第22章
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アルスラーン殿下の檄により、ペシャワール城へ参上してからはや数日。
ようやく慣れた城の中で同じく参上したザラーヴァントとトゥースと共に雑談をするイスファーン。地元の暮らしやどんな仕事をしていたのか、語り合う三人は意気投合したのか行動を共にする機会が増えていった。
そして今日も訓練の後にすこし顔を合わせる。
すると会話をしていたイスファーンが遠くの廊下を歩く一人の女性を見つける。その見た目は侍女のような感じでもなく。はて、一体誰だろうと、気になり近くにいた兵士に尋ねた。
「あそこを歩く女性は誰だ?」
その言葉を聞いたザラーヴァントとトゥースもそちらに視線を送る。
美しくスカートの裾をなびかせ、背筋よく歩く女性は栗毛色の髪と碧い瞳を持つ。あぁ、と誰か知っているのか兵士は答える。
「あの方はエレオノール様といって、万騎長サーム殿のご令嬢です。騎兵隊に所属しておりますが現在はナルサス卿の補佐官を務めていらっしゃいますよ。優しく大らかな方です。我々兵士にも気さくに話しかけてくださいます。」
「エレオノール⋯、あの人が⋯。」
ぽつりと呟いたイスファーン。
知っているのか?と聞くザラーヴァントに頷いた。
「兄・シャプールから少し話を聞いたことがある。剣の腕が良いそうだ。」
「ほう。めずらしいものだな。女性が剣を扱うなど。」
トゥースもエレンに視線を送ったままイスファーンの話に耳を傾ける。
ここにはもう一人美女(絶世の)と呼ばれる人物がいるがその方にも引けを取らぬその容姿は新参者の視線を釘付けにする。
エレンともう一人の美女ことファランギース。その二人を同時に見ることが出来れば幸運に恵まれる、などという噂話まで囁かれるほどに。
廊下を歩くエレンは遠くからこちらを見つめる視線に気づいたのか振り向くと新たに来たイスファーン・ザラーヴァント・トゥースの三人だと認識する。たぶん自分がここにいることが物珍しいのだろう。
見つめる三人につい手を振って合図を送った。
一瞬びく、と驚かれた様子だったがトゥースは会釈して、ザラーヴァントとイスファーンはぎこちなく手を振り返した。
「エレン様っ、見つけましたよ!」
『エラムっ。』
「ナルサス様がお呼びです。」
遠くから現れた少年ことエラムに呼ばれ、イスファーン達を話す間もなくエレンは軽く会釈だけして足早にその場を去った。
見えなくなる彼女の姿をいつまでもぼーっと見ていた三人であった。
* * *
早朝、エレンは今日もキシュワードに剣の稽古の相手をしてもらっていた。ガンガン、と激しく打ち合う二人。日も昇りきらぬ時間なのでまだ誰も城内を歩く者はおらず。
噴水の縁でアズライールが退屈そうにその様子を見守る。
稽古を重ねていくごとにエレンの傷も徐々に増えていった。
昨日まではなかった箇所に痛々しい傷が次々に見つかるその様子に心配したナルサスだったが理由を話すと熱心だな、と言ってやれやれと肩をすくめたのだ。
『はぁ⋯っ!』
「⋯っ!」
振り下ろす剣。それを剣一本で受け止めるキシュワード。
反撃とばかりに今度は彼が打ち返す。
『⋯ぅっ、』
「どうしたっ、もう疲れたかっ。」
『っキシュワード様、今日はいつもより力が強いですっ。』
「そうか?これでもまだ二割程度の力しか出しておらんぞ。」
『――⋯っ!!』
受け止めた剣を受け流すように翻し、ぐっと力を込めてキシュワードの喉元に切っ先を突きつけた。
「⋯⋯。」
『はぁ⋯、はぁ⋯、』
意外な剣裁きに思わずキシュワードも動きを止めた。
その鋭い視線と放つ威圧感は対峙する者を圧倒させる。
「ふ⋯っ、バフマン殿が拝跪した理由が今ならわかる気がするな。」
『キシュワード様⋯、』
すまん、と冗談めいた発言に肩をすくめる。
目が合った者を圧倒させるその瞳。そして激しい炎のような情熱を感じさせる。
剣を引いた二人はそのまま稽古を終了させる。
その様子をイスファーンは上の階に廊下の窓から見ていた。
たしかに兄の言う通り、剣の腕が良いようだ。
楽しげにキシュワードと話すエレンの姿をじっと見た後、気取られぬようその場を去った。
「仕事は順調か?」
『はい。おかげさまで。』
増えた傷の手当をしながらキシュワードが尋ねる。
『いよいよ出兵の準備も整って来ましたから。⋯これはまだ正式に言われてないのですが、此度の戦の先鋒をイスファーン卿・ザラーヴァント卿・トゥース卿の三人にお願いをし、私もその隊に配属になります。』
「先陣の隊にか?危険ではないのか?」
キシュワードならそう言うと思った。
ふふ。と笑うエレン。
『先陣はその三人にお任せします。私は隊の中央で状況判断により隊の進退の判断を任されました。責任重大ですね。』
「あまり先走るなよ。」
『はい。承知しました。』
頷くエレン。
こうして剣の稽古に付き合ってはくれるがやはり心配な部分は消えないのだろう。キシュワード自身、エレンに対し気さくに話しかけはするが、本心はアルスラーン殿下のように尽くしたいはずだ。
彼は武家の人間で根っからの武人なのだから。
ナルサスやダリューンは一味違うお人なのだ。
稽古を切り上げたエレンはいつものようにナルサスの執務室を訪れ、彼からの雑務をこなす。
『⋯あの、ナルサス様、』
「なんだ?」
視線は書類を向いたまま返事をする。
呼んでおいて話さない弟子にナルサスは顔上げた。
エレンの表情はどこか暗く、なにかに悩んでいる雰囲気であったが、言葉にするのを躊躇している様子でもあった。
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