第22章
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「ナルサスよ。些か酷ではなかったか。殿下にとっても、⋯エレンにとっても。今の殿下には重荷の上に重荷を加えられたようなものだ。」
「このままうやむやにしておくべきだったか?」
「む⋯、」
城内の廊下を歩くナルサスとダリューン。
先程の話についに口を挟むことは出来なかったダリューンは友人に思ったことを口にする。
「お前のことだから何か深い思慮があってのこととを思うが⋯、」
「俺もどうするべきか半年間悩んださ。だが、いきなり敵と対峙するより前もって頭に入れておいた方が悩まなくて済む。それに秘密はアルスラーン殿下ご自身の身の上にもある。エレンもこのことについては知らぬようだ。それに比べれば銀仮面の件など所詮、他人の身の上だ。⋯その程度で動揺なさるようではご自身の秘密にも耐えることなど出来ぬさ。」
ヒルメス王子の事情などアルスラーン殿下からしてみれば関係のない話。その件すらも背負おうなどと、思えばそれこそその重みで潰されてしまいそうだ。
背負わなくて済むものはなるべく下ろして差し上げたい。
ナルサスはそう思う。
「それにしても殿下の荷は重すぎる。まだ十四歳でしかないというのに。」
このような状況でなければ彼は今頃華々しい初陣を終え、王都で王位のことなど考えることもなく勉学と稽古に勤しんでいたことだろう。
十四歳というのはそのようなものだ。自分が即位することや自分がこの先迎えるであろう妃や世継ぎのこと。そんなことすら考える必要もない。
しかし今のアルスラーン殿下はそれとは違う。
自分が継ぐ王位のこと、この先自分が成し得たいこと。
そして自身の本当の出自のこと――。
「俺が思うにアルスラーン殿下は見かけより遥かに勁くて寛い心をお持ちだ。ヒルメス王子のことはいずれ克服なさるだろう。⋯あの方に必要なのはいつもそうだが、時間だけだ。それにエレンのことも大丈夫だろう。部屋を出る時目が覚めたと俺に言っていた。」
決意が固まったのだろう、とナルサスは笑う。
エレンなら大丈夫だと。あの娘の目指すものは自分自身でとうに決めているのだから。
「エレンがそんなことを⋯。だがナルサスにしては読みが甘いのではないか?仮にアルスラーン殿下が父王の罪を償うおつもりでヒルメス王子に王位を譲るなどど言い出されたらどうする?」
「ふむ⋯。殿下のご気性からしてあり得ぬことではないな。――そしてヒルメス王子が我らの主となる、か。⋯もしそうなったらお前はヒルメス王子に仕えるか?」
友人の挑発とわかっていて眉間にしわを寄せ、「冗談を言うな。」と怒った雰囲気を見せるダリューン。
ナルサスは分かっているとでも言うように肩をすくめた。
「なに。殿下がこの国をヒルメス王子に譲ると言うならその時は俺とお前と組んでアルスラーン殿下にふさわしい国の一つでも征服して差し上げるさ。悪政で苦しんでいる国民はどこにでもいよう。」
「“戦士の中の戦士”(マルダーンフ・マルダーン)が言うと冗談に聞こえんぞ。」
困ったように、でもどこかダリューンらしいセリフにナルサスは笑うのだった。
「もしその時はエレンも誘ってやるといい。」
「エレンをか?来ると思うか?」
他国を征服するという話の続きだが、そこにエレンもついてくると思わなかったダリューンはナルサスを見る。
「なに。お前が一言、“付いて来い”と言えばあれは喜んで付いてくるだろうよ。」
それは何気ない一言のつもりだった。
エレンのダリューンに対する気持ちを知っているからこその援護射撃のように。
「おい。それじゃぁまるでエレンが俺を⋯、俺を⋯――。」
無意識に出た言葉だった。
自分で言っておいて、急に心臓が一瞬激しく鳴る。
「いまさら気づいたのか。やれやれ、戦の事には鋭いくせに、"そういう話"にはとんと鈍いやつだな。」
ナルサスのその言葉がエレンの気持ちを肯定しているようで。
「まさか。⋯あり得ぬだろう。」
「なら聞いてみるといい。うんそれが早い。」
「聞けるかそんなことっ!」
つい怒号が飛ぶ。
自分のことを好いているのか、などど自惚れもいいところだ。
「実際、ダリューンはどうなのだ?エレンのことをどう思う?」
「⋯。お前はどうなのだ。エレンを弟子にした思惑もそうだが。」
「俺はエレンを万騎長に押し上げるためにやれることをやっているだけだ。まぁ、欲を言えばもっと早くに出会って学問やあらゆる書、政治について語り合いたかったものだ。」
「⋯やはりお前は変わり者だな。」
褒めたつもりはないのに、そう褒めるな。と嬉しそうにする友人にダリューンはつい脱力する。
俺は⋯、エレンをどう思うか⋯。
「最初は、年の離れた妹くらいにしか見ていなかった。⋯だが、エレンがあらゆる任をこなすようになると次第にそうは思わなくなった。」
「十六歳で騎士に就任したのだったな。」
「あぁ。当時は最速でかつ女性騎士ということもあって話題にもなった。あれから四年経つ。幼さのあったエレンが今や立派な女性だ。」
「そうだな。最初に出会った頃に比べてもかなり成長したことだろう。アンドラゴラス陛下のような気迫も含め、な。」
つい笑うがあまり笑い事でもない。エレンのあの威圧感のある瞳を思い出すと、つい身体が固まってしまう。
「今、エレンをどう思うか自分でもよくわからぬ。“そういう”目で見てきたわけではないからな。⋯ただ、エレンが最も信頼している男は俺だと自負しているところはある。」
「そうか。まぁ、エレンの気持ちに感づいたのなら今はそれで良しとしよう。⋯最近はキシュワード殿とよく一緒にいるらしいが。」
「――⋯っ、」
ぴくりと反応を示す鈍感な友人にナルサスはふっと小さく笑いを堪えたのだった。
ダリューンとナルサスがくだらない雑談を繰り広げていた少し前――⋯。
エレンは覚悟を決めてイスファーンと対面していた⋯。
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