第24章
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不審者の夜襲、ギーヴとの別れがあった翌朝。
日が登りきる前、ペシャワール城の城門広場には多くの将兵らが出発を前に列を成していた。
「パルスの神々が殿下の御身の上にご加護を賜らんことを。」
「留守を頼むぞルーシャン。おぬしがいてくれるから、安心して出征できる。」
留守を守る味方に見送られついにエクバターナに向けてペシャワールを出発する。
エレンもキシュワードが仕立ててくれた防具と服を身にまとい、愛馬・ヴァナディールの鞍を持っていた。
直前でエレンは侍女達に囲まれ困った様子を見せる。
いつかの遠征のときのように集まる侍女達。その数は前回よりもすこしばかり増えているような気もする。
『えっと⋯、そろそろ行かないと⋯、』
「エレオノール様!」
「騎士姫様!」
「どうかご無事でお戻りください!」
騎士姫様!と侍女達が何度も連呼するが、それはやめて欲しい⋯。
代表して一人の侍女がまたお手製のお守りを渡す。
突っぱねるわけにもいかず、あ、ありがとう⋯、と受け取るエレンにきゃーと歓喜の声が男たちの声に混じって響き渡る。
しかもよく見ると、エレンを見送る侍女は城門前にいる彼女らだけでなく、なんと廊下の窓からもこちらを見ている者もいて。そっちに視線を送るとさらに声のボリュームが上がった。
『あはは⋯、』
いってらっしゃいませ!と大きく手を振る彼女らに控えめに手を振り返しながら隊列に入るエレンもようやく出立することが出来た。
「ずいぶん人気者だな。」
『キシュワード様⋯。』
茶化すように笑うキシュワードにじと目の視線を送った。
そういえば、彼がシンドゥラ遠征中に送ってくれたこの防具をきちんと見せたことが無かったエレンはひらりと彼の前で回って見せた。
しかしそれがなにを意味するのか理解されなかったようで。
「――?」
『⋯っ。キシュワード様が拵えてくださった防具です!どうですか!』
ちゃんと着こなせている、ということを言いたかったのに。
その言葉にようやく気がついたのか良さそうだな、とこぼす。
「サイズも申し分なさそうだ。」
賭けに勝ったご褒美の防具にエレンはたいそう喜んでいる様子。
今回新たに腕の肘まで覆ったパーツと太ももを覆う防具を着用しその上から腰に青い生地の長いスカートのような右足あたりにスリットがある腰巻きを着用している。
『とても動きやすいです。ありがとうございました!』
パルス暦 三二一年 五月十日
パルス王太子 アルスラーンはついに
ルシタニア討伐の軍を率いてペシャワール城を進発した
エレオノール 二十歳
目的地は二百ファルサング隔てた西の方
王都エクバターナ
兵数は九万五千
内、騎兵三万八千
歩兵五万
糧食輸送の軽歩兵七千がその内容である
パルス国内の大陸公路はアトロパテネの敗戦以来 初めてパルスの大軍によって埋め尽くされた――。
“アルスラーン王太子 ペシャワール城より出撃す――。”
その報せは大陸公路を西へ五日で駆け抜けて、エクバターナに届けられた。
出撃からはや数日。
昼食を取るため軍を止めていたアルスラーン。
ふとナルサスとエラムがこのような会話をしていた。
「公称八万?⋯我が軍は十万でないのですか?」
「エクバターナには“王太子軍は八万”と伝わるようにした。」
普通なら実数より多く兵力を発表して相手を慌てさせるものでは?とアルスラーンが疑問を問う。
「“普通”ならそうです。普通に考えて我が軍の兵力を過小評価してくれれば儲けものです。まぁ小細工に過ぎませんが⋯。“相手が四万なら俺たちは五万”と見積もってくれれば上々ですが。さて⋯ルシタニア軍はどう出るか⋯――。」
昼食を取った後、偵察に出していたアルフリードと数名の兵士が帰還する。
「偵察ご苦労。アルフリード。」
「余裕余裕!この辺はゾット族に会うかもしれないからね。余計な争いをしないためにもあたしが行ったほうがいいでしょ。」
これはアルフリード自身からナルサスに提案したものだった。
ここはまだゾット族の縄張り圏内ゆえ、パルス兵だけでうろついては彼らの餌食になりかねないのだ。
そこでゾット族・族長の娘でもあるアルフリードの出番と言うわけだ。
ついでに村で悪さをしていたルシタニア兵も捕まえてきた、と前へ放り出す。
「何か変わったところはあったか?」
「大陸公路上にはなかったんだけどね、公路から半ファルサングくらい離れた所に“チャスーム城”があった。」
チャスーム城という名は捕まえたルシタニア人から聞き出したものだ。聞き慣れぬ言葉に万騎長の二人が首を傾げる。
「チャスーム城?」
