第23章
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『ナルサス様っ!』
「あぁ。戻ったか。」
はぁはぁと息を切らして部屋にやってきた弟子にナルサスは水を一杯差し出した。それを受け取り飲み干すと一気にまくし立てるように話す。
『ギーヴに一体なにを話したのですか!どうして彼がここを去らねばならないのですか!?』
「ちゃんと話してやるからひとまず落ち着け。」
興奮冷めやまぬ弟子にどうどう、と馬をなだめるように落ち着かせようとするナルサス。それが余計に頭に血が上るが、ぐっとこらえて彼の話に耳を傾けた。
「前におぬしに言っただろう?ギーヴが城の者達から反感を持たれていると。」
『それは⋯っ、そうですが⋯。でも他に方法があったのではないのですか?』
「別の解決策もなくは無い。だが、それともう一つ理由がある。」
『それはなんですか?』
次第に落ち着きを取り戻したエレンは冷静に彼の言葉を理解しようとする。
「王都へ出兵するにあたって、今現在のルシタニアの内情を探る必要がある。それには武勇と知恵の優れた信頼出来るものでないと不可能なのだ。」
『⋯それでギーヴが適任、であると⋯?』
「そうだ。全軍の和を保つためにも、ギーヴには一度離れてもらう必要があった。」
『⋯いつ、戻ってくるでしょうか⋯。』
先程の勢いはどこへやら。急にしおらしくなる弟子にやれやれ、と思いながらもさて、とその答えを考える。
「王都に着くまでには一度顔を出すよう言ってあるが、どのタイミングで帰参するかはギーヴに任せてある。まぁやつならここぞという場面で姿を現すであろうな。気長に待とうではないか。」
『そうならそうと話してくださればよかったのに⋯。』
すこしすねたふうなエレンに、ナルサスは苦笑いしてすまん、と小さく謝罪する。
「利用させてもらうと、おぬしに言ったからな。⋯それでイスファーン殿とは話は出来たのか?」
『はい、一応⋯。少し時間が欲しいと言われました。私と、兄の死と向き合う時間を。』
「そうか⋯。それでおぬしの気は済んだか?」
ナルサスなりに心配していたのだろう。
もし彼と衝突するようなことになれば隊の構成を考え直さねばならないこともそうだが、ずっとそのことが気がかりだってであろうエレンの精神的負担を少しでも和らげればと思っていた。
彼の気遣いにエレンは頷いた。ギーヴのことはまだ納得がいかないようだが、それを除いても少しは悩みの種が減ったことであろう。
ナルサスと話していると、次に部屋を訪れたのは申し訳なさそうに入ってきたダリューンだった。
ナルサスの部屋に先程話題になっていたエレンがいたことに少しギクリと肩を揺らすが、すぐに元に戻る。
「――許せナルサス。お前の策を殿下に明かしてしまった。」
部屋に入るなり、正直に告げる友人に呆れながら葡萄酒を渡すナルサス。
「全く。存外なお喋りめが。せっかくギーヴが名演技をしてくれたのに。エレンもだぞ。もうすこし俺の考えを読めるようにならんとな。」
『はい⋯。』
ナルサスの言うこともわかる。
さっきはあまりの急展開に驚き、冷静になれずついナルサスに当たるようなことをしてしまった。
そのことに反省しつつも、それなら先に話してくれればよかったのではないか?と少し考え始める。
「殿下も不思議なお方だ。お前と俺とエレンとギーヴ。それぞれ気性も違えば考えも違う者たちに忠誠心を持たせてしまう。」
「言っておくがなナルサス。俺は元々、王家に忠誠心篤い男だぞ。お前のように主君に喧嘩を売って飛び出すようなことはせぬ。」
『でもダリューン様は正しいと思ったことはすぐに仰ると、それゆえ困ることが多々あったとヴァフリーズ様は嘆いておられましたよ?』
「う⋯。」
心当たりがありすぎるのか、気まずそうにするダリューン。
アルスラーン殿下からアトロパテネ戦の折、後退を陛下に進言して万騎長の任を解かれてしまったのだ、とエレンは聞いた。
似た者同士の友人二人についくすっと笑いが溢れた。
「そうだぞダリューン。たまたま俺に喧嘩する機会があっただけのこと。お前が俺より温和な男だなんて信じさせようとしても無理だぞ。」
そんなこと、お前自身が信じているわけでもなかろう?と鋭い指摘にダリューンは視線を外し誤魔化すように葡萄酒に口をつけたのだった。
そのあと、エラムとアルフリードがさきほどの侵入者の遺体を調べた報告をしにきてくれたが結局彼が何者なのか、一体誰に命令されたのかわからずじまいであった。
しかしエラムには気にかかることがあるようで。
「妙なことがございまして、エレン様の腕を腕を斬りつけた際に使われた短刀が行方不明なのです。」
「なに――?」
『私の腕を斬った時に使われた短刀はギーヴが払い落としていたわ。その短刀が、なくなった――?』
潰れた遺体以外に所持品が見つからなかった。
ギーヴやイスファーンと戦った時に使われた刃物も含め、だそう。
最初にエレンを襲った時は明確に彼女を傷つけようとしていた。
しかし今回は明らかにエレンを連れ去ろうとした。⋯そのあとで傷をつけるか、殺すつもりだったかは不明だが⋯。
どうも嫌な予感が頭から離れない。
しかし今はこれ以上の情報を得ることは不可能だ。
考えても答えのでないことは先送りにするのがナルサスの信条。それに従ってこの件についてはこれ以上模索するのをやめた。
こうして出兵前の前日に起きた騒動はギーヴが去ったということだけで幕を閉じる。
「もう遅い。エレンはもう休め。明日はいよいよ出兵だ。」
『はい――⋯。』
ナルサスから休むよう言われたエレンは失礼します、とだけ言いダリューンに軽く頭を下げ、隣の自室へと戻った。
パタンと閉じた戸。そのまま一直線に寝床へと身体を沈める。
身体の力が抜けると先程起きた、たくさんの出来事が一気に脳裏へと映し出され情景が蘇る。
『疲れた⋯。』
ぽつりと溢れた独り言。
明日にはエクバターナに向けて出兵だというのに実感が沸かない。
ギーヴは大丈夫だろうか⋯?殿下もずいぶん落ち込んでおられたけれど。
ダリューン様が正直に話されたというし平気だろうか?
見た目通り繊細な御方だから、自分と軍のために去ったと知れば責任を感じておられることだろう。
寝床に沈めた身体を無意識に向きを替えると、ズキ、と痛む左腕に斬られたことを思い出す。そういえばろくに手当もせず放置しっぱなしだったこと思い出す。手当をしなければと思い立ち、起き上がると静かに部屋を出た。
医務室に行くと誰もおらず、適当に薬やら包帯やらを拝借しお気に入りの噴水のある広場を訪れ縁に腰掛ける。
借りた救急セットを乱雑に広げ適当に薬を塗りたくる。
痛っ、と小さく声が出る。
すると上空からふわりとアズライールが噴水の縁へと降り立った。
『あれ?アズライール?夜のお散歩かな?』
手に入れた獲物をつつきながら何をしているんだ、とでもいうような目つきでエレンを見上げた。
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