第25章
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アルスラーン率いるパルス軍にトゥラーン軍がペシャワールへ押し寄せているという知らせを持ってパラザータ卿が二日強、寝食を惜しんで駆けつけた。
突如もたらされた知らせにアルスラーン殿下からナルサスおよび主力の諸卿らが殿下の幕舎に急遽招集されることとなる。
ナルサスの後ろで座するエレンもまた呼び出された一人。
殿下の前に拝謁するペシャワールからの使いことパラザータ卿が委細の説明をする。
最初に口を開いたのはキシュワード。
「トゥラーン軍が国境を越えてきたか⋯。」
この報せは、実はシンドゥラ国のラジェンドラ陛下からのものであった。トゥラーン軍がパルスの国境を超えるためにはシンドゥラの国境を跨がねばならない。彼の人からの情報ゆえ、真偽を問いたいところだったが彼がいち早く伝えてくれたお陰でこうしてアルスラーン軍のもとへ駆けることが出来たことはやはり感謝するしかない。⋯正直、納得はいかないが。
「シンドゥラからもたらされた情報によるとトゥラーン軍は約六万。全て騎兵とのこと。」
「因縁の相手だなダリューンよ。」
「相手もそれがしも堂々と戦っただけでこざる。」
アルスラーンの後ろに控えていたエラムとアルフリード。
事情を知らないアルフリードは因縁?と疑問をダリューンに向ける。
「以前戦場で当時のトゥラーン王弟と一騎打ちをして勝ったのだ。」
『そうなのですね⋯。』
はぁ、すごい。と一人感心するエレンと違い、それ以来恨まれていて、絹の国への往来の際も命を狙われた。とさらりと言うダリューンにそんな過去があったとはアルスラーンとエラムは知らず、軽い気持ちで絹の国へ同行したいなどと言ってしまったことをすこし後悔するのだった。
「どうするナルサス。」とダリューン。
皆が軍師へと視線を向けた。
目を閉じてずっと黙っていたナルサスがすっと目を開く。
「兵を東へ返す方がよろしいかと存じます殿下。」
「全軍か?」
アルスラーンの問いに全軍です。と言い切るナルサス。
しかし彼もそうなるであろうと感じていたようで、そうであろうな。と素直に頷いた。
「王都への道半ばで軍を返すのは残念だが仕方ない。ペシャワールを助けに行かなければ、最悪の場合前方をルシタニア軍、後方をトゥラーン軍に挟まれて我が軍は壊滅してしまうかもしれない。」
「左様です。」
頷くナルサス。
アルスラーン殿下も物事をちゃんと理解さなっているようで、そうした方が良い理由を自ら導き出す。
「前後の敵が協力しようなどという気を起こさぬうちに迅速に各個撃破してしまいましょう。」
「うむ。異論はない。」とキシュワード。
「ラジェンドラが手を叩いて喜ぶであろうな。“パルスとトゥラーンで消耗しあってくれる”⋯と。」
その喜ぶ姿が目に浮かんで余計にイラッとさせる。
そう話すファランギースもかなり彼の御仁が気に入らないようだ。
しかしナルサスが言うには喜ばせておけばよい、とのこと。
アルスラーン殿下のご大業を前にして彼が周りで小躍りしてようがそんなことは眼中にない細やかなことである。。
『ではトゥラーンが来て我々がそちらへ向かうことをルシタニア軍に伝わるよう手配いたしますか?』
「うむ。頼んだ。」
そうしようと思っていたところだった。話が早いエレンにナルサスは迷いなく了承する。
そのやり取りに疑問を持ったアルスラーン。何故?とナルサスに視線を送る。
「あたしたちが引き返すことがわかったらルシタニア軍は猛追撃してくるんじゃないの?」とアルフリード。
「いや。まずは情報の真偽を確かめようとするだろう。」
『あちら側にも頭の切れる者がいるでしょうから。』
今までルシタニア軍がパルス軍に勝てたことはなかった。
なのに昨年のアトロパテネの野にて敗戦を喫したパルス軍。
よほどの知略に富んだ者がついていると踏んでいいだろう。
「その結果、積極的に情報を流しているのがパルス軍自身だとわかれば⋯、⋯どうする?」
「“罠だ”と警戒します。」
正直に答えたエラムにアルスラーンも同感する。
その通りと満足げにナルサスは頷いた。
「まぁルシタニア勢にはエクバターナから大挙して出てきてもらっても構いませんがね。王都の堅固な城壁を捨てて野戦に応じてくれるというなら戦いやすいこと、この上ないですし。」
ナルサスの目が据わった。
エクバターナへ攻め入る際に、唯一気がかりだったのがかの王都の堅固な城壁ならび城門だった。まぁそれならそれの対策を練るまでだったのだが。
その城門を開いて出てきてくれるのなら、それはそれで両手を上げて喜び、ぜひ迎え撃ちたいものだ。
この表情を見て唯一ダリューンだけが、「楽しそうだな。」という感想を持ったのだった。
『平地での野戦ならパルス騎馬隊に敵う者はおりませんでしょうし。』
「左様。とにかく今は一刻も早く東へ引き返すといたしましょう殿下。」
