第20章
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エレンが席に着くと、待ってましたかのように意義を唱える声が上がった。
「殿下!これはどういうことでしょうか。女が神聖なる軍議の間に立ち入るなど前代未聞ですぞ!」
「おぬしの言い分はわかる。だがエレンは私が正式にナルサス卿の補佐官にと任命したのだ。」
「しかしですな!あの者は以前、この軍議の間に立ち入ることを許されなかった者ですぞ!」
そうだそうだ、とはっきりと口にはしないものの言い出した官吏の言葉に賛同するものがちらほら。
収まらぬ軍議の間にそろそろか、とタイミングを見計らっていたエレンが口を開いた。
「ここはおぬしのような“若い娘”が気軽に出入りしていい場所ではないぞ!」
『――“戯言”はお済みでしょうか。』
女が軍議の間にいることを戯言と言われ、カチンと来たのか。その矛先をエレンに向けた。
しかしその視線にも怯むことはなく堂々と言い返すエレン。
『私はあなた方と下品な言い争いをするためにここへ来たのではありません。』
「⋯なんだと?いくら万騎長サーム殿の令嬢とはいえ⋯、」
『今ここで父の名は関係無いのではありませんか?ここにいない人の名を使うなど卑怯者がする手でございます。』
「⋯。」
本人に言われてしまえば反論は出来ない。つい押し黙る官吏達にエレンはしてやったりと心の中でガッツポーズする。
『私はアルスラーン殿下、ならびにナルサス卿の補佐官として任務を遂行しに来ただけでございます。それでも納得いかぬと仰るのでしたら、⋯私に出て行けと言う前にあなた方こそ、この軍議に参加する資格があるのかはっきりさせたほうがよいのではありませんか?』
「我々に軍議に参加する資格がない、と申すか。証拠も無しに一体何を根拠にっ――、」
とさ⋯、と数枚の書類を目の前に置いたエレン。
それは、と問う官吏達にエレンはにっこりと笑って答えた。
『ここにはあるキャラバンとの取引の記録が記入されています。これだけではありません。他にも脱税に密輸、領民の搾取まで⋯、罪状は一つや二つではないようですね。』
「な、なんのことだ!一体⋯っ!」
『あるキャラバンとの取引の記録を見てみると、⋯おかしいですね。記入されている時期にこのキャラバンはペシャワールを訪れてすらいません。一体何を取引さなれたのでしょう?』
エレンの少々演技かかった芝居のようなフリにナルサスは肩を震わせ、必死で笑いを堪えていた。
「どうせ他の商隊から依頼した物だろう。それくらい⋯、」
『この時期にペシャワールと取引をしたという記録はこのキャラバンにはございません。』
「――っ!」
とどめの笑みを彼らに向ける。しかし目だけはまるで獲物を見つけたかのように鋭さを秘めて。
『このおかしな記録を記入した者が数名。今ここで該当する方のお名前を申し上げてもよろしいのですが⋯、せっかくの軍議です。半数以上の席が空席になってしまうのは忍びないですから。ここで名を申し上げるのは控えておきましょう。』
ぐうの音もでないとはまさにこのこと。
彼女の雄弁さにダリューンもキシュワードも、アルスラーンでさえぽかんと彼女を見つめていた。
『さて、どうします?私と一緒に退席なさいます?それともこのまま軍議を再開しますか?』
それ以上官吏達からの意義はなくなった。
お互い顔を見合わせ、どうしたものかとひそひそと声が聞こえてくるが。
侍女扱いされたことへの仕返しができたことにエレンは胸中で歓喜を上げる。
『あぁ、言い忘れてましたがこの報告書はすでにキシュワード様に提出済みですので、後日きちんと調査をお受けくださいませ。』
「⋯っ、」
その言葉にちらっとキシュワードに視線を送ると不正という言葉が許せない彼の般若のごとく険しい顔と目があった官吏達だった。
彼らの怯えた様子にエレンはくすっと笑う。
『ご安心ください。正直にお話になった方には良い事が起こるかもしれませんよ?』
官吏達は震え上がった表情を緩ませた。
さて、どう解釈したことだろう。
こうしてエレンが軍議に参加することを誰も意義を唱えるものはいなくなった。
ようやく彼女の本分が発揮されたのだった――。
第20章・完 2025/10/16.