第24章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『重いのなら降ろしてくだされば良いのに⋯。ダリューン様も性格が悪いですよ。』
「ナルサスほどではないぞ?」
『ナルサス様の性格の悪さは神の領域ですよ。』
「はっは。ナルサスが喜ぶな。」
そう褒めてくれるな、と嬉しそうにする彼の顔が二人の脳裏に浮かぶ。
いつもと変わらぬ彼女の様子にほっとしたダリューンは安堵した表情を見せた。
こうして二人で話すのはずいぶん久しぶりな気がした。⋯実は言うとペシャワールでナルサスと話をしたあと、エレンが自分を好きかもしれないという不確定な事案に、それ以降どうやって彼女と接すればよいのか悩んでいたのだ。
『ダリューン様とお話するのもずいぶん久しぶりな気がします。⋯もしかして、と思ったのですが⋯、私のこと避けてましたか?』
「ん"ん"⋯っ。⋯すまん。俺の心の整理が付かなかったのだ。許せ。」
ど直球に尋ねてくるものだから、気管がむせた。
何の整理だと聞かれたが当然言えるはずもなく。
「倒れたと聞いたが、もう平気なのか?」と無理やり話題を変えようとする。
『あ、はい。お恥ずかしいところをお見せしてしまいました。』
ダリューンはその場面を見ていないので知らないのだが、遭遇したキシュワードからエレンが倒れたと、かいつまんで聞いた話であった。
燃える聖マヌエル城を目にして、十七年前のことを思い出したのだろう。倒れるなと言う方が無理な話だ。
エレンの心の深い傷は時折、想像を絶するほどのものなのだと思い知る。
ふとダリューンは白い布の包みをエレンに渡した。
これは?という視線を送り、それをそっと両手で受け取った。
包みを開くとその中には三つほどビワの実が入っていた。
『ビワの実⋯。』
「少しだがエラムからもらっておいた。おぬしに渡そうと思ってな。朝から何も食べておらぬのだろう?」
彼からのささやかな気遣いだった。
じわっと胸が温かくなる。
次第に緩む顔。その優しさがエレンの心を満たしてくれた。
『⋯ありがとうございます。嬉しいです。私ビワの実が一番好きなんです。』
ほころぶ笑顔にダリューンも釣られて笑う。
いつかのもやもやした感情が霧となって消えていくのを感じながら。
『でも珍しいですね。ダリューン様が果物をくださるなんて。いつもなら“騎士たる者、肉を食え”とよく仰っていたのに⋯。』
すこしの意地の悪さも込めて。
ダリューンはよく、果物や野菜を好んで食するエレンにまるで母親のように常に口挟んでいたものだ。
ちらりと彼を見上げれば、少しだけ気まずそうにする彼。
どうやらそれも考えはしたらしい。
しかしエレンを看病していたファランギースから病み上がりの者には消化の良い食べ物のほうが良いに決まっておろう。とぴしゃりと言われたので再度熟考した結果、果物が良いという結論に自力で至ったという経緯あったのだ。
もらったビワの実を手にエレンが休む幕舎に向かう途中で、兵士らに囲まれ困り果てた彼女を見つけたのだ。
嬉しそうにそれを剥いて口にするエレンの横顔を見ながら、先日の戦を思い出す。
「そういえば、夢が叶った感想は?」
『?⋯あ、』
一瞬なんのことだろう、と思いつかなかったのだがダリューンの顔を見てすぐに記憶から引っ張り出される。
『とても、どきどきしました。夢が叶った瞬間だと⋯。嬉しくて、心が震えました。』
いつか彼の隣に立って、共に戦場で戦いたい――。
それがエレンが騎士となった時、思い描いた夢の一つであった。
彼の無敵なまでの強さに心惹かれ。いつか彼のような剛勇な騎士になりたい、と本気で願っていた時期もあった。
