第21章
夢小説設定
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あと少しでペシャワール城に着く直前でエレンの目がかすかに揺れる。ぼんやりとする視界で黒いたてがみが揺れているのが見えた。
リズムよく揺れる身体に自分が今馬に乗っていることに気がつく。
そしてなにより。
「目が覚めたか?」
『――⋯、』
頭上から聞こえてくるダリューンの声。
今エレンは彼に抱えられるようにして一緒にシャブラングの背に乗っているのだ。
それ理解した途端、一気に首元から熱が込み上げるように顔を赤く染める。
声にならない声であわあわと慌てる彼女に馬から落ちて仕舞わないようなんとか落ち着くよう説得する。
『あ、あの、私⋯っ!』
「あのまま眠ってしまったのでな。日も暮れてきたので帰るところだ。住人達がまたいつでも来てくれと言っておったぞ。」
『そう、ですか⋯。じゃなくてっ、私降りますから!申し訳ございませんっ。』
じたばたするエレンに本当に馬から落ちかねない。
なによりダリューンがもう少しこのままでいたい、という欲が出た。
ぐっと抱える腕に力が入る。
「疲れておるだろう。このまま乗せてってやるからじっとしていろ。」
『で、でも⋯、』
このままじゃ私の心臓がもたないぞ。
思いがけない彼との至近距離に心臓の音が聞こえないか気になって仕方ない。背中から伝わる熱にぎゅっと胸が締め付けられた。
「それとも嫌か?」
『―嫌ではございません!⋯ぁ、』
「ははっ、なら良かった。ではこのまま帰るとしよう。」
嫌かと問われればもちろんそんなことはないし、むしろ嬉しい⋯。
ついむきになって返事をしてしまったが、彼は気にすることなく笑ってくれた。
夕暮れ時の風はひんやりしていて火照る顔に心地よい。
沈黙が気まずくて無理やり話題を作る。
『いよいよですね。殿下の布令も、出兵も。』
「そうだな。不安か?」
『違うといえば嘘になります。不安なことは山積みですから。』
と、苦笑いするエレン。
「例えば?」
『例えば⋯、糧食の確保や、これから集まるであろう諸侯からの兵達との結束。⋯それに、』
言いかけて一度閉じた口を、ダリューンの前ならと意を決してもう一度開いた。
『⋯父、の事と兄の事⋯。』
「――⋯。」
ダリューンは、はっとする。
言葉には出さなかった二人の存在。だがエレンはずっとそのことに悩んでいたのだろう。だが優先すべきはエクバターナの奪還およびアルスラーン殿下の事、と自分なりに区切りを付けていた。
『このまま王都に責め上がれば二人と対峙することも避けられません。私は⋯、私は二人を前にして戦えるでしょうか。』
「⋯。」
すぐには答えてやれなかった。
軍師ナルサスなら良い答えをもっていただろうか。
彼女の悩みももっともだ。ルシタニア側についたというサーム殿と、銀仮面卿もといヒルメス殿下。エレンの、⋯アルフィーネ王女の兄君だ。
お互いが敵だということを知って以来、どうすることも出来ず中途半端な気持ちのまま今に至る。
「二人のことをどうしたいか、決めるのはおぬしだ。その気持ちを殿下に申し上げるといい。あの方ならおぬしの意を汲んでくださるだろう。向こうがなにを望むのかはまた別だろうがな。」
『ダリューン様⋯。そう、ですね。アルスラーン殿下なら良い方へ導いてくださる気がします。とにかく今はルシタニアを追い出さなくては、ですね。』
「あぁ。その意気だ。おぬしと肩を並べて戦える日も近いかも知れぬな。」
『――。そうなると、嬉しいです。私の長年の夢でしたから⋯。』
嬉しそうにはにかむエレンにダリューンは胸をくすぐられた。
ぐっと腕に力をこめ、なにかを堪えるように。
「エレンはすこし⋯丸くなったな。」
『はいっ!?』
「あっいやすまん!別にそういう意味で言ったわけではなくっ。」
いきなり太った、なんて言い方をされた気がした。
だがそれは彼の言葉の選び方が間違っていたのだ。
ダリューンはエレンに対し、性格が穏やかというか表情豊かになったということ言いたかったのだ。
それが間違って“丸くなった”などとという言葉を選んでしまい、自爆。
「なんならもう少し⋯、」
肉付きが良いほうが。と言いそうになってやめた。
更に彼女を怒らせてしまいそうだからだ。
ギーヴのように警戒されてしまっては悲しい。
じとっとした視線でこちらを見つめるエレンに気まずい顔になるダリューン。だがそれもふいっと逸らされてしまい。
『⋯ダリューン様はもうすこし“女心”というものを学んでくださいまし。』
と言われたのだった。
「――⋯努力しよう。」
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