「うむ。では、ただちに東へ軍を引き返す。諸卿は用意を!」
「「御意に!」」
殿下の号令により軍を引き返すことに。
立ち上がり幕舎を出るダリューンら。そこへナルサスはファランギースへ声を掛けた。
「女神官殿は騎兵のみ五百人を率いて全軍を先立ち、ペシャワール城へ急行してもらえるだろうか。籠城している者たちの士気を高めてほしいのだ。危険な任務だがお願いしたい。」
「心得た。」
軍師からの頼みとあれば、とファランギースは二つ返事で了承する。
あ、それと⋯と続く言葉をエレンの方を見て話す。
「エレンも一緒に連れていってくれ。」
「エレンもか?」
あぁ。と返すナルサスにファランギースは何故じゃと疑問を持つ。
「あれの頭の中には万騎長サーム殿譲りの城の攻防戦の知識が叩き込まれている。大いに役立つだろう。」
「なるほど。此度の籠城戦にもってこいと言うわけじゃな。わかった。」
なにやら悪巧みを考えてそうな笑みを浮かべるナルサスにファランギースは納得するのだった。
「エレン。」
『なに?』
幕舎を出ようとする彼女を名を呼んで引き止める。
呼んだであろうファランギースの方を見た。
「わしは今から先行して五百騎の隊と共にペシャワール城を目指す。おぬしも付いて参れ。」
『私も?』
ナルサス卿の命じゃ。と簡潔に説明する。
ファランギースとともにナルサスも頼んだ、と言葉少なく。
「おぬしの籠城戦の知恵、今こそ披露するときであろう。」
『――!⋯ナルサス様⋯。』
この人は私が出来ると期待しているのではない。
出来ると信じているのだと、その表情から読み取れた。
ここにきて父の名が背を押してくれているような気がした。
城の攻防に誰よりも長けていた父・サーム。
その娘である私。父から教わったものはすべて自分の知識として吸収した。そうするようあらゆる努力を重ねてきたものがここで求められようとは。
不安もあるがそれよりも嬉しさが込み上げる。
『わかりました。その任、承りました。』
「うむ。頼んだぞ。」
ゆくぞ、とファランギースに促されてエレンは近くの兵に自分の愛馬を連れてくるよう頼む。
それと同時に五百騎の隊の準備もつつがなく進み。先頭を行くファランギースを見送った。
パラザータ卿は殿下に馬を余分に用意してほしいと頼んだ。
なんでもここまでくる道中でとある旅人からパルスの危機と伝え馬を貸してもらったのだという。かならず馬を返す、と約束をして。
その旅人は彼が馬を返しにくるのを待っている。
つまりその旅人はパルスの恩人なのだなと解釈したアルスラーンは出立するファランギースによい馬と礼にと財を渡してもらうよう言付けた。
本当はパラザータ卿本人が行って礼を言いたかったのだが、そんな彼のやつれた顔を見てとても送り出せる気にはなれなかったアルスラーン。食事を用意するから待っていてくれと彼を座らせ、その間に彼の食事に睡眠薬を、とエラムに耳打ちする。その数十分後、パラザータ卿は幕舎の中で大の字になって眠りこける姿があった。
「制止しても聞かなさそうだったのでな。」
「よいご判断だと思います、殿下。」
パラザータ卿には今はゆっくり休んでもらい、この先のトゥラーンとの戦いで活躍してもらおう、とナルサスと話すアルスラーンだった。
その頃、エレンは⋯。
先行する五百騎。次々と駆けていくその隊に付いていこうとヴァナディールの手綱をぎゅっと握りしめる。
ペシャワール城へ先行する任を受けたことを先鋒部隊であるザラーヴァント卿、イスファーン卿、トゥース卿の三人に伝えた。
ルシタニア軍にもパルス軍が引き返すことを大げさに触れ回るよう手配も忘れず。私のやるべきことは残すはペシャワール城での籠城戦だ。
気合を入れて気を引き締める。
すると彼女の名を呼ぶ者が二人。
『キシュワード様、ダリューン様。』
先立って出立するエレンの元へ万騎長の二人が声を掛けたのだ。
「ナルサスからおぬしがペシャワールへ先行すると聞いた。気をつけていけ。」とダリューン。
「ペシャワールを頼んだぞ。我々もすぐに駆けつけるゆえ。くれぐれも無茶はしてくれるな。」
短いけれど気持ちの籠もった言葉。
そして信頼されていると、感じる二人の視線。
私という存在を信じているのではない。私が積み上げてきた【努力】を信じてくれているのだと。それは時に命よりも重いペシャワール城の人々の【未来】を託されているとも取れる信頼。
答えたい、と強く思った。
『お任せください。必ずやペシャワールを守り抜いて見せましょう。⋯お二人に私の華麗なる籠城戦を御覧いただけないことが残念です。』
悔やまれますね、なんてちょっと冗談を言ってみたり。
二人の万騎長はははっ、と笑って確かに見れなことが残念だな。とその冗談を返してくれた。
『では。あとを頼みます。』
少し遅れて五百騎の隊に追いつくようエレンは馬を走らせた――。
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