「そんな城あったか?」
「あ。万騎長でも知らない城なんだ。」
ふむ。と顎に手を添えるナルサスは少し離れた場所にいたエレンを呼んだ。はい?と返事をして駆け寄るエレンにナルサスはアルフリードが書き記した地図を見せる。
「おぬし、この城のことなにか知らぬか?大陸公路から半ファルサング離れた場所に建っているのだが。」
『?⋯、ここって⋯、』
「チャスーム城という名だそうだ。」
じっと地図を見つめるエレン。
あ、となにか思いついたのかナルサスを見上げた。
『ここ、百年ほど前に廃城になった城ですね。たしか城の名は⋯エディンバラ城⋯だったかと。』
「⋯つまりその廃城を立て直した、ということか⋯。どうりでこの短期間で知らぬ城が建つわけだな。」とナルサス。
「おぬし、よくそんな事まで知っておるな⋯。」
感心を通り越して、ちょっと引いた顔をするキシュワード。
そこは褒めてほしい、と言い返すエレンだった。
「貴様らがシンドゥラ遠征に行っている間に王弟殿下ギスカール様の命令で急造したのだ。城主はクレマンス将軍。公路の要所を抑えパルス軍の動きを監視させるためのものだ。」
パルス語が話せるルシタニア人が正直に話す。
偵察に向かったパルス兵によると灌木の茂みや断層に囲まれていて容易に落とせそうにない城でした、と報告を受けたナルサス。
その敵に手腕にナルサスはにやりと笑う。
「ギスカールという男もなかなかやるな。」
近くに城があると聞いて、意欲を見せるザラーヴァント卿・イスファーン卿・トゥース卿の三人。
先鋒を取り合うイスファーン卿とザラーヴァント卿に対し冷静なトゥース卿。エレンは今回この三人の先鋒部隊に配属されている。
その旨はすでに彼らには伝達はしていた。
『どうされますか?ナルサス様。』
「⋯⋯。よし決めた。――チャスーム城は放っといて進む。」
え?
先鋒を任された三人だけでなくアルスラーンもナルサスの決定に目を瞬かせる。
言葉を失うみんなの心境を代表してジャスワントがナルサスに尋ねた。
「よろしいのですか?後々邪魔になるということはありませんか?」
「攻めても簡単には堕ちんよ。それに無理に攻め落とす必要もない。あんな城放っといて先に進むといたしましょう殿下。」
これには万騎長の二人もナルサスの考えにはたどり着かぬらしい。
さて、なにを考えているのやら。といった感じでお互いを見合わせるキシュワードとダリューンであった。
「⋯そうだな。ナルサスがそう言うのなら。」
ナルサスの提案にアルスラーンは了承し、結局チャスーム城は相手せず先に進むことになった。
これに不満をあらわにするザラーヴァント卿とイスファーン卿。
しかしそんな二人に対し、素直に従うトゥース卿。
もどかしい気持ちをイスファーン卿は彼に共感を求めるも、さっさと自分の馬に乗るトゥース。
「命令には従うまでだ。城は無視して進む。トゥース隊、出発するぞ。」
「待て待て!我らも行く!こうなったら一刻も早く敵と出会って戦うまでよ。」
「先を急ぐぞ。」
『⋯⋯。』
先頭を進んでいたトゥース隊をさっさと追い抜き、二人して先を行ってしまったザラーヴァント卿とイスファーン卿。そんな三人のやりとりをエレンは離れたところからずっと見ていた。
やはり冷静に本陣の命令を実行できるのはトゥース卿のようだ。
おそらくあとの二人はいざという時、冷静に判断が出来ないかもしれない。
出発前、エレンはトゥース卿にだけ本当のことを伝えた。
『先鋒の隊は御三方にお任せいたしますが、隊の進退は私が判断いたします。なのでトゥース卿、あなたには二人を押さえる役目をしていただきたいのです。』
つまり実質の隊の責任者はエレオノールだということ。
このことにザラーヴァント卿もイスファーン卿もすぐには納得しないだろう。しかし二人よりも年長であるトゥース卿なら理解してもらえるとふんだエレンは彼にだけ本当の先鋒の役目を伝えたのだ。
「おいおい。おぬしら行軍を急ぎすぎだ。隊が乱れる。」
第一陣 右翼部隊 三千騎 イスファーン
左翼部隊 三千騎 ザラーヴァント
中央部隊 四千騎 トゥースおよびエレオノール
「ザラーヴァント卿少し退け!」
「うるさい、おぬしこそ退け!」
「⋯。我ら三人三隊で第一陣を承ったというのに⋯。エレオノール殿が言っていたことはこういうことか⋯。」
競い合う二人の耳にはトゥースの言葉など届いておらず。
我先にと馬を進め、お互いを牽制しあう。
トゥース卿が二人をまとめてほしい、と言われた意味がよく分かった。これを見越してエレンがトゥースにそう頼んだのだ。
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