第21章
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パルス歴 三二一年 四月末
ペシャワール城へと繋がる東部国境地帯の街道は
武装した兵士と軍馬の群れに埋め尽くされていた
王太子アルスラーンの名においてパルス全土に飛ばされた檄に
各地の諸侯・領主達が呼応し、続々と馳せ参じて来たのである。
ペシャワール城から見える地平線の彼方からずらりと並ぶ軍の列は城壁から見ると圧巻であった。
「すごいねぇ!あたしたち、ひょっとすると歴史の大変な舞台にいるかもしれないんだね!」
『大げさよ、アルフリード。』
「大げさにもなるさ!ずっと後の時代にさ、吟遊詩人の歌に出てくるようなことになるかもしれないんだよ!」
城壁から次々と入場する隊列を見ていたアルフリード、エレン、そしてファランギース。
興奮覚めぬ状態のアルフリードにファランギースはくすっと笑った。
「差し当たって、おぬしにはナルサス卿との恋歌の行方が大切なのではないのかな?」
「うん。それはもちろんそうなんだけど。」
『(気にはなるのね。)』
「この春からのことを考えると、これまでのあたしの生活とあまりに変わってきたから⋯、やっぱり王太子殿下のお役に立ちたいしね!」
盗賊生活だった彼女がいまや正規軍に協力する側の人に変わったのだ。
その変化につい感傷に浸る気持ちもわかる。
アルフリードの心境の変化にファランギースも頼もしいことじゃ、と微笑んだ。
「おぬしがそう自覚してくれれば、殿下だけでなくナルサス卿にとってもよい結果がもたらされるであろうな。」
正門の広場に突き詰めるように集まった兵達にアルスラーンは上から姿を現した。それを見た者は口々に歓喜の声を上げる。
「殿下ー!」
「アルスラーン殿下!」
「王太子殿下に栄光あれ!」
* * *
集まった兵達の中で、名だたる将兵らがアルスラーン殿下にお目通りをする。
「レイの城主、ルーシャンと申します。アルスラーン殿下の檄に応じ、ルシタニアの侵略者共を打ち払わんものと罷り越しました。」
「オクサスの領主、ムンズィルの息子でザラーヴァントと申す者でございます!老病の父により命じられアルスラーン殿下にお仕えするべく参上いたしました!」
物静かで落ち着いた雰囲気のルーシャン卿と、活発で気合に満ちた男・ザラーヴァント。
「パティアスと申します。昔、港町ザラの役所で会見担当の書記官をしておりました。今は隊商(キャラバン)の副隊長をしております。」
「我が名はトゥース!俺もザラで守備隊長を務めておりましたが、この度同士と共に駆けつけました!」
「万騎長シャプールの弟にてイスファーンと申します!亡き兄に代わり殿下の御為に働きとうございます!兄の仇であるルシタニアの蛮族共を一人も生かしてはおきませぬ!」
少し、兄の面影を残すイスファーンと名乗る男。
彼は有名らしく、ダリューンもシャプール殿の弟が来たか!と喜んだ。だが、喜ぶ彼の隣で“シャプールの弟”と聞いて顔色を悪くするエレン。
脳裏に浮かぶのはエクバターナの城門で敵の手に落ちた彼を苦痛から救うべく、己がしたことだ。
その弟は《狼に育てられた者》(ファルハーディン)の異名を持つ男。その目元と雰囲気はどうしても彼の兄を思い起こさせた。
「正直こんなに集まってくれるとは思っていなかった。⋯奴隷解放などという私の青臭い理想は諸侯に一蹴されるもかと。」
「いえ、私はそうは思いません。」
殿下の前でイスファーンは真剣に答えた。
「殿下。私めの母は奴隷でございました。父が奴隷の女に手をつけて生まれたのが私でございます。」
このことを一切恥じていないかのような口ぶりで話す。きっと彼の兄が自信を持たせてくれたのだろう。そんなことは些細なことだと。剣の腕の筋が良い弟を大事に思っていたに違いない。
『(あの方が優しかったのは彼の事を大事に思っていたからのかもしれない⋯。)』
奴隷の子であろうと、女であろうと。
分け隔てなく接してくれた彼を遠い記憶のように思い出す。
「私も母も正妻に憎まれ、私が二歳の時に母と共に冬の山中に置き去りにされました。父はそれを知りながら我ら母子を捨て置きました。⋯助けにきてはくれませんでした。」
唯一、当時十六歳だったシュプールだけがイスファーン親子を助けに冬の山へ駆け上って来てくれた。
彼が駆けつけた時、二頭の狼が逃げていく様子を見たという。
それを見て弟は食われた、と思ったそうだ。
だが、実際は倒れ伏す母子の前に狼たちが分けてくれた兎が置かれていたのだという。
泣く幼子を見た狼達は無意識に母性本能が芽生えたのだろう。
「《狼に育てられた者》(ファルハーディン)の異名はそこからでございます。⋯母は私を守るために凍死しましたが私は兄と狼に助けられ、今こうして殿下の御前に拝謁する機会を得られました。兄の仇を討ちとうございます殿下!」
『――⋯。』
その言葉がエレンの胸に深く突き刺さる。
* * *
十万近い兵士を抱えたペシャワール城ではさらなる活気に溢れていた。
その声を聞きながらエレンはナルサスの部屋を訪れたダリューンを中へ招き入れる。
「実を言うとなナルサス。俺も殿下と同じくこれほどの多くの諸侯が集うとは思っていなかったのだ。」
エレンから受け取った茶の器に口をつける。
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