第25章
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深夜。
大陸公路の端で寝床を敷いて夜空を見つめる筋骨隆々の一人の男。
彼はとある場所ではわりかし有名な大男なのだが彼はパラザータ卿に名を隠すよう伝えたので今はただの旅人と名乗ろう。
そんな彼の耳に聞き慣れた地面を踏み鳴らす馬の蹄の音が聞こえてきた。
それもかなりの頭数のようだ、と認識する。
来たか、と思い松明を手にその音の正体を確認すべく道に姿を見せた。
それは予想通りパルス兵の騎馬隊であった。
おおい、と声をかけて約束の馬を返してもらおうとパラザータ卿を探す。
「パルス軍だな。パラザータという者はいるか?」
その声に引き止められたのは隊を率いるファランギース。
近寄る謎の男に警戒を見せた。
「おぬし何者じゃ。」
「ペシャワール城からの使者パラザータに馬を貸した者だ。」
「ほう。おぬしが我らの恩人か。⋯ならば借りを返さねばならぬな。」
少々怪しい男ではあるが、パラザータ卿の名を知っていることと彼がペシャワール城からの使者であること。それらを知っていることにファランギースは害のない人物と判断したのか、アルスラーン殿下からの言伝である馬と礼の金品をその男に渡した。
「本来であればもっと礼を尽くすべきであろうが、我らは急ぎペシャワールへ戻らねばならぬ。金品で済ますことを赦してほしい、との王太子殿下のご伝言じゃ。」
「ほう⋯。気の利く王太子だ。」
用は済んだのか、ファランギースは彼との会話に区切りをつけて失礼する。といって去ろうとする。
しかし男は次にこの隊の中にいるファランギースの存在が気になりだす。そこへ隊が止まっていることに不思議に思ったエレンが後方から馬を走らせ様子を見に来た。
『ファランギース?どうしたの?隊が止まっているけれど⋯、⋯あ。』
「お?おぬしやはり生きてたか。」
ファランギースと対面する男に視線が行く。
彼も聞き覚えのある声に、つい反応してしまう。
「この者がパラザータ卿に馬を貸してくれた御仁じゃ。今しがたアルスラーン殿下からの礼を渡したところじゃ。」
『そうなのですか!でもどうしてここにあなたが――、』
「しーっ。」
『んん?』
彼の正体を知っているエレン。彼の名を呼ぼうとしたが、何故か口止めされ。二人の様子になんじゃ、おぬしら知り合いかとファランギースが尋ねる。
どうやら彼はファランギースに正体を知られたくは無いらしい。
それを悟ったエレンはえーっと⋯、と言葉を濁した。
『彼とは⋯、以前エクバターナで会った、流浪の旅人、です⋯。』
「ふむ、そうか。」
「それより、この隊はおぬしが率いているのか?」
「そうじゃが、何か?」
問題でも?と付け足しそうな冷たさを感じる言葉のようだったが、彼にはなにも感じなかったようで。五百騎を率いる人がこのような稀に見る美女とわかれば面白さを感じてやまない。それに隣にいるのは知人の娘、エレンだ。
ふむ⋯、と顎に手を添えて考える。
王家に忠誠を尽くすことに嫌気が差してきたのだが、もう一度だけ手を貸してもいいという気にさせる目の前の美女二人。
「予定変更。」
「何?」
独り言の言葉だったがファランギースの耳には入ったようで。
おかしなことを言う男に、怪訝そうにする。
「俺もペシャワールへ行こう。少しは役に立つと思うが、どうかな?」
「武勇に自信があるのか?」
「いささか。俺は多分⋯パルスで二番目の豪勇だと自負している。」
『なんですかそれっ。』
たくましい胸を張ってふんぞり返る男にファランギースはどこか彼がギーヴと似たようなものを感じ、そっけなく勝手についてくるがよい。とだけいって足早に馬を走らせてしまった。⋯その場にエレンと男を残して⋯。
『⋯よいのですか?“クバード”様。』
そう名を呼ばれた筋骨隆々の大男こと万騎長・クバード。
馬上にいるエレンをまっすぐ見上げた。
「何がだ?」
『生きておられたこと、とても嬉しく思います。ですがせっかく自由を手に入れられたのでしょう?また戦場に戻るおつもりですか?』
「⋯。ま、気に入らなければまた去るまでだ。⋯あー、エレン。」
『はい?』
知人の娘である彼女をエレンと呼ぶこの男。クバードはすこしめんどくさそうに、頼まれた伝言をふと思い出した。
「⋯、いや。またあとで落ち着いたら話す。」
『はぁ。』
