第21章
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友人の正直な言葉に、だろうな。と一言呟いた。
「ダリューンの気持ちはよく分かる。」
今回、パルス全土に飛ばした布令は二つだ。
一つはルシタニア討伐令
「こちらは賛同せぬ者の方が少なかろう。」
もう一つが、奴隷解放令
「貴族や土豪たちの反発を買って味方が集まらぬ⋯、と思ったのだろう?」
「そうだ。どう考えても彼らの得にはならんからな。⋯お前の狙いはなんなのだ?」
親友であるダリューンとて、いつもナルサスの考えていることが手に取るようにわかるわけではない。そういう時のダリューンは迷わず彼に問いただすのだ。
ナルサスもダリューンを信頼しているからこそ、包み隠さず話す。
「諸侯にはそれなりの思惑や計算があるのさ。あの奴隷廃止令には一つ微妙な点があってな。」
『ナルサス様が考えられたのは奴隷廃止令に記した前提条件として、《アルスラーン殿下が国王として即位した後に実行する》であって今ではございません。』
ルシタニアを追い払い、即座に断行しても実質的な効果がない。
また最悪の場合、奴隷制度の存続を望む諸侯がルシタニア側に走る恐れもあるのだ。
『それだけは避けなければなりません。』
「それにこれはエレンからの話の段階でまだ殿下には申し上げてはいないが、実際に奴隷を解放したとして大人はまだなんとか生きていける。こちらからある程度手を差し伸べれば、な。⋯だが、子供は違う。親のいない奴隷の子もおるだろう。衣食住からの段階で保護してやらねば生きていくことすらできん⋯。」
「たしかに⋯。ナルサスにはなにか考えがあるのだろう?」
ダリューンの問いにまぁな。といって茶をすすった。
「諸侯からしてみればルシタニアと戦うためにはアルスラーン殿下を盟主として仰ぐしかない⋯、が。殿下がパルス全土を取り戻し国王となった時、諸侯の財産である奴隷は全て解放されてしまう。」
「正義の戦いに勝ったとしても自分たちが大損をするのであっては熱心に戦うはずがないだろう。」
「そう。そこで彼らに錯覚を起こさせ、味方につけるための細工が必要だ。」
諸侯らに味方についてもらうため、勝手に誤解させるような錯覚を思い込ませるのだ。それはエレンが以前、軍議において行った作戦と似たものである。
ルシタニアを倒す味方が必要な殿下に力を貸し、大きな功績を立てる。
それを盾に奴隷制度の存続を要求する。
殿下とて自分が国王になるために尽くしてくれた者たちの意見は拒否できない。
奴隷制度廃止令はいずれうやむやに泡となって消えるだろう。
「――⋯、と彼らに思わせる。」
流石の詐欺師っぷりにダリューンも困惑する。
「それでは諸侯たちを騙すことにならんか?どうせお前は彼らの要求を容れるつもりはないのだろう?」
「ダリューンよ。勝手に解釈したのは諸侯たちだぞ?」
「――⋯!」
しれっとした顔で残りの茶をすするナルサス。このとぼけた表情はつい最近も見た記憶がある。
『勝手に勘違いしたのはあの方々でございます――。』
はぁ⋯、深い溜息が出た。
「――まったくお前たちは⋯。似るにもほどがあるぞ⋯。」
やれやれ、と苦笑いする。
するとそこへエラムが慌てた様子で部屋に入ってきた。
「ナルサス様!」
「どうしたエラム。」
「あ、ダリューン様もエレン様もこちらにおいででしたか。殿下がお呼びでございます。」
「俺たちをか?」
怪訝そうな顔するダリューン。戦の前だと言うのにそこまでの緊急事態など起こりそうなことはないと思うのだが。
「どうやらジャスワント様と新しく来たザラーヴァント様のお二人が衝突したようでございまして、」
「なにっ?」
事の深刻さが理解したのか、三人は急いでアルスラーン殿下の元へ駆けつけたのだった。
* * *
殿下が待つ間で集まったダリューン、ナルサス、エレン。
事の顛末を詳しく聞かせてもらった。
心配そうな顔をする殿下にナルサスが進言する。
「閥を作ってはなりません殿下。閥は岩に入ったひびでこざいますから。」
「閥⋯。以前から私に仕えてくれている者と新しく仕えるようになった者と⋯かな?」
左様でございます。とナルサスが頷いた。
「それぞれが閥を作って争うようなことがあってはルシタニア軍と戦うどころではありません。」
「⋯ナルサスの言う通りだと思う。つい先程もジャスワントとザラーヴァントが味方同士危うく剣を交えるところだった。」
その時、たまたま近くを通りかかったキシュワードによってその場は治められたそうだが、二人の衝突は尾を引く形のままだ。
『今回の二人だけでは済まなくなるでしょう。』
「どうすれば新しく来てくれた者たちに不満を持たせずに済むだろう?」
そうですな、と考える素振りをみせるナルサスだったがこの程度の問題はすでに予想済みなのだろう。
笑いながら中書令(サトライプ)を替えてはどうか、とさらっと言った。
『え⋯、中書令を替える、と仰るのですか⋯?』
「現在の人物は若くて貫禄がございません。」
そう中書令の役を担っている本人が自身を指さしてまるで他人事のように言うのでこれにはアルスラーンも苦笑いを隠せず。
思い切った策にダリューンも驚いた顔を見せた。
《中書令》とは王太子が国王に代わって国政を司る時、その補佐役たる者に与えられる地位のことであり、事実上の宰相とも言える。
他の臣下に地位は優先し、御前会議の書記役を務め公文書の起草もする。ナルサスが殿下に代わって布令を出した物がまさにそれだ。
極めて重要な役で、現在ナルサスがそれを務めている。
「このルーシャンめを中書令に⋯でございますか?」
突然王太子殿下に呼び出されたかと思えば、大役を務めて欲しいと頼まれたルーシャン卿はその重責に顔に緊張が走る。
「いやしかし、現在はナルサス卿が立派に務めておられるのでは?」
「ナルサスには《軍機卿》(フォッサート)の地位に就いてもらい軍事に専念させる。おぬしは年長者で思慮分別に富み、諸侯の人望もある。ナルサスが是非にと申し出たのだ。」
「私は昔、アンドラゴラス王と袂を分かったいきさつから古参の方々に嫌われておりますから。」
しれっと笑い飛ばす本人だが聞いた側は笑えない。後ろでエラムも気まずそうに恐れ入って小さくなる。
「大事な役目だ、やってくれるかルーシャン。」
「身に余る光栄⋯!骨身を削って殿下の為に尽くす所存にございます!」
新たに任命する者は他にもおり、キャラバンの副隊長を務めているパティアスを会計鑑にとアルスラーンは望んだ。
中書令にルーシャン卿、会計鑑には地方の書記官であったパティアス卿が登用された。この噂は風のように瞬く間に広がっていき、新しく仕える者にも能力があれば平等に登用してもらえると期待に胸を膨らませ、さらに多くの兵がここペシャワールに集ったのである――。
第21章・完 2025/10/22.