第23章
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火事の煙がまだくすぶっている頃、城壁では多くの見物人が集まりだしていた。
「喧嘩だ喧嘩だ!」
「決闘だー!」
ようやく火事も鎮火したところだと言うのにまた騒がしくなる城内。
その騒ぎを聞きつけたキシュワード。
「喧嘩だと!?全く⋯。こんな時に自制の効かぬ兵士たちだな。」
報告に来た部下に小言をもらすキシュワードに気まずそうに「いえ、それが⋯、」と言葉を続ける。
「争っているのはギーヴ殿とイスファーン殿です。」
「なにぃ!?」
城壁の上で、殺気を堪えることなくギーヴに向けるイスファーンと、さも気にしてないというギーヴ。対象的な二人は今にも剣を交えそうな雰囲気だ。
「貴様がエレオノール殿の代わりに兄を射殺していた、というのか。⋯兄の死を侮辱することは許さん。」
「怒るなよ。俺はおぬしの兄を苦痛から救ってやろうとした一人にすぎないのだから。」
「黙れ!兄の死をしたり顔で語るな⋯!!」
ギーヴの物言いとイスファーンの怒りに周りは次第にイスファーンに味方をする者が増えていく。その様子をエレンは不安そうに見守るしか無く。
ナルサスもただ黙って成り行きを見届けるだけ。
「イスファーン!イスファーン!」
「お?やるか?周囲に味方が多いと強気になる奴を随分と俺は見てきた。――おぬしもその類いというわけか。」
「まだ言うか!!」
ギーヴの軽い挑発についに剣を振るったイスファーン。その一太刀をギーヴはあっさりと受け止める。
「その長すぎる舌を適当な寸法に直してくれよう!誰の助けも借りぬわ!」
「言っておくがおぬしの兄を死なせた責任はルシタニア軍にあるのだぞ。」
「分かっている!だが、今俺の目の前にいるのはルシタニア人ではなく貴様だ!」
キンキンキン⋯っと目にも止まらぬ早さで斬りつけ合う二人。
イスファーンの多彩な剣裁きに加え、予測不可能な動きは次第にギーヴを本気にさせていく。
白熱していく決闘に見物人も興奮が収まらない。
二人が一度距離を取ったところで、その決闘に止める者が現れる。
「双方、剣を引け!」
「「――!」」
この場に似つかわしくない、しかし凛としたその声は思わず攻撃の手を止めてしまう。
制止をかけたのはファランギースだった。
「王太子殿下の御前なるぞ。」
「⋯やぁ、ファランギース殿。俺の身を案じて止めてくれるとは嬉しいね。心配せずとも俺がこんなやつに負けるはずがないのに。」
「都合よく解釈するな不信心者め。」
ファランギースがその場から後ろに下がると現れたのはアルスラーン殿下。イスファーンは慌てて膝を着く。
「殿下っ⋯!」
「一体何事があったのだギーヴ。味方同士で剣を交えるなど⋯、」
心配そうな殿下の様子にギーヴは気にすること無く、人生の相違だ、と簡潔に説明する。その軽々しい態度がなお周りの兵士に反感を煽る。
「無礼者め!殿下の御前だぞ!跪け!」
イスファーンの注意もどこ吹く風。
誰も彼を味方するような視線を送る者はおらず。辺りを見渡してギーヴはふぅ、とわざとらしく一息つく。
「俺は流浪の楽士ギーヴ。アルスラーン殿下にはお世話になったが、元々俺は宮廷勤めなど向かぬということがよくわかった。自分でハーレムを作ってほしいままに振る舞うのが俺の性に合っている。人付き合いで遠慮して生きるより、一人でいたほうが遥かにいい。」
剣を鞘に納めながら、殿下に背を向ける。
「ギーヴ⋯?」
「いい機会だ。これでお暇をいただきます殿下。――お達者で。」
彼の進む道を左右に避けて開ける兵士達。
ギーヴが去るところをエレンは動く事ができずじっと見ていたが、立ち上がり彼の後を追うように走り出す。
もとはといえば原因は私だ。
なのに何故ギーヴが去らねばならないのか。
なぜイスファーン卿と決闘することになってしまったのか。
遠のく姿を必死で追いかけた。
『―ギーヴ待って!』
「⋯。」
『イスファーン卿に謝って。何故彼を怒らすような事を言ったの!?』
聞こえてるはずなのに、彼は止まらない。
走って追っているはずなのに距離が縮まらないことがもどかしくて。
『ギーヴ待って――、待ちなさいギーヴ!』
「――⋯っ。」
今まで聞いたこともない声にギーヴはつい歩みを止めた。
彼がもっとも嫌う、上から命令するような話し方を彼女はギーヴに対してすることは今まで一度もなかった。
だから余計に驚いた。
ようやく止まってくれた彼に次第に距離を縮めていく。
目の前に来たエレンは頬を紅潮させ、肩を揺らして息をする。
『なぜイスファーン卿にあんなことを言ったの。あなたは他人を傷つけるようなことを言う人ではないでしょう?』
「嬉しいね。俺のことをそんなふうに思ってくれているとは。⋯本当の事を言ったまでだ。言っただろう?あの日、俺もあの場所にいた、と⋯。それにここはどうも俺には合わぬようだ。邪魔者はとっとと退散するさ。」
『そんなこと⋯。』
そんなことはない。とはっきり言えないのが今のペシャワール城の状況だ。侍女達にはたいそう人気であるが、その反面兵士や官吏達にはどうも反感を持たれているのが彼に対する正直な気持ちだ。
慰めの言葉が浮かんでこない。俯くエレンの遥か後ろからアルスラーン殿下が事情を聞いたのか慌ててこちらに走ってくるのが見えたギーヴは咄嗟に右手で彼女の左手を取り、自身の左手でエレンの腰にまわして引き寄せるようにぐっと彼女との距離を縮める。
身体がふわっと軽くなったかのようなその動作にエレンは驚きつつギーヴはエレンの耳元に口を寄せる。
「――――。」
『ぇ――⋯、』
すぐに戻る――⋯。
耳元で囁いた彼の言葉を何度も繰り返し考えた。
呆然と立ち尽くすエレンにギーヴはふっと笑うとそのまま立ち去る。エレンを追い越すようにアルスラーン殿下とそれを追いかけるダリューンがギーヴの後を追った。
必死に彼を引き止めるアルスラーン殿下の姿を視界に入るも意識はどこか遠く。
しばらくその場に立ち尽くしていたエレンだったが、ゆっくりと身体を反転させ、次第に駆け足になって城内を駆けた。
向かう先は今のこの状況を一番よく分かっているであろう師の元だ。
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