しかしそこは男と女。体格も違えば筋力・持久力ともに追いつけるはずもなく。そこは早々に無理だと悟ったものだ。
「俺もエレンと共に戦えて光栄だったぞ。⋯しかし、しばらく見ない間に腕を上げたな。」
『本当ですか!?』
強くなったと言われればつい顔がキラキラと輝く。
それは美しいとか、可愛いとか。エレンにとってそういう言葉を言われるよりもはるかに嬉しい褒め言葉であった。
「あぁ。おぬしが戦う姿が遠くから見えた時、少しも危なげな感じはしなかった。むしろ頼もしさを感じたものだ。」
『――⋯っ、』
それはこれ以上ない褒め言葉だった。
むしろそれ以上はもう言わないでほしい。嬉しさのあまり何かが爆発しそうだ。
『そう思っていただけて嬉しいです。それもこれもキシュワード様の地獄の特訓のおかげでしょうか。』
「――ほう。⋯それは感謝している、と受け取って良さそうだな。」
「『――⋯っ!?』」
聞こえたもう一人の声に、ダリューンは顔を上げ、エレンはまるで敵でもいるのかと思うくらいばっと後ろ振り返る。
『キ、キシュワード様⋯、』
エレンの背後に立っていたのは口元は笑っているが、目が少しも笑っていない表情の双刀将軍ことキシュワード。ここは戦場か、と勘違いしてしまうくらいの気迫を滲ませながら。
「元気そうでなによりだ。」
『お、お陰様で⋯。キシュワード様には大変ご迷惑を⋯。』
怯える子供かな、と思うくらい小さな声でなんとか感謝の言葉を告げる。
するとガシ⋯、とエレンは頭をぐりぐりと掴まれ、笑いながら彼は言う。
「おぬしが望むなら“地獄の特訓”とやらをペシャワールへ帰ってからまたいつでもしてやろうぞ。」
『ひ⋯、平にご容赦を⋯、』
しゅんと縮こまる娘に、少しからかい過ぎたかと思うが冗談だと分かったダリューンと、キシュワードは声を上げて笑ったのだった。
からかられるエレンと二人の万騎長の元へ、かのルシタニアの少女兵ことエトワールがなにやら器を持ってこちらに駆け寄ってきた。
慌てた様子の彼女。
エトワールはパルス語が他の者より堪能であるが、時々言葉を間違えてとんでもない発言をするときがあった。
「乳をくれ!」
『はいぃっ!?』
と、このように。
まっすぐに、エレンに向かっていったものだから、彼女がなにかを勘違いしてしまうのも無理はない。
頬を赤く染め、エトワールの間違った言葉をそのまま真に受ける。
『わ、私は出ないわよ!』
「そうではなくて!若い母親が母乳が出なくて困っている。赤子がお腹を空かせて泣き止まぬのだ!」
『〜〜〜っ!』
「おう。それは大変だな。糧食隊の所に行ってみるがよい。乳の出る牛や山羊がいるだろう。」
羞恥心にかられるエレンを他所にエトワールの頼みに冷静に対処するキシュワード。
とんでもない勘違いをした手前、ものすごく恥ずかしい。
いてもたってもいられなくなったエレンはがしっとエトワールの手を掴んだ。
『エラム!エラムのところへ行こう。案内してあげる!』
「かたじけない!⋯あ!いやお前たち異教徒共に感謝はしたくはないが!だが恩は恩だから一応感謝はするしお前たちの糧食を減らせるからこれは武勲だし!」
『うるさい!わかったから!』
わーわーと騒ぐエトワールとエレン。
騒がしいエトワールに釣られるように必然にエレンの声も大きくなり。
以前のエレンはあのように大声で話すような娘ではなかった。という記憶がダリューンとキシュワードの中にあった。
物静かで、口数も多くなくて。父親の後ろを大人しく付き従っていた彼女とは想像もつかないほどに。
まるで嵐が去ったようにいなくなった二人のにやれやれと息を付く大人二人。
ここは戦地の真ん中ゆえ、こうして若い娘二人が騒がしく駆けている様子はいままでとは違うこと実感する。
.