第4章
夢小説設定
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翌朝。
エレオノールが行動を起こすのは早かった。
朝一、朝食を届けに来たルシタニア兵を気絶させて寝台へ自分の身代わりに仕立て、かわりにルシタニアの騎士服を借り扮装する。兜をかぶり、錣(しころ(※かぶと・ずきんの左右や後ろにたれてくびをおおうもの)で髪や顔周りを隠せば見事なルシタニア兵の完成だ。…不本意ではあるが。
しっかりと平らげた朝食の食器を手に部屋の鍵をかければしばらくはバレることも…、
「おい、そこのお前。」
『―!?』
どきっと心臓が鳴る。
振り返ると同じルシタニアの兵士が不審そうにこちらにやってきた。
「そこでなにをしている。」
『あ、その…、銀仮面卿からの指示で…この部屋の者に食事を、と。』
「銀仮面卿が…?」
『はい…。この部屋の者に関しては口出しするなと…言っておりました。パルス軍の者らしいのですが…』
「…。」
ごまかされてくれるか…。
そう必死に願った。
「怪しいが…、銀仮面卿に関してはギスカール様もある程度は目を瞑っておられる。下手に口出しせぬほうがよいな。…わかった。それを持っていけ。」
『はっ!』
一礼し、空の食器を手にその場を立ち去ったエレオノール。その心中穏やかではなく、どっと汗が吹き出すのであった。
『(あせったー…。)』
生きた心地がしなかった…。
ルシタニアの兵士に扮装して堂々と王宮を出たエレオノール。エクバターナを陥落させたものの混乱は続いているようでなかなか状況を落ち着かせることは出来ていないようだった。
この様子なら兵力さえ集めることができれば簡単に王都を奪還できそうだ、とエレオノールは考えながら城下街を歩いた。
ただ、目につくのは横暴な態度を取るルシタニアの兵達。商売をしている者にも容赦なくその理不尽な態度を見せつけていた。
「まったく…、奴ら無茶苦茶だ…、」
「どうなってしまうんだろうね、ここは…」
『……。』
落胆のため息を次々と吐く市民。
昨日まで最強と謳われていたパルス騎馬隊も無惨に消え去り、残されたのは希望の見いだせない、か弱いエクバターナの民達。
エレオノールは己の格好も気にせず、荒らされた店の商品を丁寧に拾った。もちろん驚きを隠せない店の主人。
「あ、あんた…っ、」
『ごめんなさい…。』
「どういうつもりだいっ。」
『私はパルス兵です。訳あってこんな格好をしていますが騎士です。ごめんなさい…、私達が負けたせいであなた方にこのような屈辱を味あわせることに…、』
「…。」
否定は出来ない。
私達パルスが負けたせいで、エクバターナはこんなことになってしまってのだから。
そんなことない、と目の前の兵士を店の主人も慰めることが出来なかった。
『そう遠くないうちに、ここが戦場になることは明白です。復讐戦が起きるでしょう。…命が惜しくば出来るだけ多くの者に一時的にでもここを去り、南方のギランや遠くへ避難するよう伝えてください。』
「あ、あんたは…、また戦うのか?」
『…。』
その問の答えはとっくに決まっていた。
その表情だけで店の主人も理解する。
戦うのだと。
すべてを諦めていない者がいることに不思議と希望が少し持てた気がした。
「な、なぁ、あんた。俺になにか手伝えることはないか?」
『え…、』
「なんでもいい。言ってくれっ。」
『いい、のですか?ご迷惑じゃ…、』
店の主人からまさかの申し出だった。
罵られても仕方ないとすら思っていたのに。
ルシタニア兵が荒らした店を見て、申し訳無さから手を出しただけだった。
しかしこれはまたとない機会かもしれない。
『では…、このエクバターナから馬と荷物を出すことは出来ますか?』
「あぁ、それくらいならどうってことない。やつら商売には手を出してこないからな。」
大陸航路の商売を止めようものなら奴らとて無事では済まない。もとよりその権限を欲しさにこのパルスを狙っていたのだから。
『ではこの場所にある邸に行って私の馬と予備の甲冑を。書をしたためますので使用人にこれを見せて受け取り、エクバターナより城外へ運んでください。受け取る場所は…、えっと…』
「城外から東へ5ファルサングほどの距離に俺たち商人しかしらない廃村がある。辺鄙な場所だからそこならルシタニア兵も行かないだろ。そこの宿屋の地下室に預かった荷物と馬を隠して置こう。」
大陸航路から外れているためあまり知られていない場所だそうだ。
この辺りだ、と詳しい地図も貰えた。
話の早い主人で助かった。さすが、とういうべきか。商売ごとには話が早いのが商人だ。
それが幸運だったようだ。
『ありがとう…、ご主人。感謝します。』
「いいってことよ。あんたも無事でな。お互い無事生き残れたらまたここエクバターナで会おう。」
『はい。ご主人、あなたのお名前をお聞きしても?』
「俺はグランだ。各国の骨董品を取り扱う商売をしている。今後ともご贔屓に。」
ついいつもの口癖が出てしまい、いけねっと思わず笑うグランという商人。まったくパルスが負けたというのに逞しい商売魂である。
グランという商人と別れ、エレオノールは怪しまれぬようゆっくりとその足を城壁へと進めていた。
一刻も早くエクバターナから脱出した気持ちを抑えて城下を歩く。無駄に広いこのエクバターナを今日ほど恨めしく思う日はないだろう。すぐそこに城壁が見えているというのに一向にたどり着かないのだから。
エレオノールがエクバターナを脱出しようと試みている同時刻。
時同じくしてダリューンとナルサスが夜陰に乗じて王都に潜入を果たしていた。
昨日、カーラーンと直接対決した後、カーラーンは不運の戦死と遂げた。彼の残した最後の言葉は「王は生きておられる」その言葉のみ。
戦闘中思いがけない死が彼を襲い、アルスラーン殿下の「死んではならぬ」と命に彼は拒絶し、そのまま息を引き取った。
結局ナルサスが知りたがっていた途方もない裏方の事情とやらは聞けずに終わってしまったのだった。
「王妃様の美貌も罪なことだ。」
わざと自分たちの顔を敵に見せ、襲いかかってくるであろうルシタニア兵達を逆に捕らえた問い詰めたところによると、アンドラゴラス陛下は生きてどこかに幽閉されているということ。
そしてタハミーネ王妃はルシタニア国王イノケンティス七世と結婚する、とルシタニア兵が噂していたそうだ。
王の一目惚れだったそうな。
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