第22章
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「なんだ、ダリューンのことか?」
『―!ち、違いますっ!』
ナルサスの適当な予想についむきになって返事をするエレン。
そんなはずないとわかりきっているくせに、冗談を言うナルサスに緊張がほぐれた気がした。
『実は、イスファーン様のことで⋯、』
「イスファーン殿がどうした?」
『⋯。』
エレンはエクバターナでの籠城戦の時の話を初めて話した。
それは籠城戦が繰り広げられる前の事。
万騎長シャプールの事だ。
彼はアトロパテネの会戦の折、ルシタニア軍に捕まり拷問を受けさらに磔にされた状態でエクバターナの城門に姿を見せたのだ。
その時彼はこう叫んだ――。
『俺を矢で射殺してくれ、と⋯。』
「⋯。」
『それで私⋯、私が⋯、』
「射殺した、と⋯。」
握りしめた手を震わせ、ナルサスの言葉に恐る恐る頷く。
『あの時はシャプール様をお救い申し上げたいと、そのことばかり考えて⋯、あの方のご家族のこと、一つも考えていませんでした。』
「⋯。だがおぬしがそうせねばルシタニアのことだ。もっと酷い死に方をしていただろう。どのみちそのような状況では城門を開け打って出たところでシャプール殿が救えたとは思えん。気に病む必要はない、といったところで気休めにしかならんが⋯。」
『私は後悔はしていません。もしあの方が恨んでおられるのなら私はそれをも受け止めるつもりです。⋯ただ、弟君のイスファーン様の事を思うと胸が痛むのです⋯。』
「話すべきではないか、と?」
『はい⋯。』
彼がペシャワールに姿を現してからずっと悩んでいた。
兄の面影を残す彼の顔を見るたびに胸が締め付けられるようで。
シャプールが囚われ磔にされた原因はルシタニア側にあるにしても最後の生命を終わらせたのは私だ。
『この事がしこりになって、今後軍のまとまりや指揮にも影響するのではないかと⋯。』
「そのことなら心配無用だ。これはおぬしとイスファーン殿二人の問題だ。それが原因で内部分裂が起きることはまずないだろう。おぬしはギーヴと違って諸侯や兵から反感を持たれているわけでなない。むしろペシャワールの兵からも新参者達からも好評だ。」
『そ、うなのですか⋯?』
自分の人気が好評だという話は初耳だった。
そしてギーヴが周りから好かれていないという状況も。
「ふむ⋯。話したいのならおぬしの好きにすると良い。ただしその時は俺なりに利用させてもらうぞ。」
『なにをさなるのですか?』
「秘密だ。心配せずともおぬしの邪魔はせぬゆえ。」
ニコニコと話すナルサス。何故だろう、ものすごく不安を感じるのは⋯。
それよりも、とナルサスは話を切り替えた。
「アルスラーン殿下と他数名の者と共にヒルメス王子の件について話そうと思うのだが、おぬしは参加するか?別に席を外しても構わんのだが⋯、」
一応聞いておこうと思ってな、と彼の気遣いにエレンは感謝した。
エレンが共に聞きたいと思うか、聞きたくないと考えるか。
どう転んでもエレンにとって良い話ではないから。
『その人、⋯のことは私にとっても避けられない道だと思っています。どちらにせよ、自分の気持ちをはっきりさせたい。私もその場に参列します。』
ナルサスはよく決断した、とエレンを労った。
こうしてアルスラーン殿下とダリューン、キシュワード含めナルサスの信用出来る者たちが軍議の間へと集められたのだった。
「昨年、アルスラーン殿下がこのペシャワール城にご到着になったとき、奇怪な銀仮面を被った人物が殿下を襲撃いたしました。」
『⋯⋯。』
「なんと⋯、そのようなことが?」
その場にはまだいなかったルーシャン卿が驚いた様子を見せる。
当時の様子を思い出したのか、アルスラーン殿下も少し顔を強張らせた。
「その銀仮面がどうした?」とキシュワード。
「すでにご存知かと思われますが、彼の人物はヒルメス王子。父の名はオスロエス。叔父の名はアンドラゴラス。すなわちアルスラーン殿下のまさに従兄弟にあたられる方です。」
遠回しにしていた事だった。
ずっと考えないようにしていた。
それでもまだ大丈夫だったのはエクバターナに向けて出兵する以前の問題と向き合っていたから。
けれど、ここから先は避けては通れない。
向こうも王位を奪おうと姿を現したのだから。
「⋯世が世であったなら私の代わりに王太子となっていた人だ⋯。」
「オスロエス五世陛下がご存命であれば当然、そうなっておりました。」
「ナルサス⋯っ、」
正直に申し上げるナルサスにダリューンが遮ろうとする。
「“一国に二王なし”どれほど冷厳であろうと残酷であろうとそれが千古の鉄則。神々といえどもこの鉄則を覆すことは叶いませぬ。アルスラーン殿下が国王におなりになれば当然ながらヒルメス王子のための王冠は存在しないことに。」
『⋯⋯っ、』
突き刺さる真実の言葉がエレンを追い詰める。
この場に参列すると決めたのは自分なのに。
ナルサスから話される言葉が現実を突き付けられる。
アルスラーン殿下の即位を望む自分にとって兄であるヒルメス王子の存在は障害でしかない。その事がとても苦しかった。
ルーシャン卿が恐る恐る話し出す。
「その⋯ヒルメス王子と称する人物はたしかに真の王子か?あの時の事情を些かとも知る者が野心と欲に駆られて王子の身分を僭称しているのではないか?」
「あの時の事情⋯?」
「あ⋯、」
つい言ってしまった、というかのようにルーシャンは気まずそうにする。
『十七年前の、件でございます殿下。』
「十七年前⋯。」
エレンが呟いた言葉の続きをナルサスが話す。
「当時、先王の死に不審な点が多く“アンドラゴラス陛下に弑されたのではないか⋯”。という疑惑が囁かれたのです。多少なりとも宮廷に関わりある者ならまず誰でも知っている噂話です。」
「⋯何も⋯、知らなかった⋯。その噂話は事実なのか?」
「こればかりはわかりませぬ。ご存知なのはアンドラゴラス陛下だけでしょう。」
そこでナルサスは一息つく。そしてもう一度口を開いた時、怒りの感情を含めて語った。
「たしかに言えることはヒルメス王子は噂を真実と信じ、殿下と陛下を憎悪しておられる。そして憎悪のあまりルシタニア人と手を組み、己が故国に他国の兵を引きいれたのです。――つまり、彼のお人は国民よりも王位の方が大事というわけですな。復讐の方法も数多ある中で最も民衆にとって迷惑な方法を取られたのです。」
『――⋯、』
ナルサスの怒りの言葉がエレンを目覚めさせような気分にさせた。
自分にとって何が大事か。何を優先させるべきか。わかりきっていることなのに、死んだと思っていた兄の登場で気持ちがつい揺らいでしまったのだろう。
しかしナルサスの言う通りだ。守るべきはパルス国の民。
それを犠牲にしてまであの方は王位を取り戻そうとしている。
私がそれを許してはならない。同じくパルス王家の血を引く者として。
「⋯わかったナルサス。差し当たって私は従兄弟殿より先にルシタニア軍と決着をつけなければならない。――皆に力を貸してもらいたい。それが一段落したところで従兄弟殿との間にきちんと話をつけるとしよう。」
「「「御意。」」」
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