第22章
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ナルサスらと共にアルスラーン殿下にヒルメス王子の件を話し終えたあと、エレンはイスファーンに兄のことを伝えるべく、彼を探していた。
探していた彼は訓練場でいつものようにザラーヴァント卿とトゥース卿と共に雑談をしているところだった。
なんとなく入りづらい空気。いきなり話したこともない人から声を掛けられたらどんな反応をするか⋯。
怖気付いてはだめだ、と自分を鼓舞し覚悟を持って彼らに話しかけた。
『こ、こんばんは。』
「――!」
案の定、驚かれた様子の三人。えーっと、どう会話を切り出せばいいのか。
悩んでいると「こんばんわ、エレオノール殿。」とイスファーンが返す。
ザラーヴァント卿もトゥース卿も軽く会釈するように挨拶を返してくれた。
『私の名前、ご存知なのですね。』
「あ、⋯その、この前廊下でお見かけした時に兵士から聞きました。万騎長サーム殿のご令嬢だ、と。」
女性と話し慣れていないのか、言葉が途切れながらも正直に答えるイスファーン。その彼の様子をザラーヴァントは横でにやにやしながら見ていた。
『はい、そうです。万騎長サームの子・エレオノールと申します。先日はお話する間もなく失礼しました。どうぞよろしくお願いします。』
胸に手を添え、軽く頭を下げる。
その上品な振る舞いにイスファーンも心臓が高鳴る。
「いえ、とんでもないっ。私はイスファーンと申します。こちらこそお見知りおきを。」
「自分はオクサスの領主の息子ザラーヴァントと申す!」
「トゥースだ。」
簡単に自己紹介?を済ませたところでエレンは三人の話をよく聞かせてもらった。ザラーヴァントの父のことや、トゥースのザラの港町のこと。イスファーンの兄との思い出の話など。
遠目からでは近寄り難いと感じていたが話してみると、なかなか楽しい御三方だった。
「エレオノール殿はエクバターナではどのような生活を?」
好奇心旺盛なザラーヴァントが尋ねる。
うーんと考えるふりをするエレンは、自分がエクバターナでどんな事をして過ごしていたのかを思い出す。
『騎士になりたての頃は、父の手伝いをよくしていましたが、次第に遠征に行かされるようになりましたね。半年前は西の国境付近の河の氾濫で壊れた橋の復興作業に携わっておりました。』
そんなことばかりです。と自身なさげに話すエレンだったがザラーヴァントは感心した様子だ。
「私は戦うことしか能がないので、よく領地の見回りに行かされておりましたのでそのような仕事は関わったことがございません。」
さすがサーム殿のご令嬢、と彼なりに褒めたつもりなのだがエレンの心はすこし複雑だった。
まるで私自身に能がない。サームの娘だから与えられた仕事だ、と遠回しに言われている気がした。
『あの、私そろそろ仕事に戻りますね。』
「こんな遅くまで?」
驚くザラーヴァントにエレンはただ静かに笑って返すだけ。
「あの、よければ部屋まで送ります。もう夜も遅いので。不要でしたらその⋯、」
おかまいなく。と小さな声で言いだしたのはイスファーン。その気遣いが兄とそっくりで涙が込み上げてくる。
よく王宮で父の仕事が終わるのを待っていたが遅くなりそうな時はシャプールが何度か家まで送ってくれたことがある。
『(ほんとうにそっくり⋯。)』
「あの、」
『⋯ではお言葉に甘えて。』
拒否されなかったことが嬉しかったのか、イスファーンはぱっと顔を明るくさせる。ザラーヴァントとトゥースにエレンを送ったあとで先に戻る、と告ると(ものすごいニヤついた顔で)わかった。と返される。その顔が妙に腹立つイスファーン。
下心はない。決して。
先を歩き出すエレンにイスファーンは慌てて後を追った。
こつこつと廊下を二人分の足音が響く。
部屋まで送ると言い出したはいいものの、会話が浮かんでこない。
さっきはザラーヴァントもトゥースもいたのでなんとか間が持ったが。いざ女性と一対一となると何を話せばよいのか。
こんな情けない姿、兄が見たらきっと笑うだろう。いやいっそ笑い飛ばしてくれたほうが清々しいし気も晴れる。
『イスファーン様⋯?』
「⋯。あ、は、はいっ。なにかっ?」
意識が自分の世界に入っていたのでエレンに名を呼ばれたことに反応が遅れたことが恥ずかしくなる。
そんな彼の様子をくすくすと笑うエレンを見てすこし緊張がほぐれた。
『そう身構えないでください。もっと気楽にいきましょう?』
「そ、そうですね。」
『敬語も。無しでかまいません。』
「あ、いやこれは⋯、緊張してうまく⋯じゃなくて⋯っ」
一体自分は何を話しているのか。
先程から言葉が明らかに可笑しい。
しかし目の前の女性は決して馬鹿にする様子もなく。ただ頷いてイスファーンの言葉に耳を傾けてくれる。
いつか兵士が言っていた。目の前の人は優しくおおらかな人だと。
『私、イスファーン様にお話しなければならないことがあります。』
「私に?」
『はい。すこしお時間をいただけますか?』
ふんわりと笑顔を見せていた彼女だったが急に雰囲気が重いものに変わる。
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