「しかしあの女性(にょしょう)、ついに俺の名を聞かなかったな。面白いお人だ。言う通り勝手についていくとしよう!」
よっと、勢いよくもらった馬に跨るとクバードは置いていかれまいと五百騎の隊の後を追いかけたのだった――。
* * *
“草原の覇者”
トゥラーンの野戦における強さはパルス軍も驚くほどのものである。
⋯ただし、攻城戦はそれほど得意ではなかった。
ペシャワール城の城壁は高く、厚く。
またルーシャンが率いるパルス軍は籠城を徹底し、よく城を守った。
なまじ近づけば矢を射かけられるので、トゥラーン軍もそれ以上は近づけず距離を置いて城を囲むだけ⋯。
城門前にはトゥラーン軍の兵士の遺体が重なっていくばかりだ。
わずか二、三日のことながら、攻防戦は膠着状態となっていたのである――。
すでにペシャワール城の目前までたどり着いたファランギースとエレン。
数名の兵士に偵察に行ってもらい、それの帰りを待つ。
すると一時間ほどで帰参した兵士から聞かされたのは、落ちついた様子のペシャワール城と攻め込んでいる様子が見られないトゥラーン軍。
「遠目で見た感じではありますが城は落ち着いているようです。ただし周囲はトゥラーン兵であふれていて近づけませんでした。城に入るのはかなり難しいかと⋯。」
そう報告を受けるファランギース。いかがいたしますか。と尋ねてくる兵士に女神官は策を考える。
「今のうちに馬と身体を休めておくのじゃ。今宵、闇に乗じて⋯押し通る。」
「――っ!」
隣にいたクバードが嬉しそうな顔をした。
「この五百騎でトゥラーン陣営に夜襲を仕掛ける、エレン。」
『わかりました。』
「トゥラーン人は我らパルス人より夜目が利きます。」
やや年上のパルス兵がファランギースに問う。
「知っておるが今はこの方法しかない。」
「そうですな。トゥラーン軍はこちらの数をまだ知らない。」
「闇に紛れ“後方に大軍がいるかも”と少しでも思わせれば奴らの動きを抑えることができるでしょう。」
少々強引な策ではあったが、今は非常事態。
多少のリスクを抱えてでもペシャワール城へ入城しなくてはならない。
⋯特にこの娘を連れて入らねば、とエレンを見ながら使命を感じるファランギース。
「派手に暴れ回ってくれる“囮”が必要じゃ。誰か――、」
『では私が――「その役目、俺がやろう。」―!よろしいのですか?』
名乗り出た大男をファランギースは疑わしげに見上げる。
「危険な役目じゃぞ。」
「派手な役目なのだろう?それにこいつを城に入らせたいんじゃないか?」
「ふむ⋯、」
こちらの意図はお見通し、というわけか⋯。と心のなかで呟いた。
こいつと言ってエレンを指をさす男。
こいつ呼ばわりされたことにショックを受けている間に話がまとまったようで。
「(この男の場合、危険な方が尻尾を巻いて退散しそうな気がするのう⋯。やはりギーヴとどこか似ておる⋯。)」
じっと男を見つめながら、どうしたものかと考える。
しかし時間もあまりないのでここは囮を名乗り出たこの男に任せるしかない、と判断したファランギースはゆっくりと頷いてみせた。
「ではおぬしに任せる。隊の中でも屈強な者たちをつけよう。」
「承った!」
「皆、夜に向けて身体を休めよ。」
「―!?ここにきても俺の名を聞かないのかよ。」
『では名乗ればよろしいではありませんか。』
「それでは面白みがなかろう。しかし素性のよくわからぬ男に重要な役目を任せるとは⋯。剛胆な女性よ。」
くっくっと笑いを堪えるクバード。
そんな彼をエレンは呆れた様子で見ていたのだった。
彼は同じ万騎長でもダリューンやキシュワード、カーラーンとは違いなんというか⋯、かしこまった感じがないし、そもそもそんな敬うような人でもない。ゆえにエレンもこうして軽口なんかも聞けたりするのだが。
この人は私が騎士になりたての頃から知っている。
なのでいつも会うと子供子供と扱いが雑なのだ。
稽古の時なんか、腕一本で放り投げられたことなんて何度あったことか⋯。
だからこの人に対して尊敬だとか、敬うだとかまったく思ったことがない。
しかしエレンの昔からのそんな態度もクバードは気にしていない様子。
半年ぶりに生きて会えたことで少し感傷に浸ってしまったな、とつぶやきながらエレンは夜襲の際の指示を伝えにいったのだった――。
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