きを見せた。
その下ではファランギースとエレンが暗闇の中を静かに通り過ぎていく。しかし、幕舎の隙間からトゥラーン兵と目が合い、気づかれてしまう。
「駆けよ!まっすぐ門へ向かうのじゃ!」
その言葉を合図にファランギース率いる隊が一気にトゥラーン陣営を駆け抜ける。クバードは囮だと気づいたイルテリシュ。
本隊のパルス兵に動揺しながらも向かってくるトゥラーン兵をエレンは矢を打ち、剣で切り捨てていく。
『やあぁ!!』
「ぐぁ⋯っ、」
「女っ!?」
「ばかな女め!そんな格好、よく目立つわ!」
「囲め囲め!」
どっとなだれ込んでくるトゥラーン兵。
それを引き付けるようにエレンは馬を走らせる。その視線の隙間から見えた“物”にファランギースの名を呼ぶ。
『―っ!⋯ファランギースっ!』
「―!」
呼ばれた彼女はエレンが見るものに気づき、一矢を放つ。
それは敵の腕と馬の間をすり抜け、焚き火にくべられている鍋に命中する。鍋の中身が溢れそれが火にかかると一気に蒸気を上げ周辺の視界を覆った。
視界を奪った蒸気の中を一気に馬で駆け、トゥラーン兵を矢で確実に仕留めていく女神官にクバードは“パルス一の弓の名手とは彼女かもしれん”とぽつり呟く。
「開門!開門願いたい!私は王太子殿下の使者ファランギースじゃ!」
「ファランギース殿か!」
「開門!開門!」
籠城戦の為積んでおいた土嚢を急いで避け、開門に取り掛かるペシャワール城の内側。馬一頭分の高さまで上げた門をファランギースが先に入城する。それをエレンも続くように追いかける。
しかしそんなエレンの乗る馬・ヴァナディールの後ろ足に矢が突き刺さる。その衝撃で体制を崩し、エレンは地面へと落馬してしまう。
『しまった⋯っ!ヴァナディール、しっかり!』
「討ち取れー!」
「今だ!」
『く⋯っ、』
ヴァナディールを庇おうと剣を持ち前に立ちふさがるエレン。
しかし剣を振る前にヴァナディールがエレンの服を噛んで引き、まるで城へ入れと言われているようで。
いままで見たことのない愛馬の姿に悔しさが込み上げる。
『お前を置いてはいけないっ!』
服を離して、と引っ張るエレン。
そんなエレンの背後に立つ誰かが彼女の首根っこを掴んで、まさかの城門へと放り投げたのだ。
『え⋯、あ⋯、きゃー!!』
軽く五メートルほど飛ばされたのではないか。その勢いでエレンはなんと城門の内側まで飛ばされ、地面に叩きつけられるところを何人かのパルス兵が受け止め、なんとか怪我をせずに済んだ。
開門した際にトゥラーン兵に何人か侵入を許してしまったが、それでもたった数人。あっけなく仕留められ。無事?入城を果たしたファランギースとエレン。そしてエレンを放り投げた犯人・クバードも入城を果たし、残ったパルス兵は当初の予定通り、その身を闇へと隠した。
城門の外へ残してしまったヴァナディールを心配したが、去り際にヴァナディールのことはお任せください!と聞こえたのでほっとするエレン。そして安心したと同時に腹が立ってくる。
『クバード様!なんでいつも私を放り投げるのですか!!』
「おう。無事入れたようだな。」
よかったじゃねぇか。じゃない。
身分を隠してることなどとうに忘れ、思いっきり彼の名を呼ぶ。
怒るエレンとは裏腹、からからっと笑うクバード。その向こうではファランギースがルーシャン卿に会い、アルスラーン殿下の御伝言を伝えていた。
「ファランギース殿がいらしたということは⋯っ」
「そうじゃ。殿下の本軍はこちらへ向かっておる。」
その報せに城内の雰囲気が一気に明るいものへと変わっていく。
「三日間じゃ!三日間だけ持ちこたえてほしい!そうすればパルス軍の全軍が救いに駆けつける!王太子殿下はけっして味方を見捨てなさらぬお方じゃ!」
その言葉におぉ!と歓声が上がる。
「良い知らせもある。―エレン!」
『もっと他にやり方が――、え?』
クバードに文句を浴びせてたところにファランギースに呼ばれ、振り向くと城内の兵士らが一斉に同じように彼女を見た。
ルーシャン卿らはエレンの横にいた男に気づき、万騎長クバードと知る。
「先鋒隊にエレオノールを共に連れて参った。」
口々にエレオノール殿?と不思議そうにする兵士たち。
なぜそこでエレンの名が上がるのか理解しがたいようで。
ファランギースはふっと勝ち誇ったように微笑んだ。
「皆もよく知っておろう。エレンの父親が“誰”なのかを。」
エレオノール殿の父親?とそれそれが顔を合わせるなか、誰かがあ⋯、とひらめいたのかぼそっと口にする。
「万騎長サーム殿⋯、」
「サーム殿だ!」
それが一体何を意味しているのか⋯。
その答えにたどり着かない者が何人かいるなかで、意味が分かったものいる。ルーシャン卿もその一人だ。
「万騎長サーム殿は城の攻防戦に長けたお方だ⋯。まさか⋯、」
「そのまさかじゃ。ここにいるエレオノールはその籠城戦の知識を存分に父君から受け継いでおる。ペシャワール城の守りなどお手の物じゃろう。」
ファランギースの言葉にさらに城内は歓声で溢れた。
その中にはエレンが一足早く帰還したことに喜ぶファン⋯もとい侍女たちの喜びの声も混じっていたという。
『ちょっと話を盛りすぎじゃない?』
「嘘は言うておらぬ。」
しれっと言い切るファランギース。
まぁ、そうなのだが。渋るエレンに何か一言言ってやれ、と背中を押すと周りは一斉にエレンに注目する。
こういうことには慣れていないので、うっ、と言葉が詰まってしまう。
『えっと⋯、』
寄せられる期待の籠もった視線。
やる気に満ちた彼らの思いを感じ、今自分が思うことを口にした。
静まり返った城内で彼女の声がよく響く。
『私は、父サームと共にエクバターナでルシタニアと戦いました。⋯守ることは、出来ませんでしたが⋯。でもここは!エクバターナとは違います。奴隷もいなければ、秘密の地下道もない。トゥラーン人がルシタニア人に勝るとも思いません。万騎長サーム直伝の籠城戦を皆に披露して見せましょう!アルスラーン殿下本隊の帰りを⋯、昼寝でもしながら待とうではありませんかっ。』
最後はちょっと冗談を交えて。
彼女のその揺るぎない自信と姿勢。そして父の名が疲弊するペシャワール城の兵士を勇気づける。
笑い声と歓声がエレンの周りで一際大きく響き渡った――。
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